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(そういえば……、人のステータスってわかるのかな)
道を歩きながらそんな考えが頭をよぎる。
僕は早速ステータスウィンドウを開き、簡易鑑定の項目をタッチしながらコロを見る。
「何してるのですか?」
不思議そうな顔で見つめてくるコロ。
ウィンドウにタッチしている僕の指をコロが人差し指でちょんちょんとつついてくる。
「ん? これ見えない?」
と、ステータスウィンドウを指差してみる。
「何もないですわん?」
尻尾をクエスチョンマークにしながら首を傾げるコロ。
「そっか」
どうやらステータスウィンドウは他の人には見えないようだ。
と、改めてコロへ向けて簡易鑑定を実行してみる。
するとログに【けんじんぞく。れべる1】と表示された。
(レベルはわかるんだ)
などと納得する。どうやら名前やステータス値まではわからないようだ。
でもまあレベルが分かったのは僥倖かもしれない。
(さすがにレベル一は低いな……)
コロと指を突っつきあいながら考える。
そんな事をしているとコロのお腹がぐうっと鳴った。
「わふっ」
頬を赤らめて俯くコロ。
「はい」
と、僕は握り飯のように固めた塩をコロへ差し出しつつ、自分の分も出す。
「ご主人様〜っ!」
僕から握り飯サイズの塩を受け取ると夢中でかぶりつくコロ。
「行っこか」
「わん!」
僕はそんなコロの手を引きながら自分も握り飯サイズの塩をパクつきながら森を目指した。
…………
「パワーレベリング的なことでもやってみるか……」
森へと到着し、適当にスライムを狩り、充分な核を手に入れた僕はそんな呟きを漏らした。
今適当に狩っただけでもレベルが二三になってしまった……。
そして戦闘に参加していないコロのレベルもなぜか三に上昇していた。
もしかしてパーティを組んでいる者には自動的に経験値が入るのだろうか。
これも異能と同じでこちらへ来た者だけに振る舞われる恩恵的なものかもしれない。そうでないとコロが今までレベル一だったことに説明がつかない。
「れべりんぐって何ですか? ご主人様」
ずっと僕の後ろに着いて来るだけで暇そうにしていたコロが聞いてくる。
「ん〜、僕がモンスターを弱らせてコロに止めを刺してもらうことかな」
「頑張りますわん!」
「お、やる気だね」
「わふっ」
凛々しい顔をして鼻を鳴らすコロ。
「じゃあ、スライムを探すか」
「はい!」
二人で笑顔を交わしながらスライムを探すことにする。
しばらくするとおあつらえ向きに一匹で行動するスライムを発見した。
「よし、じゃあこれ持って」
と、コロに安物の剣を渡す。
「は、はい!」
剣を受け取り、ちょっと緊張した表情を見せるコロ。
耳がピンと立ち、尻尾が小刻みに振れているのがわかる。
「じゃあ僕が塩を振って弱らせるから合図したら剣を核に振り下ろしてね?」
「核を切っちゃうんですか? 売れなくなりますよ?」
「うん、確実に倒しておいた方がいいからね。売る分はもうあるから気にしなくていいよ」
「はい!」
「よし、じゃあやるよ……」
僕はコロへの説明を終えるとスライムに近付き、肉を下ごしらえするような絶妙な手さばきで塩を振り掛ける。
するとスライムがゆっくりとした速度でしぼみはじめた。
段々ゼリー状の物体がなくなり、核が露わになってくる。
「コロ! 今だ!」
「わん!」
僕の合図でコロが剣を振り下ろす。
剣は見事に核に命中し軽く切り裂く事に成功する。
それと同時にスライムは完全に動かなくなった。
何もしなくても経験値が入るならとどめを差せばきっともっと経験値が入るはず。これを繰り返せばきっとコロもかなり成長するのではないだろうか。
「ん、いい感じだな。じゃあこれをしばらく続けるよ」
「わかりました、ご主人様!」
コロの気持ちの良い返事を聞き、僕は再びスライムを探しはじめるのだった。
…………
(ステータスオープンっと、で、簡易鑑定をタッチ)
しばらくスライム狩りをした後、うまくいったかをチェックするため簡易鑑定を使ってコロを見てみる。
すると【けんじんぞく。れべる5】と表示されている事を確認する。
「お、上がったな」
「上がったのですか?」
僕が呟くとウィンドウをタッチしている指をコロがちょんちょんとつついてくる。
「まあね。じゃあこの調子でいこうか」
「はい、よくわからないですけどやりますわん!」
と、狩りを再開しようとした瞬間、ズズズッと何かを引きずるような大きな音が聞こえてくる。
「ん?」
音のする方へ振り向くと大量の鳥が木々から飛び立って逃げていくのが見えた。
「ご主人様っ!」
コロが驚いた表情で指差す方向には凄まじいスピードでこちらへと接近してくる巨大なスライムの姿があった。巨大なスライムは立ち塞がる木々をバリバリと倒してこちらへ猛突進してくる。
(に、逃げ切れない!)
巨大なスライムのスピードが速すぎる。
走っても逃げきるのは難しいだろう。
あんなものに体当たりされたらひとたまりもない。
バスや電車と衝突するようなものだ。
そんな無残な結果を想像して体が固まってしまう。
「ご主人様! 逃げてーっ!」
と、コロが僕の前に立つ。
あんな巨大なスライム相手だとコロで防ぎきるのは無理だし、二人とも巻き込まれてしまうだろう。
だが、そういう事じゃない。
ここはそういうところじゃない。
前に出るのは僕。
逃がすべきはコロの方だ。
「僕が食い止める。コロが逃げるんだ! 命令だ! 町まで走るんだ!」
と、コロの前に立ち、指示を出す。




