蜜柑
「……はっ!?」
一体、どういうつもりなのだろう。もし仮にこれがあったとしてもこうするとは誰も思わないだろう。よくわからないが、どうやらこれは嫌がらせらしい。
確かに、普段と違って違和感はあった。しかし、多少の違和感があるだけで、気にも止めない程度。これで何をしたかったのか。とりあえず、最初に口から出た言葉。
「フードの中に蜜柑入れるとか昭和の小学生なの……?」
こんなことをするのは奴しかいない。とにかく明日、学校で問い詰めてみよう。
◆ ◆ ◆
さて今はその明日。こんなことをした奴を問い詰めようにもこういう時に限っていない。いつもなら窓際の私の席でグダッとしてるはずなのに。しかし、隣の席の友達はいつも通りな様子。
「あ、シオちゃんおはよー」
この夏の異常な暑さからだろう、普段は快活としている京香も少々参っているようだ。まだ授業が始まってないからエアコンも点いていない。窓は開いているが風はなく、たまに入ってくる風も生ぬるい風だから涼しさを感じない。机の上の砂を払い、カバンから下敷きを取り出し、ぐったりしている友達を扇いでやる。
「ありがとー。シオちゃんはいいお嫁さんになるよー」
「何言ってんのもう扇いであげないよっと」
「なーもうそんな殺生なー」
「そんなこと言うから罰よ」
そんな他愛もない会話をしながら奴を待っていた。普段ならもう来てるような時間だけどまだ来る様子はない。蜜柑のことを話すか話すまいか迷ってるうちに京香が口火をきった。
「そういえば、よーちゃんまだ来ないねー」
「来なくていいのよあんなの…」
「あれー何かいつもと違うねー。普段からシオちゃん、よーちゃんにぞんざいな態度とってるけど来なくていいなんて言ったの初めてだよー」
「そんなことないよ、いつものことでしょ?」
「いやいや、私はいつもシオちゃんを見てるからねーそれくらいは分かるよ。なにかあったの?」
言わないでおこうと一瞬思ったけれど、どうせ知られるからいいや。私は何を迷っていたのだろうか。
「いやね、昨日家に帰ったらフードの中に蜜柑が入ってたのよ。そんなことするのってようすけ位でしょ? だから問い詰めてやろうと思って」
こんなこと、なんで話すか迷ってたんだろう。こんなこと。このことを言ったとたん京香は笑い出した。
「フードに蜜柑入れるってなにそれっ。笑っちゃうよー」
「でしょ?そんなことするのって、ようすけくらいしかしないでしょ?」
「なるほどねー。よーちゃん、シオちゃんによくちょっかい出すからねー。でもよーちゃんは蜜柑を入れたりはしないと思うよー」
「そうかな、結構やりそうだと思うけど」
「蜜柑があったらよーちゃん、フードになんて入れずに食べちゃうと思うよー」
「ま、まあそうかも」
確かに、私でも食べてしまうと思う。
「それでその蜜柑、どうしたの?」
「家に置いてきたけど…なんで?」
「シオちゃんその蜜柑、食べちゃったかと思ったからー」
「なによそれ」
2人で笑いあい、また別の話をして時間を過ごしていると、チャイムが鳴った。結局、ようすけは来なかった。
◆ ◆ ◆
今日一日、最後までようすけは学校に来なかった。当然、蜜柑のことも聞けない。でも一日過ごすと蜜柑の事などどうでもよくなってきていた。深く考えることもない、ただ些末なことだった。
家に着き、机に置いておいた蜜柑を窓から投げた。
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