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「僕が食い止める。コロが逃げるんだ! 命令だ! 町まで走るんだ!」
と、コロの前に立ち、指示を出す。
「嫌ですっ! 一人にしないでっ!」
が、コロは僕の背にすがりついてくる。
「は、早く逃げて! お願いだから!」
「一緒にいますっ!」
言い争う間もスライムは凄まじいスピードでこちらへと迫ってくる。
ここまでくるとコロが走って逃げても、もはや逃げ切れる可能性は低い。
なんとか、なんとかしないとダメだ。
(クソッ! 塩だ。大量の塩を出すしかない!)
結局僕にできる事といったら塩しかない。
つまりあの巨体を覆うほどの塩を一気に放出してしぼませるしかないのだ。
「くっそおおおおおおおおっ!」
僕は両手を前に突き出し、構えを取る。
巨大なスライムが目の前に迫る。
「しーおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおしおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉお! うわああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!」
僕は絶叫と共にありったけの塩を出そうと念じた。
すると両手が真っ白になったと思った次の瞬間――。
ドッパアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ! と巨音を上げて塩の大波が発生する。
塩の津波は巨大なスライムを包み込むようにして押し返す。
塩はとどまることを知らず、延々と放出され続け、森の一角を真っ白に染め上げる。
異能の限界がきたのか意識が朦朧とした瞬間、塩の放出もおさまった。
「ハァハァ……、やったか……?」
眼前は木の高さまで雪が積もったようになり、何もわからない。
ステータスを開いて確認してみるとモンスターを倒したこととレベルが上がったことが示されていた。
肝心のステータスの方はといえば……
しおざわ そると LV40
ちから 4000
まどう 4000
からだ 4000
はやさ 4000
いのう SIO
いせかいごほんやく
かんいかんてい
あいてむぼっくす
「へ?」
爆上がりである。
どうやらさっきの巨大スライムを倒す事に成功したようだ。
そしてそれを倒した影響で一気にレベルアップしてしまったのだろう。
「ご主人様――っ!」
僕が放心状態で固まる中、コロがぎゅっとしがみついてくる。
「もう大丈夫だから」
そんなコロの頭を撫でながら安心させる。
コロは僕にしがみついたままずっと指示に従わなかったことを謝り続けていた。
もういいよと優しく声をかけると、恐る恐るといった感じで見上げてくる。
「今のはしょうがないよ。コロの気持ちもわかるからね」
と笑いかける。
僕が逆の立場だったとしても相手を見捨てて逃げるのは迷うだろう。
きっと今のコロなら尚更だ。
(しかし、なんとか倒せることもわかったし、次からは大丈夫だな)
レベルも上がったし同じ相手が来ても次からはもっと楽に対処できるはずだ。
が、問題もある。
「これ、どうするかな……」
僕達の目の前には雪山かと疑うほどの塩の山が完成していた。
真っ白に染まったその場は塩が日の光を反射して微妙に眩しい。
「食べる?」
コロが首をかしげつつ聞いてくる。
「いや、さすがにこの量は……。半分くらいならいけるんだけどな」
コロと二人で手分けすればなんとか半分くらいは食べれるはずだ。
だがそれだと半分残ってしまう。
二日かければ完食できる計算になるがどうするべきか……。
ちょっと悩んでしまう。
「ぱっと消えたりしないかな……」
そう思いながら塩の山に触れてみる。
すると、塩の山がすぅっと蜃気楼のように半透明になって揺らいただかと思ったら一瞬の内に消えてしまった。
「おお……」
「消えちゃったー!」
二人で驚く。
そんな塩の山が取り除かれた僕達の眼前には巨大なスライムの核が残されていた。あの巨体におさまっていただけはあって大きさはバランスボールほどある。
「これは売れない……よな」
絶対売ったら大騒ぎになるよな、などと考えつつアイテムボックスへとしまいこむ。
「じゃあ……、コロ!」
「はい!」
「レベリングの続きをやろうか」
「わかりましたわん!」
と、いうわけで巨大なスライムという驚異を退けた僕達は再びスライム狩りをはじめるのだった。
…………
「とりあえずこんなもんかな」
【けんじんぞく。れべる15】というコロの鑑定結果を見て腕組みする僕。
「ご主人様! なんか体が軽くなった気がします!」
コロがそんな事をいいながらぴょんぴょんとジャンプしてみせる。
だめ。スカートがひらひらするからだめ、まずい、だめだって。
「う、うん。じゃあ街に帰ろうか」
「わかりましたっ!」
コロのレベルも上がったし、今から帰れば夕方には着くだろうと判断し森を後にする。のんびり歩いて帰り、町の入り口で衛兵に挨拶しながら門をくぐる。
「さて、宿に帰ってご飯にしよっか」
「わふっ、ご飯っ!」
今日はもう疲れたし夕食をとって寝たい、そう思ってコロに話すと尻尾を振って大喜びの様子。
そんなことを話しながら宿を目指していると気になるものが目の端にひっかかった。




