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 受付の女の子の終了宣言に僕達はお礼を言ってギルドを出た。


 …………


 というわけで無事スキルセットを終えた僕達は一路宿へと向かっていた。

 ギルドで色々やっているうちに日は沈み、街灯が照らして明るくなった夜道を歩く。


(今日の内に依頼を四つ済ませる事ができたし、明日は依頼を諦めてスキルのテストに時間を割いてもいいかもしれないな……)

 などと考える。


 今回のように不意にモンスターに襲われる可能性を考えるならスキルに慣れておいた方がいい。明日は依頼を受けるのを止めて午前中は魔法の講習、昼からはスキルのテストって感じでいいかもしれない。


 依頼も残り一つを三日で済ませればいいわけだし今の状態なら少し余裕もある。


(よし、決まりだな)


 と、明日の予定が決まった瞬間、視界の隅に何かがひっかかる。


「ん、あれは」

「あいつは!」


 そう、路地裏の前を通ったときにヒルカワが見えたのだ。


 それを僕と同時に気付いたコロも驚きの表情を見せる。

 僕達は物影から頭だけひょっこり出して路地裏を覗き込む。



「おい、テメエ。ちょっと跳んでみろよ。ほれ、ジャンプすんだよぉお! ゲヒャヒャッ」

「ヒィッ! お許しを」


 どうやらヒルカワは商人風の中年男性にその場でジャンプしろと脅しているようだった。中年男性は怯えきった表情でピョンピョンと跳んでみせる。



「あっれぇ? おっかしいなぁ。なんで金の音がしねえんだぁ?」


「この町へ来る途中に盗賊に襲われて有り金全部取られてしまったんです。大口の商談があったので金貨三十枚を持ち歩いていましたが今は本当にないんです! 許してくださいぃぃ」


「嘘が下手だなぁ、本当に襲われたんなら場所を行ってみろ! ちゃんと跳べやオラアアッ!」

「ヒッ、ヒィィイイイッ! スッゲタッカ山の側で盗られました! 本当に無一文なんです、お助けぇえ!」


 今にも泣き出しそうな表情で山を指さしながらピョンピョンする商人風の中年男性。


「あいつーーっ!!!」

 そんな二人の様子を見て怒り心頭のコロ。

 犬歯をむき出しにしてグルルッと吼える。


「なんだぁ? 本当に持ってねぇみたいだな。じゃあ親切な俺がテメエに金を貸してやるよぉ。ゲヒャヒャヒャッ」

「え?」


「ほれ、金貨三十枚だ。ただしぃ、利息は十日で五割だぁ! 良かったなぁ? ゲヒャヒャ」

「か、借りません! そんな高額な利子では返済できないじゃないですか!」


「んだとぉ? 借りるよなぁ? 借りないと殺すぞオラアアアアッ!」

「ヒ、ヒィイイイイイッッッ!」


 そしてヒルカワは商人風の中年男性に無理矢理金を受け取らせる。

 しかし借金の利息は暴利と表現するに充分なレベルだった。



「もう我慢できないーーっ!」

 限界を迎えたコロが飛びかかろうとする。

「待って」

 僕はそんなコロの肩を掴んで止める。


「返済期限は一万年後だぁ! 確実に取り立てに来るから準備しておけよぉ? 期限になったら一体いくらになっているんだろうなぁああっ! ゲヒャヒャッ」

「ヒ、ヒィイイイッ」


「おっと、俺は借用書は書かない質なんだ。テメエがしっかり覚えておけよぉ? じゃあなぁっ! お前の人生もこれで終わりだぁっ! ゲヒャヒャッ」

「ヒイイィ!」

 などと言いながらヒルカワは商人風の中年男性の肩を優しく叩くと雑踏の中へと消えていくのだった。



「行こうか」

「わふっ」


 全てを見届けた僕はコロの肩を掴んでいた手を放して宿屋へと向かうのだった。


 …………


 僕達が宿へと帰り着き、深い眠りについた頃、扉が激しくノックされる。


 ――ドン! ドン! ドドン! ドン!


 と、まるで台風でも直撃したのかと思うほど乱暴なノックのしかただった。

 しかもこんな夜更けに……。


(一体誰だろう……)

 僕はコロを起こさないようにゆっくりと引き放すと扉の方へと向かう。


「……誰ですか、こんな夜中に」


 扉を少しだけ開いて外の様子を窺う。

 すると……。


「こ、この部屋だと聞いたんですっ!」


 そこにはえらく焦った表情のリリアンナさんがいた。

 その表情は妙に焦燥した顔で落ち着きがなく、目線も定まらずチラチラと左右を繰り返し見ていた。

 元がモデルみたいな顔つきなので焦った顔も絵になるな、などとちょっと不謹慎なことを考えてしまう。


「リリアンナさん? どうしたんですか!?」

 こんな夜中に訪ねて来るぐらいだからきっと不測の事態が起こったに違いない。


「……アレを譲ってください! お金ならあります!」

「アレ?」

 だがリリアンナさんが話す内容に思い当たる節がなく、首を傾げてしまう。


「し、塩ですっ! 頼むからアレを譲ってください!」

「は、はあ。わかりました」


 リリアンナさんは畳み掛けるように話し、空の皮袋を突き出してきた。

 その迫力に気圧された僕は言われるがままに皮袋に塩を注ぐ。


「ああ……、塩がこんなに……。い、いくらですか!?」


 リリアンナさんは塩が注がれる様を見てうっとりしたと思ったら僕の胸倉を掴んで値段を聞いてくる。


「えぇっと……」

 僕は店主のクッコさんと取引している額を咄嗟に答えた。

 するとリリアンナさんはその金額を僕の掌へ強引に握りこませてくる。


 僕はリリアンナさんの手に触れてドキリとしてしまう。

 とても冒険者をやっているとは思えないほど綺麗で華奢な手だった。


「わ、渡しましたからね! では失礼しますっ」


 僕にお金を渡したリリアンナさんは塩の詰まった皮袋を大切そうに抱きしめると、ぴゅーっと小走りにその場を去った。


「な、なんだったんだ……」


 あっという間の出来事に僕は言葉を失う。

 だが、すぐに眠気が襲ってきたので考えるのをやめてベッドに戻った。



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