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 そして――


 ――次の瞬間、気が付くと何もない真っ白な部屋に立っていた。


 良く見ると端っこの方にガスマスクを被った連中も見える。

 男達はガスマスクを外すと放心したような顔付きで辺りを見回していた。


 見回していたのはガスマスクの男達だけではない。

 その場に居た全員が現状を把握しようと周囲を見渡していた。

 当然僕もきょろきょろと視線をさまよわせる。


「一体ここは……」


 何度辺りを見回しても何もない。

 真っ白だ。


 他の皆も呆然とし、一言も発していない。


 全員が無言で立ち尽くす中、前方に光の柱が現れる。


 あまりの眩さに僕は手で目元を覆う。

 光が消えた瞬間、恐る恐る手を放す。

 するとそこにはこの世の物とは思えないほど美しい女性が宙に浮いていた。


『選ばれし者達よ、よく来ました』

 まるで直接頭の中に話しかけられているのではと錯覚するほど澄み切った声が響く。


『あなた達はこれから異能を授かり、異世界へと旅立ってもらいます』

 声は続く。


『そしてあなたたちには異世界で発生したひずみを浄化してもらいます』

 こちらに質問の間など与えず延々と話し続ける。


『深く考える必要はありません。異能を使えば使うほど、世界は浄化されます。また、世界全体を浄化してもらうため、皆同じ場所へは送りません』

 話は終盤に差し掛かる。


『邪悪な者を打ち倒せば更に浄化は進みますがそこまでは望みません。あなたたちが異世界に降り立つだけで問題ないのです。それでは一人ずつ歩み出なさい。異能を授けます。異能以外の能力に関してはステータスオープンと心の中で呟けばある程度わかるようにしておきました』


 なんとも強引な話のはずなのに怒りも湧かず、疑問も感じない。


 僕達は透き通る声に誘われるようにして一人ずつ前へ出て異能を授かってゆく。


 ――私は火魔法だって。

 ――俺は槍術だな。


 異能を授かったクラスメイトはまるで洗脳が解けたかのように気軽な調子で雑談に興じていた。


 だが、それでも違和感がある。

 皆に動揺が見られないのだ。

 こんな異常な事態なのにまるで自室で寛いでいるかのような表情で会話に興じている。



 ――ゲヒャヒャッ! これでやりたい放題だぜぇええっ!



 そんな中、独特な笑い声が木霊する。


 声の主は見なくても分かる……。


 彼の名前は蛭皮。

 パンチパーマに剃り込みというヘアスタイルの持ち主だ。

 クラスでも問題行動が目立ち、ことあるごとに口汚い言葉で挑発を繰り返す典型的な不良である。


 ――別によぉ、これで何したっていいんだろぉお? ゲヒャヒャッ。


 心底嬉しそうに笑う蛭皮。

 それと同時に蛭皮に皆の視線が集中し、自然と静かになっていく。


 そんな中、順番が来た聖谷が前へ出る。


『そなたの異能は【善技】、そして【聖技】の二つです』


 ――すっげ、聖谷の奴、異能を二つも貰ってるぜ。

 ――ゼンギとセイギだって! さすが聖谷君ね。


 などと賞賛の声が上がる。

 さっきまでの静けさがウソのようだ。

 やはり持っている人は違うなと実感してしまう。


 その後も列ははけていき、ついに僕の番が来た。

 僕はゴクリと喉を鳴らすと一歩前に踏み出す。


『あなたの異能は【シオ】です』

 透き通る声が僕にそう告げる。


 どうやら僕の異能は【塩】らしい。

 そんな僕の姿を見てヒソヒソと笑い声が辺りに響く。


 ――プッ、おい、聞いたか今の?

 ――塩ってなに? おかしくない?

 ――フフッ、汗でも固めるんじゃないの?


 皆は僕の異能が【塩】だったのが面白くて仕方がないようだった。

 だが僕は内心喜んでいた。【塩】、なんて使い道のありそうな異能なんだ。


 そんな状況の中、ガスマスクの連中も異能を授かり、全員の受け取りが終わる。


『それでは健闘を祈ります』

 女性の短い言葉と共に見えない力で強制的にまぶたが閉じられる。


 ――そして、次に目を開けるとそこは森だった。


「いきなりだったな……」

 ヘリが衝突したと思ったら白い部屋にいて異能を授かった上に異世界に飛ばされる……。

 ほんの数分ですごい体験をしてしまった。



 どうやらあっという間に異世界へ飛ばされたようだ。



 自分の状態を確認してみるも服装が異世界の文化に合わせた物に変わるとかそういうサービスはなかった。


 今持っている物はサイフとハンカチのみでバスに乗っていたときと同じだ。バスの中ではスマホを座席の前の網籠に入れていたので手元になかった。まあ、あっても通話も充電も出来ないし意味はないだろう。


「あ、しまったなぁ……」


 スマホはどうでもよかったのだがつけていたストラップまでバスの中に置き去りになってしまった事に気づく。あのストラップはずっと使ってきたお守りの様な物だったためにこちらの世界に持ってこれなかったことが悔やまれる。


 こんな事を話せばバカにされそうだけどテストなんかの重要な場面ではいつも持って行っていてずっと長く使ってきた物だっただけにちょっと落ち込んでしまったのだ。

 本当に大事にしてたんだよね。


(とりあえず現状確認だ。確かステータスオープンだったっけ?)

 僕は白い部屋にいた女性が言っていたことを早速試してみる。


 すると――



 しおざわ そると LV1


 ちから 100

 まどう 100

 からだ 100

 はやさ 100


 いのう SIO


 いせかいご

 かんいかんてい

 あいてむぼっくす


 ――ホログラムのように透過した画面が中空に表示される。



「ふむ、ゲームみたいだな」

 というのが率直な感想だった。


 能力値が一〇〇あるが高いのだろうか。

 その辺りはよくわからない。


 試しにアイテムボックスの欄を指で触れてみるとピコーン! と軽快な音がし、【何も入っていません。何か入れますか? Y/N】という表示が現れた。


「へぇ」

 触ってみると何故かは知らないが直感的に使い方が分かる。分かってしまう。

 ちょっと怖い感覚だったが何も分からず右往左往するよりはマシだろう。


(大体わかったし、とりあえず森から出るか……)


 そう考え、どちらへ向かおうかと辺りを見回した瞬間、茂みから物音が聞こえる。僕が振り向くとそこにはゼリー状の半球体がもぞもぞと動いていた。


「もしかしてスライムってやつか?」

 僕はゼリー状の物体を見て印象だけでそう考えた。


 スライム、ゲームでは序盤のモンスターとしてよく出てくる存在だ。


(ステータスオープン)

 僕はすかさずステータスを開き、【かんいかんてい】の項目をタッチしてみる。


 するとピコーン! という軽快な音と共にゼリー状の物体にカーソルが表示され【もんすたー。ひとをおそう】という無味乾燥な説明文が現れた。


 名前はわからなかったがどうやらモンスターで間違いないようだ。

 外見的特徴からして多分スライムなんだろう。


 が、それよりも……。


(ひ、人を襲うってやばいじゃないか!)



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