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「ふぅ……」


 僕はバスの窓から流れる景色を見ながらため息をついた。


「大丈夫? 塩沢君」

「あ、ううん。なんでもないんだ」


 隣に座っている姫川さんが心配そうな表情で声をかけてくれる。


「いや、中々着かないなと思って」

「うん、高速道路に入ってから随分経つもんね」


「ちょっと疲れてきたな」

「私も。シートベルトしてると体があまり動かせなくて……」


「シートベルトしてるんだ?」

「あ、うん。こういうのちゃんとしないと落ち着かないタイプなの。みんなシートベルトなんてつけてないのにおかしいよね」


「ううん、そんなことないよ」

「うん……」


 などと当たり障りのない会話をする。

 そしてすぐに間が空いてしまう。



(参った……。かといって会話が弾んでしまうのもまずいんだよね)


 話題も見つからず、再度窓を見る。


 逃げ場の無いバスの中で隣はさほど話したことのない女子。


 ……かなりつらい状況だ。

 そんな辛い状況にいる僕は只今絶賛修学旅行中だったりする。


 隣に座っているのは同じクラスの姫川桃香さんだ。

 姫川さんはピンク色の髪がボリューミーにぐるぐる巻いたロングヘアーで、顔もかわいくスタイルも良いため、校内の男子からは人気が高い。


 そして胸がこれでもかってくらい大きい。

 そのせいで男子の視線はかわいい顔を飛び越えて胸元に一直線だ。


 そして姫川さんはよく転ぶ。

 何も無い所でも良く転ぶ。

 転ぶとすぐさま男子が数人駆け寄り、下心満載の笑顔で助ける。


 そんな姫川さんは女子から壮絶に人気がない。


 そんな天然っぽい部分があざとく計算高いと思われているためだ。

 本人の意図しないところで反感を買い、周りの女子と微妙な距離感になってしまっている。


 そして男子と女子両方から人気がない、というか避けられているのが僕だ。


 それは僕がクラス替え早々下着泥棒の嫌疑をかけられたためである。

 なぜかは知らないが僕の机の中に女性ものの下着が入っていたのだ。

 何度やっていないと言い張っても証拠がないと言われた。


 だが、僕が盗ったとされた下着はどう見ても新品だった。

 そのことを力説すると今度は下着を持ち歩く変態扱いにされてしまう。

 下着泥棒と変態の間を行ったり来たりだ。


 結局、僕と関われば怪しまれると考え男子は寄って来ないし、女子は気味悪がって近付かない。こちらから近付けば煙たがられる始末。はじめは色々頑張って挽回に努めたがそれが逆に罪を逃れようと必死になっていると捉えられ、今ではいないもの扱いとなっている。



 といっても皆は僕がやっていないことに薄々気づきはじめている。



 でもそうなると今度は誰が机の中に下着を入れたのかという話が再燃してしまうため、同じ出来事が再発したり新しいトラブルが起きない限りは僕がやったということにしてクラスの雰囲気が悪くなってしまうのを避けたいといった心情のようだった。


 というわけで明確な嫌がらせや暴力を受けたりはしていない。

 最低限の接触以外は避けられている。


 一応やってないという事が浸透してはいるがそれを盾に強気に振る舞えば結局クラスの空気を悪くし、乱してしまう。つまり僕が積極的に振る舞えば“空気を読めよ”といった状態になり、風当たりが強い状況に逆戻りとなってしまうのだ。


 そんなこんなで僕自身もどうしたらいいか分からず困っている。


 そんな扱いが難しい僕と姫川さんがバスの空いた席にあてがわれてしまうのも仕方がなかったのかもしれない。


 姫川さんは僕に気を使って何度か話しかけてくれる。

 だが、それに乗ってはいけない。

 姫川さんに好意を寄せる男子全員の監視網が僕を見張っているからだ。


 なるべく話さず、なるべく愛想悪く、かといって姫川さんの気分を害してしまっては男子が切れるのでそこそこ面白味のない会話を挟まなければならないのが今の状況だ。


「……ふぅ」

 そんな状況の僕が何度目かわからないため息をついた瞬間、事態が一変する。


 バリバリバリバリッッ!! と耳をつんざくような轟音が外から聞こえたのだ。

 何ごとかと窓を覗き込むとヘリが並走しているのがわかった。


 驚きながらヘリを目で追っているとあっという間に視界から消えてしまう。

 そして次の瞬間、ドンッとバスの天井に何かが落ちる音が聞こえてくる。


 ――きゃあああああああああああ!

 ――な、なんだ!


 前方の席から驚きの声が上がる。

 そちらへ視線を向けると天井が燃えていた。

 大きさは小さいが天井の一部から勢い良く炎が吹き上げていたのだ。


(バーナー!?)


 僕がそう思った瞬間、炎は天井を四角く切り裂き、はぎ取られてしまう。

 そして天井に空いた四角い穴からガスマスクを被った男達が飛び降りてきた。


「なんだ! このガキ共は!?」


 が、降りてきたのは男達の方なのに車内を見渡してなぜか驚いていた。

 驚いているのはこっちの方なんだがどういうことなんだろうか。


「おい! 観光バスを装った盗難美術品の輸送車じゃなかったのか!?」

「し、知らねえ! くそっ、ヘリまで用意したんだぞ!」


「ドラゴンの涙は!? 五〇〇〇カラットあるって言ってただろうが! こんなガキ共いくらいても何の足しにもならんぞ!?」


「チッ、面倒だ、とにかく殺せ!」

「当たり前だ、見られたんだぞ? 言われなくても殺るに決まってるだろうが!」


 などと二人で揉めはじめる。しかし、口論しながらも男達が持っていたマシンガンの銃口が座席の方へと向けられてしまう。


「タアッ!!」


 その瞬間、ガスマスクの男達へ飛びかかる人影があった。

 人影はガスマスクの男が持っていたマシンガンを奪い取り、もう一人へ向けて一切躊躇せずに発砲する。


 タタタッ、と案外小さな音共に発射された弾丸はガスマスクの男を蜂の巣にした。


「て、テメエッ!」


 驚く残された男。

 が、人影はそんな男へ向けてさらにマシンガンを発砲する。

 あっというまに蜂の巣になった男は既に倒れた男に重なるようにして崩れ、動かなくなる。


「フッ、他愛ない」


 人影はマシンガンへ息を吹きかけながらそんなセリフを言う。


 キザったらしい人影の正体は委員長の聖谷だった。

 スポーツ万能、頭脳明晰、イケメンと三拍子そろった男だ。



 ――キャー! 聖谷クーーンッ!

 ――すっげ、殺っちまいやがった。

 ――よっ! 少年H! 明日の一面はお前が独占だな!


 他のクラスメイトから感嘆の声が聞こえる中、聖谷は次の行動に出る。

 あいつは何を思ったか天井に空いた穴に手をかけ、登りだしたのだ。


「ちょ、ちょっと何やってるの! 降りなさい!」

 ここまで完全に放心状態だった担任が我に返り、聖谷を止めようとする。


「先生、あのヘリも何とかしないとまずいと思いますよ? 両サイドにミサイル積んでるみたいですし」


「そういうのは大人に任せておけばいいから降りなさい!」

「じゃ、行ってきます」


 担任の制止の声にウィンクで返した聖谷はバスの天井に立ち、マシンガンを乱射した。

 途端、火を噴き不安定な挙動を見せるヘリ。



 バリバリバリバリッ! と、お馴染みの音がバスへと一気に近付いてくる。

 それと同時に天井から聖谷が降りてくる。


「やりましたよっ!」


 キラキラとした笑顔を見せる聖谷の側面には激しく火を噴き、黒煙を上げるヘリが急接近していた。


(ミサイルって言ってたよね!?)

 僕は咄嗟に姫川さんを庇おうと覆いかぶさっていた。



 そして――


 ――次の瞬間、気が付くと何もない真っ白な部屋に立っていた。



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