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二十一話

 ――まずは先手を取ってやる! 軽快なステップを踏みながら、一気に間合いをつめたキッドは、ジョーの身体に素早いローからのミドルキックを叩き込む。

 続けてキッドは、ローリングソバットを繰り出した。それを胸の辺りに受けたジョーがよろける――よし、今だっ!

 キッドはそのままロープへ走ると、反動を利用してフライングクロスチョップを放った。首元に強烈なチョップを喰らったジョーが、呻きながら後ろに倒れる。

 それを見たキッドは、仰向けのジョーに駆け寄り、その場で高くバク宙した。キッドのムーンサルトプレスが、倒れたままのジョーに襲いかかる。

 だがジョーは、飛び上がったキッドの腹に向かって両膝を突き立てていた。

「ぐおあっ……!」

 腹の辺りでジョーの両膝を受けてしまったキッドは、呻き声をあげながらマットを転がった。

 キッドは先に立ち上がったジョーにより掴み起こされる。そして顔面への連続エルボーを喰らわされたキッドはよろけた。

 続けざまに身体を掴まれ、荒々しくロープへと振られたキッドは、反対側から走り込んできたジョーの強烈なケンカキックを顔面に受けた。

「がはあっ……!」

 呻きながら仰向けで倒れたキッドに、ジョーのジャンピングエルボードロップが迫ってくる。

 ――くっ……まずい! キッドはすぐさま横転してそれをかわすと、再び立ち上がってジョーと対峙した。


 キッドはジョーとの間合いを計りつつ、細かいローキックや水平チョップの応酬を繰り広げる。

 そしてジョーのミドルキックを腹の辺りで受け止めたキッドは、そのまま素早く身体を回し、ジョーを巻き投げた。

 キッドのドラゴンスクリューを喰らったジョーが、右足を痛そうに押さえながら、なんとか起き上がろうとする。

 ――そのまま寝てやがれ! キッドはすぐさまジョーに向かって走り出し、渾身の飛び膝蹴りを繰り出した。

「があっ……!」

 キッドのシャイニングウィザードを顎に喰らったジョーが、マットに崩れ落ちる。

 仰向けで倒れたジョーを横目にしながら、コーナーのほうへと向かったキッドは、急いでトップロープに登った。

 その後高く飛び上がったキッドは、素早く捻りを加えた宙返りを繰り出しながら、倒れたままのジョーに、強烈なボディプレスを喰らわせた。

 大技である360度シューティングスタープレスを決めたキッドは、そのままフォールの体勢になる。

 しかし、カウントツーで返されてしまった。

 相手より先に立ち上がったキッドは、掴み起こしたジョーのバックを取ると、腰の辺りに両腕を回した――このままジャーマンで、沈めてやる!

 そう気合いを込めた直後、キッドの顔面にジョーの強烈なエルボーが突き刺さった。

「ぐあっ……!」

 頭部に肘を喰らい、脳を激しく揺らされたキッドは、ジョーの身体を離してしまった。

 すぐに振り返ったジョーが、連続で顔面にナックルパートを放ってくる。それを受けてよろけたキッドは、身体を掴まれロープに振られた。

 ――くっ……させるかよ! 向かい側から勢いよく迫りくるジョーの豪腕ラリアットを、頭を下げてなんとかかわしたキッドは、そのまま目の前のロープへと走る。

 その後反対側から自分と同様に跳ね返ってきたジョーに合わせて、高く飛び上がったキッドは、両足でジョーの首を挟むと、得意のハリケーンラナを仕掛けようとした。

「なにっ!?」

 だがジョーに両足をがっちりと掴まれて、技を防がれてしまった。ジョーがそのまま凄まじいパワーで、キッドをマットに叩き付ける。

「ぐおあっ……!」

 ジョーの強烈なパワーボムを喰らったキッドは、脳震盪を起こして、なかなか立ち上がることが出来ずにいた。

 続けてジョーに掴み起こされたキッドは、再びロープへと振られる。

 ジョーはラリアットと見せかけながら素早く低い体勢になり、全体重を載せたスピアータックルを放ってきた。

「なっ!?」

 意表を突かれて、ジョーの強烈なタックルをもろに喰らってしまったキッドは、後ろに吹っ飛ばされながら倒れた。

 ――クソッ、このままじゃヤバい……! 全身に激しいダメージを受け、立ち上がれないキッドを、ジョーが再び掴み起こす。

 ジョーの猛烈なパワーで、荒々しくコーナーへと振られたキッドは、背中をぶつけてもたれかかった。そこに追いうちの豪腕ラリアットが迫ってくる。

「がはあっ……!」

 硬いコーナーを背にしながら、首を刈られたキッドは呻いた。ジョーが続けざまに、キッドをトップロープへ担ぎ上げる。

 ジョーは観客席のほうに大声でアピールをしながら、最上段へと登ってきた。

 ここで大技を喰らってしまったら、かなりまずいと思ったキッドは、なんとか力を振り絞って、連続エルボーを繰り出した。

 顔の辺りに肘を受けたジョーがよろめく――よし、今だっ!

 それを見たキッドは、正面に居るジョーの両肩に足を載せると、間髪入れずにくるりと反転し、肩車の状態になった。

 ――これでも喰らいやがれ、バカ野郎! そのまま気合いを込めたキッドは、高速で身体を後ろに反りながら、捻りを加えてジョーを投げ飛ばす。

 トップロープからの強烈なハリケーンラナを喰らったジョーは、もんどりうってマットに倒れた。

 着地したキッドは、体勢を整えて立ち上がろうとする。しかし全身に蓄積したダメージのせいで、すぐには動けなかった。

 身体の力を振り絞り、どうにか立ち上がったキッドは、倒れたままのジョーを掴み起こしてバックを取った――よし、このまま決めてやる!

 そして羽交い締めを極めたキッドは、必殺のドラゴンスープレックスを仕掛けようとした。

「くっ……そ、そうはさせねえぞ! うおらあああっ!」

 焦りを見せたジョーが、唸り声をあげながら、凄まじいパワーで激しく暴れる。

 ――クソッ、なんて馬鹿力だ。こ、これはまずいっ……! キッドは必死でジョーの身体を抑えつけるが、驚異の腕力で振りほどかれてしまった。

 すぐに振り返ったジョーが、連続で前蹴りを繰り出してくる。

「ぐおっ……!」

 それを腹の辺りに受けてうずくまったキッドは、ジョーにバックを取られた。

 ジョーは間髪入れずに、高角度のバックドロップを仕掛けてきた。受け身を取ることも出来ず、首からマットに叩き付けられたキッドは、再び脳震盪を起こして倒れ込む――ぐあっ……このままじゃ、ヤバいっ……!

 続けざまに掴み起こされたキッドは、ジョーの恐るべしパワーで軽々と身体を担ぎ上げられると、滞空時間の長いブレーンバスターを喰らわされた。

「うがあっ……!」

 背中側からマットに激しく叩き付けられ、全身にかなりのダメージを受けてしまったキッドは、なかなか立ち上がることが出来ずにいた。

 ふらつくキッドの身体を掴み起こしたジョーが、観客に向かって行くぞと叫びながら、右手で稲妻のようなサインを出す。

 その後ジョーにバックを取られたキッドは、二連続のジャーマンスープレックスを喰らわされたあと、強烈な豪腕ラリアットで首を刈られた。

 ジョーの必殺コンビネーションをまともに受けて、呻きながらマットに沈んだキッドは、そのままフォールをされる。

 すぐに駆け寄ってきたレフェリーが、力一杯マットを叩いた――俺はまた、こいつに、負けるのか……。

 勝敗を決めるカウントが進んでいく中で、心が折れかけていたキッドの耳に、春香の声が響いてくる。

「――お願い拓ちゃん、負けないでっ!」

 彼女の叫び声を聞き、ハッとしたキッドは、大声で唸りながら右肩を跳ね上げた。

 カウントスリーが入る寸前で、なんとかフォールを返したキッドは、気合いを込めて己を奮い立たせる――俺は、絶対に負けられねえ……! 俺は丈を倒して、春香と一緒に帰るんだっ!


「……俺の稲妻コンビネーションを喰らっても、まだ立ちやがるとはな。だが、次で終わらせてやるぜ。覚悟しろ、拓!」

 ふらつきながら立っているキッドを鋭く睨んだジョーが、背後のロープへと走り出す。

 それを見たキッドは、その場で身構えた――おそらく丈は、得意の豪腕ラリアットで決めにくるだろう。だとすれば、以前雑誌で見たあのレスラーの技を試すしかないっ……!

 あれを実戦で使うのは初めてだが、イメージトレーニングは何度も繰り返してきた。今の俺なら、きっと出来るはずだ!

 俺はあの技を決めて、丈を倒してやる――拳を固く握り締めながら、そう決意したキッドは、ロープの反動を利用して突進してくるジョーのほうを睨み付けた。

「うおおおおおおっ!」

 雄叫びをあげながら猛然と迫ってきたジョーが、右腕を振り上げてラリアットの体勢に入る。

 焦るな、まだだ。まだ待つんだ――キッドはその場を動かずに、ジョーの豪腕をギリギリまで引き付けた。

 ――よし、今だっ! 首を刈られるまさに寸前で、相手のラリアットを左手で受け止めたキッドは、そのまま素早くジョーの首に右腕を回す。

「なっ!?」

 そしてキッドは相手の突進力を利用して、ジョーの身体ごと後方宙返りした。

 相手と共に勢いよく宙を舞ったキッドは、全体重を載せてジョーの身体を背中からマットに叩き付ける。

「ぐはあああっ……!」

 フラムフライと呼ばれる、必殺のカウンター投げを受けたジョーは、呻きながら仰向けで倒れていた――ざまあみろ、バカ野郎!

 それを見たキッドは、残りの力を振り絞ってコーナーへと向かう。トップロープに登ったキッドは、とどめだと気合いを込めて、高く飛び上がった。

 キッドは素早く一回転半の前方宙返りを繰り出しながら、仰向けで倒れたままのジョーに、強烈なボディプレスを喰らわせる。

 ――これで終わりだ、丈! 渾身のファイヤーバードスプラッシュを決めたキッドは、ジョーの巨体をフォールした。すぐに駆け寄ってきたレフェリーが、マットを激しく叩き続ける。

 だがジョーは、カウントスリーが入る寸前で右肩を上げた。

「ま、まだだ! 俺はまだ、終わらねえぞ……!」

 眼前で凄まじい執念を見せながら、ふらふらと立ち上がるジョーの姿を見たキッドは、最後の力を振り絞って動き出す。

「うおらああああっ!」

 大声で唸ったジョーの右拳が、キッドの顔面へと迫ってくる。

 それを左に避けたキッドは、そのままジョーの背後に回ると、再び羽交い締めを極めた。

「今度こそ終わりだ、丈!」

 キッドはそう叫びながら、渾身の力を込めて、身体を後ろに反っていく。

「うおおおおおおっ!」

 ついに持ち上がったジョーの巨体が、大きな衝撃音と共に、首からマットへ突き刺さる。

 必殺のドラゴンスープレックスホールドを極めたまま、勝敗を決めるスリーカウントを耳にしたキッドは、静かに技を解いた。


 勝ったぞ。俺はついに、丈を超えたんだ――死闘を制したキッドは、息を切らせながら、ふらふらと立ち上がる。無敗のチャンピオンが負けたせいか、場内はどよめいていた。

 ほどなくしてレフェリーに抱き起こされたジョーが、キッドの右腕を掴んで高く上げる。すると場内に、キッドコールが沸き起こった。

「俺の負けだ。強くなったな、拓」

 大きな歓声が鳴り響く中で、宿敵のジョーから声を掛けられたキッドは、リングサイドで涙ぐむ春香のほうを見つめながら答える。

「俺がお前に勝てたのは、あいつのおかげだよ。春香が居なければ、俺はお前に負けていた」

「あの娘がお前を強くしたってわけか、大事にしてやれよ」

「ああ、もちろんさ」

 そう言って胸を張ったキッドは、全力でぶつかったジョーとの固い握手を交わして抱き合った。

 場内にはそんな二人を称賛する大きな歓声が、いつまでも鳴り響いていた。


「ワシの負けやな、せやけどええもん見せてもろたわ」

 その後控え室へと戻った坂口は、着替えを終えた頃に現れた兵藤から声を掛けられた。

「しかしあの丈に勝つとはな。あんさんは本物の漢やで。あんさんならごっつい客呼べるわ。店が潰れたらいつでも来てや。待ってるでぇ」

「潰さねえよ、バカ野郎!」

 笑顔で言った兵藤に対して、そう毒づいた坂口は、手下に連れられてきた春香と共に格闘場を出る。

「もう大丈夫だ。家に帰ろう、春香」

「うん!」


 真の壁を打ち破り、自由を勝ち取った坂口は、彼女と手を繋いで、夜の町を歩き出した。

 辺りには心地よい夜風が吹いている。優しく漂ってきた春の香りを感じながら、二人は桜並木の長い坂道を登っていく。

「――なあ春香。俺が雑貨屋で一人前になったら、一緒に両親に会いに行ってくれるか?」

「うん、もちろんいいよ! あたしも拓ちゃんのお父さんやお母さんに会ってみたいし!」

「いや、そうじゃなくてさ……普通に会いに行くんじゃなくて、俺は両親に、お前のことを紹介したいんだ。俺の嫁さんとして」

「……それってもしかして、プロポーズってこと?」

「そ、そうだけど……俺じゃダメかな?」

「ダメなわけないじゃん! 一緒に幸せになろうね、拓ちゃん!」

「ああ、そうだな。一生懸命頑張って、一緒に幸せになろうな。春香」


 様々な人生の選択を繰り返し、己の生きる道をようやく定めた坂口は、大切な春香と寄り添いながら、二人の楽園へと続く永い道のりを、ゆっくりと歩んでいった。




   了




 最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

 この物語のプロレス技は、ドラゴンゲートを参考にさせて貰いました。主役の坂口は、ドラゴンキッド選手とフラミータ選手を足して二で割ったようなイメージです。

 YouTube等に動画があるので良かったら見てみてください。なかなか派手でカッコいいです。


 評価や感想等お待ちしております。

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