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【番外編2】本日の料理とマカロニ虫―後編―

★グエンの下ネタのためR15指定です。苦手な方はご注意ください。

 クライスと会話している間にも、マカロニ虫が遠くへ逃げていく。

 廊下から野太い騎士たちの悲鳴が聞こえた。

 駆けつけてみれば騎士達がマカロニ虫から逃げまどっている。


 この領土にしかいない、独特の進化を遂げた魔力を持つ生き物、魔物。

 いかつい見た目の魔物ならザクザク倒すくせに、どうにもこの城の騎士たちはマカロニ虫が駄目なようだった。

 マカロニ虫は白くてぶにぶにしてて、触り心地もよくほんのりあったかい。

 多少ぬるぬるしてるけど、別に噛んだりもしてこないから、グニャグニャ曲がる麺棒くらいにおもっておけばいいのに。

 この国ウェザリオで魔物が生息するのはこのラザフォード領だけで、魔物を食べる習慣がないせいかもしれないが、屈強な男共が揃いも揃って情けないと思う。


「あんたたち、叫んでないで捕まえなさい! 無理ならこれ持ってて!」

「ちょ、姐さん! そいつを近づけないで下さいっ!」

 持ってるだけでいいと言っているのに、みんな私から逃げていく。


「おい、何遊んでるんだ」

 走って騎士達を追い掛け回していたら、グエンに出くわした。

「丁度よかった! マカロニ虫が逃げ出したの! 他の奴捕まえるから、グエンこれ持ってて!」

「あぁわかった」

 さすが隊長のグエンは肝が座ってる。

 全く躊躇ちゅうちょなく、マカロニ虫を鷲掴わしづかみにした。


「リサ、またマカロニ虫の料理なのか。嫌いじゃないが、最近多すぎる」

「しかたないでしょ。戦闘に人数を割いてるから、魔物を狩る人手が足りないの。マカロニ虫はどこでも手に入るし、大量にいるから楽なのよ」

 うんざりだという顔をするグエンにそう言えば、大きく溜息を付かれた。


「隊長、それ平気なんですか?」

「隣国のレティシアでは普通に売ってるぞ。ただし食用じゃなくて、娼婦たちが買っていく品だけどな」

 なんだかんだでグエンを盾にしながら、騎士たちが質問してくる。

 グエンはそれに答えながらも、今日もマカロニ虫かとまだ文句を言っていた。

 相当に不満らしい。


「何に使うの?」

「あぁ、それはだな……」

 尋ねれば、一瞬グエンは口を開きかけて。

 それから何か思いついたかのように、にぃっと笑みを浮かべた。


「興味あるのか、リサ?」

「う、うん?」

 なんか嫌な笑い方だ。からかうような色を瞳が帯びている。

 でも気になって頷けば、グエンが私の腰をぐいっと引き寄せ来た。

「なら、今夜使ってみるか? 俺を知ってるリサは、この程度の大きさじゃ満足できないと思うけどな?」

 どういう意味か分からなくて首を傾げる。


「マカロニ虫はな、娼婦たちが男のモノの代用品として使うんだ」

「ッ!! 最低!」

 色気のある声で囁かれ、顔にかっと血が昇った。

 思いっきり股間に蹴りを入れてやれば、グエンがその場で悶絶する。

 その手からマカロニ虫をぶんどって、台所へ戻った。


「リサさん、全部捕まえておきました……」

 台所に戻ればクライスが、厚手の手袋をして立っていた。

 どうやら私がグエンと会話してる間に、真面目にマカロニ虫を回収していたらしい。


「それでこれ、どうしますか。茹でます?」

 クライスが嫌そうに持っている大きなボールの中で、マカロニ虫が暴れていた。

 その姿は虫というより、うなぎみたいだ。

 マカロニ虫の太さは、私の親指と人差し指でぐるっと円をつくったくらいあった。


「……っ!」

「リサさん?」

 無言で顔を赤くした私を、クライスが不思議そうな顔で見ていた。



●●●●●●●●●●●●●


「リサ、今日はひつじ豚料理に切り替えたんだな」

 夕飯の時間、グエンはご機嫌だった。

 久々のマカロニ虫料理以外の料理に、舌鼓を打っている。


「隊長、ありがとうごさいます! あのうねうねしたよくわからない奴より、こっちの方がマシです」

「魔物料理に慣れてきたけど、あの虫だけはいけ好かねぇ。というか、味付けが変わっても正直毎日出ると飽きるな」

 騎士たちが口々にグエンを褒め称えている。

 どうやらマカロニ虫が続いてる事に不満だったのは、グエンだけではなかったらしい。


 あのあとマカロニ虫を料理する気になれなくて、しかたなくひつじ豚を狼たちと一緒に狩りに行った。

 夕飯まで時間がなかったし、他の騎士も連れてなかったから、最初からちょっと本気を出して仕留めた。


「さすがリサだ。やろうと思えば、騎士がいなくても魔物を仕留められるじゃないか」

 グエンがそんな事を言いながら、ひつじ豚を平らげていく。

 正直私がやろうと思えば、食材は確保できたのだ。

 普段は騎士たちが一緒についてるから、魔術も最小限にしてるし、怯えられても嫌なのであれでも加減してる。

 それにちょっと面倒だった。

 グエンは最初からそれがわかっていたんだろう。

 ……なんだかグエンの策略に乗せられたみたいで、面白くない。


「どうしたそんな不満そうな顔をして。あぁ、そうか!」

 睨みつけていたら、何か思いついたようなわざとらしい声をグエンは出した。

「何よ」

 ぶすっとして呟けば、ふっとグエンは笑って、綺麗に食べ終わったひつじ豚の皿の上にフォークとナイフを置いた。

 他の騎士どもと違って、グエンは意外にも食べ方が上品だ。

 口元を拭ってから、壁の辺りに控えていた私の側へと近づいてくる。


 トンと私の頭の横に手をついて、それから顔を近づけてきて。

 私の耳を食んで、尻をぐっと掴んできた。

「グエン! そういう事するなって何度言ったらわかるのよっ!」

 その場で電撃を放てば、グエンは私から離れる。

 一瞬痛そうに顔をしかめたものの、楽しそうににやにや笑っていた。

 毎回こういう目にあってるのに、グエンは一向に懲りず私に手を出してくる。

 痛めつけられて喜ぶ趣味でもあるんだろうかと疑いたくなるくらいだ。

 続けざまに氷柱を作りだし放てば、それを壁に飾られていたレプリカの盾で防がれてしまう。


「食材にマカロニ虫がないってことは、リサが使ったわけだろ? でもあれじゃ物足りなかったみたいだから、オレが満足させてやろうと思っただけだ」

「あーなるほど。だからマカロニ虫が食卓になかったわけですか」

「隊長が最近相手してあげないからですよ?」

 グエンの言葉に、騎士たちがからかいを被せて、楽しそうに笑う。

 騎士たちの方は、マカロニ虫で散々ビビらされた仕返しだというような顔をしていた。


「最低! 本当あんたたちって本当最低!」

「ちょ、姐さんやめてくださいっ! 火事になったらどうするんですか!」

 火球を放てば、騎士達が慌てふためく。

「大丈夫よ。私が城を傷つけるわけないでしょ。雑用係すらこの城は雇えてないんだから。あんた達の服と肌だけ焼くようプログラムしてあるわ」

「そんな高度な魔術を使ってまで、攻撃しないでくださいよ!」

 私の言葉に、技術の無駄遣いだというように騎士たちが抗議してくる。


 魔術を避けたり、防いだりしながら、騎士やグエンが食堂を駆け回る。

「ちょっと姐さん、やめてください!」

「落ち着けリサ。別にマカロニ虫で満足できなかったのはお前のせいじゃない。オレが責任とって、ベットの上で一晩中たっぷり可愛がってやる」

「隊長はなだめるふりして、姐さんをこれ以上煽らないでください! 落ち着いて夕飯が食べられない!」

 騎士達が口々に文句言っているが、知ったことではなかった。

「邪魔するならあんたたちも同罪だから!」

 グエンに痛い目を見させなければ気がすまない。

 騎士たちの何人かはこんなに騒がしいのに、平気で夕食を食べている。

 また始まったよというような、どこか諦めたような顔をしていた。


 散々暴れて後、気づけば食堂はめちゃくちゃだった。

「……やっちゃった」

「はははっ! これまた派手にやったなぁ、リサ。見回り当番の副団長が帰ってきたら、また胃を痛くするな」

 反省して落ち込む私の隣で、グエンは声をあげて笑っている。

 まるで子供のように。


 ――グエンのこんな顔、久々に見た気がする。

 最近は戦況が悪くて、今みたいな応戦もあまりなかった。

 いつも通りグエンは振舞っていたけど、どこか張り詰めた雰囲気があって。

 リラックスした様子のグエンに、ふっと笑みが零れる。


「なんだ、オレを見つめて。そんな顔されると、今すぐに襲いたくなるんだがな」

 私の顔を見て、グエンは瞳に怪しげな熱を灯す。

 色気を含んだその視線に囚われると、ゾクリと背筋に痺れが走ったみたいになって、胸の奥がじりじりと焦げるような変な気持ちになる。


「暴れたりないなら、続きはベットの上でな?」

「……っ!」

 距離を詰めきたグエンの声は、からかうというよりも甘みを含んでいて。

 つい顔が赤くなる。

「まんざらじゃないみたいだな?」

「もう、グエンっ!」

 私の様子を見て、グエンは満足げにくくっと喉の奥を鳴らすように笑った。

3/15 マカロニ虫の描写を追加し、微修正しました。

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ナツ様主催「共通プロローグ企画」の参加作品となっております。他エントリー作品はこちらからどうぞ!
活動報告内にカナタとグエン&リサの子供のお話のSSがあります。よければどうぞ。
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