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「ん?」

 と、森から出ようとしていたその時、どこからともなく声が聞こえてくる。


 少し遠いところから聞こえるせいか内容はわからなかったが女性の声だというのはわかった。声の調子から悲鳴というわけでもないが焦っている感じが伝わってくる。


「あっちかな……、ちょっと様子を見に行ってみようか」

「わかりましたっ」


 声が気になった僕はコロと連れ立って声が聞こえた方へと向かった。

 そして声の近くまで行くと木陰に隠れて様子を窺う。


 すると――


「クッ、この姫騎士リリアンナ、オークなどに遅れはとりません! セイッ!」


 リリアンナさんがモンスターに囲まれていた。



 どうやらそのモンスターはオークというらしい。


 オークはかなりの巨体で豚のような頭部をした人型のモンスターだった。

 その手には鉈や棍棒といった凶悪な武器が握られており、話し合いで解決できる雰囲気はない。


 豚人族とかいれば間違うかもと思うかもしれないが町の人たちとは違う部分がいくつかある。まず肌の色が緑色だった。街の人は獣的外見の人も少なくないが肌の色は人のそれと変わらない。そしてオークは言葉を話せない。オーク達は動物の鳴き声のようなものは発するが言葉は一切喋らなかった。


 だが何よりもオークがモンスターだと判別できる理由は直感だ。


 あの姿が視界に入った瞬間に感じる嫌悪感。スライムのときもそうだったが言葉では言い表せない妙な感覚がある。森の中では鳥や小動物を見かけることもあったがその時は何も感じなかった。モンスターから発せられる独特の気配、それが見分ける術なのだろう。


「ご主人様! あの人!」


 コロが驚いた表情でリリアンナさんを指差す。


「うん、さっきギルドで会った人だよ。……なんとか手助けしたいな」

 僕はコロに答えつつ、様子を窺う。


 相手は四体でリリアンナさんは一人。


 それでもオーク四体相手にうまく立ち回れているのが素人の僕にでもなんとなくわかる。


 しかし、四対一というのはさすがに辛いようでジリジリと押されている状態ではある。全てのオークに手傷を負わせることに成功はしていたがリリアンナさんも無傷というわけではない。肩やお腹に切り傷のようなものが散見できる。



(……颯爽と駆けつけたいところだけど僕達が行っても足手まといになってしまう可能性もある)


 すぐにでも助けに行きたいが僕たちで役に立てるだろうか。


 僕とコロが倒してきたのは今までスライムだけだ。


 しかも正攻法ではなく塩を振るだけという楽々戦法だ。

 あんな人型のモンスターと正対してうまく戦える自信がない。


 となると正面から加勢するより、不意打ち気味に攻撃した方がいいかもしれない。幸いオークたちはこちらに気付いておらず目の前のリリアンナさんに集中している。


 今ならうまく背後を取れる可能性が高い。


 などと考えているうちにリリアンナさんがオークから攻撃を貰ってしまい、膝を突いた。


 あれはまずい!


「コロ! 後ろに回って攻撃するよ!」

「はいっ」


 僕はコロに指示を出すと木陰から飛び出し、オークの背後へ向かって走る。


 リリアンナさんとオーク達に気づかれずに無事背後へと到着すると安物の剣で一気に突き掛かった。それにコロも続く。



「と、とりゃーっ!」

「わん!」


 へっぴり腰で放った僕の一撃は意外にもオークの背を貫き、致命傷を負わせる。

 そして、コロの方も同様にオークの背後から胸を貫く事に成功していた。


「君達は!」

 そこで僕達に気付くリリアンナさん。


「加勢します!」

「頑張って!」

 リリアンナさんに返事をしつつ、次のオークへと斬りかかろうとする。

 だが、突き刺した剣を抜いたところでポッキリと折れてしまう。


「え?」


 僕が呆然とする中、コロはその間にもう一体に斬りかかり、倒してしまう。

 背後からの奇襲はなんとか成功し、残り一体となった形だ。


「グオオオオオッ!」

 だが、残された最後のオークがこちらへと振り返り、折れた剣を見て立ち尽くす僕へ向けて棍棒を振り下ろしてきた。



「う、うわああっ!」


「ご主人様ーッッ!」


 殺意がこもったオークの顔を正面から見て、立ちすくんでしまう僕。


 完全に出遅れてしまった僕には腕を前に出して顔を隠すのが精一杯だった。

 そんな僕を見たコロの絶叫が木霊する。


 だが――


「あれ?」


 ――棍棒が当たったはずなのに痛みを感じなかった。



 驚いて閉ざしてしまったまぶたを恐る恐る開くと棍棒は確かに腕に当たっていた。だが、完全に押し止めていて、オークが歯を食いしばりながら力を込めているのがわかる。



「お、おりゃーっ!」


 僕は振り下ろされた棍棒を掴んで引き寄せるとオークの腹を思い切り殴った。


 するとブチブチっと何かがつぶれる音を発しながら拳が腹の奥深くへとめり込む。それと同時にオークの力が弱まったので、すかさず棍棒を奪い取って頭を殴った。


 そんな棍棒での一撃が致命傷となり、完全に息絶えるオーク。


「……ふぅ」

 オークの死体を前に体の緊張が解ける。


「だ、大丈夫ですか! ケガは!?」

 僕が脱力するのと同時に飛びついてくるコロ。


「うん、大丈夫みたい。ほら、何ともないよ?」


 僕はオークの攻撃を受けた腕をコロに見せる。

 腕は腫れ一つなく、本当に攻撃を受けたのか疑わしいくらいだった。


「ありがとう……、助かりました」

 そこへ負傷したリリアンナさんも合流してくる。

 リリアンナさんが無事だった事に安堵した瞬間、何ともいえない気持ち悪さが僕を襲う。


「うぅ……」

 吐きそうになり、慌てて口元を覆う。


「ご主人様!?」

 コロは僕を支えてくれながら心配そうなまなざしを向けてくる。


 気持ち悪さの原因はわかっている。


 オークを殺した事が原因だ。


 いくらモンスターとはいえ人型のそれを殺したという感覚は凄まじい衝撃だった。はじめは興奮状態だったが落ち着いてくると何ともいえない感覚が全身を支配する。


 そして血を流して横たわるオーク達が視界に入ると更にその感覚が増してくる。

 生気が失われ、物と化したそれらを目にすると今まで感じたことのない気持ちが湧き上がってくる。



 僕は落ち着くために指先から塩を出してペロリと舐めた。


 すると気持ち悪さは一蹴され、何ごともなかったかのように気分がスッキリとする。





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