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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

陰陽師だけど妖に憑かれて困ってる

昔話をいたしましょう

作者: お酢。

昔話をいたしましょう。

え?唐突だって?いやいや。ここは一つ暇潰しの一環だと思って耳を傾けてくださいな。どちらの、と言われればそれはまあ、こちらのなんですがね。まあ面白いか面白くないかで言われれば後者かもしれないですが。それはさておき、ではさっそく。

昔々あるところに、とある鬼使いの一族がありました。まあ鬼使いとは読んで字のごとく、鬼を使役する者のことです。本当にいたのかって?さて、どうだか。でもそういった者達がいてもいいじゃありませんか。こんなに広い世の中ですし、いたっておかしくありませんよ。もしかしたら案外、今もすぐそばにいるかもしれませんしね。ああそんな怪しむような顔をしないでくださいな。あくまで、の話ですよ。想像は膨らませたところで楽しいだけで害なしです。しかしこの鬼使いっていうのは人間ながらにして鬼を使役するっていうんですから、それこそ鬼より強い力を有しているに違いありません。いや、有していなければ鬼など使役できるはずがありませんね。まあ、そんな力があったら鬼を使役していなくとも、もはや普通とは呼べませんけど。というより畏怖の対象である鬼を使役しようって考え自体がまず普通じゃありませんよね。そんな考えにいたりませんよね、普通。おかしなことです。なんだか脱線してきましたね。さて話を戻しますよ。でもそのとある鬼使いの一族は普通じゃない中でもいっそう普通じゃなかったんです。異質の中の異質。何がと言われれば、それはまあ簡単に言ってしまえばなんですが。その鬼使いの一族―――勿論鬼を使役しますが―――なんと当主様が鬼だったんです。ええ、鬼。彼ら鬼使いが使役する鬼です。おかしいでしょう?使役される側が、使役する側の頭なんて。いったい全体どうなっているんだ、と思われたでしょう?少しは興味がでましたか?まあそう急かさずに。ちゃあんと話しはますって。当主様が鬼といったって、勿論最初からそうだった訳じゃありませんよ。まさか鬼に乗っ取られただとか、鬼使いの中でも最強を謳われていたこの一族ではありえません。この鬼使いの一族、いや、こういった側の者達というのは力がものを言います。弱肉強食。実力主義。そうでなくては生きていけませんからね。勿論この鬼使いの一族も例にも漏れず当てはまります。というより当てはまりすぎました。一族で弱者はいない。それがこの鬼使いの一族が最強と謳われる所以です。確かに強い力を有する者は多く生まれたでしょう。しかし必ずしも強い力を有する者ばかり生まれるはずがない。生まれる者の比率は圧倒的に前者が多いが、しかしそこには少しだけですが弱者も生まれたはずなのです。では何故この鬼使いの一族が最強を謳われるのか。わかりますか?わかりませんか?ならば教えましょう。それはですね、弱者は必要ないから消すんです。濁さずに言えば、殺すんですよ、同族が同族を。だってほら、最強を維持するには弱いとは無縁でなければならないでしょう?弱い者はただの邪魔なだけの存在で、ごみ同然。足をひっぱられちゃあ困ります。ならばその存在、消したところで不利益など生じはしないんですよ。邪魔だから消す。必要ないから殺す。この鬼使いの一族ではそう考えられていたんです。それがどうやって当主様が鬼だってことに繋がるかって?いやはや、繋がるんですねこれが。面白いことに、これがまたどんでん返しとでもいいましょうか。実を言いますとね、この鬼の当主様、今話したように元は鬼使いの一族の中では最低の位、つまり弱者に位置する存在として生まれたんです。しかもそれがまた底辺の底辺。もはやただの人間と同じくらいですよ、力がなさすぎて。鬼を呼ぶことすらできなかった。いや、鬼を視ることすらできなかった。それまでの弱者と呼ばれ消された輩の中でも、いくら弱者と位置付けられようが、鬼を視ることはできたし最低でも鬼を呼びだすことくらいはやってのけてましたから、つまりこの当主様、もはや生まれを誤ったとでもいいましょうかね。冗談ではなく本当に。もはや泣く通り越して笑ってしまうほど。だってね、最悪なことにこの方、その時の現当主様の正統なる血筋を引いた方だったからですよ。つまりは下手をしなけりゃ次期当主様です。そういう地位に生まれたはずの方だったんです。けれど例外はない。鬼使いと呼ばれる一族に生まれなければまだマシだったでしょうに、ええ、予想通り、残業ながら、勿論消される運命にありました。当主の血筋を引いていながら力がない。こんなことそれまでなかった前代未聞の事態ですが、一族の習わしは恐ろしいですね。避けられぬ運命でした。けれど不幸か幸いか。この方は現当主の血筋だということですぐには消されませんでした。幸いなんでしょうかねえ。死刑宣告されながらも死刑執行を先伸ばしにされて、その間恐怖に怯える時間が増えるんですからやはり不幸でしょうか。それは本人にしかわかりませんがね。ともかく命は繋がったということです。けれどその間はやはり苦痛だったに違いありませんよ。何故断言できるかですか?そりゃ、ねえ。元から実力主義のこの一族の中では、弱者というだけで蔑みの対象だったんです。それに加えてこの方は現当主様の子で、しかもそれで命を延ばされた。これで蔑みやら影口やら上乗せも上乗せの、普通に考えたらとんでもない精神的苦痛です。まさか罵られて嬉しいなんてことは余程の変わり者じゃなきゃ有り得ませんし、傷つきますよ。あ、身体的暴力はなかったのかって?いやいや。言葉は簡単に吐けますからいいですが、ごみ同然の存在を傷つけるのに手間なんぞかけませんよ。面倒ですから。利口でしょう?けれどその間にもこの方もこの方で、ただ消されるのはまっぴらごめんだったようでしてねえ、ひたすら耐え抜いていたようです。そしてある時、この方は突然鬼になったんです。ええ、ええ、本当に突然に。いったいどんな秘術やら禁術に手をだしたのかはわかりませんが、鬼になったんですよ。人ではなくなった代わりに、力を手に入れたんですよ。だからといって使う側から使われる側に身を堕とした……というわけでもないんです。鬼使いにして鬼。使う側と使われる側が同一線上にあるということは、それはそれで最強なのです。なんせ鬼を使役するというのは難しくてですね、鬼が強ければ強いほど縛るのに苦労しますし、そう簡単に鬼も命令をききません。鬼も鬼で使役されることで縛られていますから本来の力を完全には出せません。縛られずに力を奮える。しかも自身の意志で。だから最強なのですよ。この突然の事態に当然鬼使いの一族は騒然となりましたよ。そりゃそうです。人が鬼に。弱者が強者に。有り得なかったはずなのに、それが起こってしまった。勿論最初はこの鬼を殺してしまうべきだという輩もいました。しかしこの鬼の前ではそんなことも言えないくらい、鬼となったそれは強かったからです。どのくらいかって?……まあ、鬼を殺してしまえといった輩な物言えなくなるくらいですよ。とはいえ幸いにして鬼となった身でも、強者となった余裕からなのか今までのことを引き合いにだすことも一族を恨むこともせず、鬼はただ当たり前のように鬼使いの一族に強者として鎮座しました。普通は恨むだろうって?そうですねえ、それが普通の感情ですね。けれどこの鬼もやはり異質の中の異質の一族の一人です。この鬼がひたすらずっと、寝ていた時も、蔑まれ傷つけられていた時も、命の危機に怯えていた時も、ただ呼吸するかのように、もしかしたら生まれた時から願っていたのはただひとつのことだったんです。

力が欲しい。

それだけです。その思いだけです。ただただ力が欲しかったんです。それがたまたま鬼になることになってしまったとしてもです。いやはや。この執念、どう考えてもやはり異質なこの鬼使いの一族だからでしょう?ともあれ誰もが認める、否、認めざるをえないこの鬼は現当主の血筋であったことから、そのまま当主の座を継ぎました。だって誰よりも強かったのですから。これを当主としないではもったいない。当主の強さとは同じく一族の強さと同等なんですよ。当主が強ければ強いほど一族は安泰なのです。かくしてこの鬼使いの一族、当主様は鬼にございました。正真正銘、鬼。鬼使いの当主が鬼。全くもっておかしな話です。さて、この鬼当主、それからどうなったと思われますか?なんでもその力で血の雨浴びまくって、孫を看取ってもまだ生き永らえたってんですから相当な化け物ですよね。いやいや、鬼ですから当たり前かもしれませんね。なんせ人じゃないですから。

最後に。どうせですからこの鬼使いの一族の名をお教えいたしましょう。当主が鬼になってから名を変えたそうですが、もしやどこかでふと見かけるやもしれませんし。その時は、ああ、そんな話もあったなあと、今回の話を思い出していただけると幸いです。

一族の名は、―――鬼頭(きとう)

鬼が頭で、そのまんま。ぱっとみただけでよおくわかる名でございます。勿論この名をつけたのは、鬼当主ですよ。

え?ところでアンタは誰だって?さあて、誰でしょうねえ。なんでこんな話するんだって?そりゃあほらあれです。最初に言ったじゃないですか。暇をもて余した、か……あ、言わせねーよですか、はい。すいません。まあそんなところです。一つ言うとするならば。


「私の名前も、キトウっていうんですよね」

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