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受付のお姉さんは僕達からスライムの核を受け取ると奥へと一旦引っ込んだ。
しばらくすると戻ってくるがその表情は驚いているように見えた。
「あなたたちが持ってきた核の品質がすごいらしいわぁ。中々ない品質らしいわよ? ちょっと平均報酬より高いけど驚かないでねぇ」
と言いながら報酬金額を僕達に渡してくれる。
確認してみると討伐報酬にいつも通りの買取価格がプラスされていた。
特に素材買取のカウンターより買取価格が低いというわけではないようだ。
僕はその事に胸を撫で下ろしながら受付のお姉さんに質問する。
「あの、このままもう一度スライムの依頼を受けてもいいですか?」
まだ資格剥奪まで日数があったがなるべくならさっさとボーダーラインは超えておきたい。スライムの核はまだまだストックがあるのでこのまま五回分の依頼をこなしてしまった方がいいだろうと考えたのだ。
「いいけどぉ。研修期間中に受ける五度の依頼は同じものだと一度とカウントされるわよぉ? 五回って書いてあるけど五種だからねぇ。そうじゃないと経験を積めないでしょ?」
「え、そうなんですか?」
「そうよぉ。だから急いで今日中に一回は受けなさいって言ったのよ?」
「な、なるほど」
「後、四種頑張りなさぁい」
「はい、ありがとうございました」
どうやら受付のお姉さんの話では同じ依頼を五回こなしても一回とカウントされてしまうようだ。研修という名目だし色々と経験を積むためには同じものをこなしても意味がないという判断なのだろう。
「後よっつですね」
受付から戻ってきた僕にコロが笑顔で声をかけてくれる。
「うん。まだ日が暮れるまでに大分時間があるし、さっきコロが探してきてくれた依頼の中からもう一つ行こうか」
「はいっ!」
スライム討伐の依頼はギルド内で済ませる事に成功したのでまだ時間には余裕があった。
ここはもう一つ依頼を受けておきたいところだ。
残りは薬草の採取かキノコの採取となる。
「どっちがいいかなぁ……」
薬草にキノコ、どちらもお目にかかったことがない。
外見の特徴や採取のコツなんかは受付のお姉さんに聞けばわかるかもしれないが中々難しそうだ。
かといって他のモンスターの討伐に行くのはちょっと怖い。
スライムは弱点をつけるため楽勝だがそれ以外となると塩は通用しないだろうし苦戦しそうだからだ。
「どっちも受けましょう! わふっ!」
するとコロが耳をぴこぴこさせながら両方受けようと言ってくる。
「え? でも難しそうだよ?」
キノコといってもマツタケ狩りくらいの難易度だったら詰みそうなんだけど大丈夫だろうか。
「コロ、よく山でキノコも薬草も採ってました! 大丈夫ですっ!」
えっへんといった感じで得意気な表情をするコロ。
「おお! じゃあ、両方受けてみようか」
こいつは頼もしい。
依頼は指定された期限以内に達成できないと失敗扱いとなり、違約金が発生する。
金額的には微々たるものだが、だからといってバンバン失敗するわけにもいかない。そういう意味でもこれはありがたい。
コロが輝いて見える。
「お任せ下さいっ! ご主人様のお役に立って見せますわん」
ふんすと鼻を鳴らすコロ。絶好調である。
「うん、期待してるよ。じゃあ、依頼を受けにいこうか」
「はいっ!」
僕達は採取依頼の紙を持って受付へと向かうのだった。
…………
と、いうわけで薬草採取とキノコ採取の依頼をそれぞれ二人分受けた僕達はいつも通りスライムの森へと来ていた。
「どう? 見つかりそう?」
僕は前方で屈み込んでいるコロへ声をかける。
コロは森へ入るや否や、木の側に行っては屈み込むという動作を繰り返していた。
お尻を突き出すようにして屈む仕草はふりふりと動く尻尾が強調されてちょっとかわいい。
「ご主人様っ!」
僕を呼ぶ声と共に勢いよく振り返ったコロの両手には山盛りの薬草があった。
というか木の側に行く度にコソコソと何かを隠しているのはわかっていた。
きっと一度に沢山見せて驚かせたかったのだろう。
ぱたぱたと僕へ近寄ってきてじっと見つめてくるコロの顔からは頭を撫でてほしいオーラが眩いばかりに発せられていた。
「やったね! コロ」
僕はコロの頭をわしわしと撫でる。
「わふっ」
するとコロの尻尾がブンブンとすごい速度で振れる。
満面の笑みを浮かべるコロを見ているとこっちも自然と嬉しくなってしまう。
「じゃあ、薬草を預かっておくね。次はキノコだっけ」
僕はコロから薬草を受け取るとアイテムボックスへしまいこむ。
薬草採取の依頼は薬草の品種が固定されていたがキノコ採取の依頼は違う。
数種類ある中から合計五個持ち帰ればいいようになっていた。
多分キノコは薬草より採取する難易度が高くて同種を五個見つけるのが難しいのだろう。
指定されていたキノコは魔力マッシュルーム、辛シイタケ、火炎マイタケ、水タケ、痺れシメジの五つだ。どれも食用ではなく薬などに使う物らしい。
「ムッフッフ……」
僕が依頼のキノコについて思い出しているとコロから不敵な忍び笑いが聞こえてくる。
「コロ?」
何ごとかとコロを覗き込む。
「抜かりありませんわん!」
するとコロはこれまた両手一杯にキノコを広げて見せた。
「おお!」
「近所の薬屋のおばあちゃんに売りにいくためによく採っていたのですわん」
ふっふ〜ん! といった感じでドヤ顔を決めるコロ。
犬人族なのに今のコロの口元はωみたいなネコっぽい感じになっていた。
「すごいよコロ! これで依頼達成だね」
「お役に立ててコロも嬉しいです」
驚く僕にはにかんだ笑顔を返してくれるコロ。
採ってきてくれたキノコも受け取り、つぶれてしまわないようにアイテムボックスへそっとしまいこむ。
「あっさり片付いちゃったけど一旦戻ろっか」
「はい!」
今回の採取依頼はコロの大活躍によって一気に解決できた。
これで五種の内三つを片付けた事になる。
あと二つ。
とても幸先いい感じだ。
まだ日にちには余裕があるし、なんとかなりそうな感じがしてきた。
僕たちはニコニコ顔で森の出口を目指す。
「ん?」
と、森から出ようとしていたその時、どこからともなく声が聞こえてくる。




