表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/21

十四話

 兵藤を倒した翌日から、坂口は春香と共に、新生活を送るための準備を始めていた。

 部屋のソファーに座ってパソコンをたちあけた坂口は、隣に寄り添う彼女と相談しながら、物件探し等に精を出す。

「ここはいい感じだな。でもちょっと高いか……税金とかも考えなきゃいけねえしな。春香はどんな所がいいんだ?」

「あたしは税金のこととかよくわかんないし、お店選びとかは拓ちゃんに任せるよ。その代わりにお店のデザインとか置く商品とかは、あたしが頑張って考えるから任せてね!」

 春香はそう言って胸を張った。

「そっか、わかった。じゃあ失敗しないように、じっくりと探すか。時間はたっぷりあるしな」

「そうだね、ゆっくり決めればいいよ。あたしは拓ちゃんが探してくれてる間に色んな雑貨屋さん巡って、どんな商品が売れてるのか勉強してくるね!」

「それはいいけど、お前一人で大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ! じゃあ今からちょっと行ってくるね!」

 笑顔でそう言い、立ち上がった春香は出掛ける準備を始めた。

「もしなんかあったら、すぐに電話しろよ」

「うん、わかった!」

 支度を終えて、部屋から出ていく彼女を見送った坂口は、再びパソコンでの作業に戻った。


 坂口は目についた物件を幾つもピックアップする。やがて春香が雑貨屋から帰ってくると、彼女が手帳に書き留めてきた、沢山の売れ筋商品をパソコンで調べた。

 そうして集まっていく様々な情報を、春香は新しく用意したノートに書き写していった。

 そんな生活が、それから何日も続いていた。だが坂口は、毎日部屋にこもって地道な作業を繰り返しながらも、それを苦にはしていなかった。

 愛しい彼女と二人で、自分たちの雑貨屋を作るということが、この上なく楽しかったからだった――俺は春香の夢を、絶対に成功させてやるんだ。



 西島はこの日の仕事場である、パチンコ屋の閉店後、アジトのビルの一室に立ち寄った。ソファーと机が幾つか置いてあるだけの殺風景な部屋には、強面の子分たちが集まっている。

「西島のアニキ、お疲れさんです!」

 彼等は西島に気付くと、一斉に頭を下げた。

「おう、ご苦労さん」

 奥のほうにある黒革のソファーに、どっしりと腰をおろした西島は、黒いスーツのジャケットから煙草を取り出した。そして幹部のタカシを呼びつける。

「ようタカシ、今日のアガリはどうだったんだ?」

「例の隣町のババアから、百万ほど踏んだくってやりましたんで、バッチリですよ」

「ほう、なかなかやるじゃねえか。だがサツにつけ回されるような、ヘマはしてねえだろうな?」

 口の端に煙草をくわえた西島に、ライターを持った幹部のタカシが近寄ってくる。短髪でイカツイ顔をしたタカシは、西島の煙草に火をつけたあとで返事をした。

「ええ、大丈夫です。上手くやりましたから」

「そうか、それならいい。よくやったな」

 西島は吸い込んだ紫煙を吐き出しながら、タカシを誉めた。

「ところでアニキ、数日前に兵神会ひょうじんかいの兵藤が襲われた件、ご存知ですか?」

「なに!? 兵藤が襲われただと? あの野郎を襲うなんて、いったい何処のバカだ?」

 タカシの言葉に目を見開いた西島は、慌てて訊ね返した。兵神会の兵藤と言えば、裏の世界でも名が轟く、危険な男だったからだ。

「それが妙なマスクを被ってて、黒いジャージを着た、ガタイのいい変な野郎らしいんです。そいつに三千万ほどかっさらわれたらしくて、兵神会の奴等も、血眼になって探してるらしいんですが、何処の誰だかわかんなくて、探しようがないとか」

「三千万だと!? なんか他にそのバカに関する情報はねえのか?」

 思わぬ額にますます興味が湧いてきた西島は、タカシに詰め寄った。

「はあ、あるにはあるんですけど、役に立つかどうか」

「構わねえから言ってみろ」

「事情通から聞いた話によると、そいつはSRって単車で逃げてったらしいんです。追っかけてった若いもんが単車好きで、音で車種がわかったらしいんですが、なにしろ人気の単車らしくて、それだけじゃあなんとも――」

 タカシの話を聞いた西島はハッとした――ガタイがよくて、SRに乗っている男……まさか、あのガキか!?

 そう言えば俺を襲った野郎も、黒いジャージのようなやつを着てやがった。もしかするとあいつが、俺と兵藤をやりやがったのかも知れねえ。

 だとすれば、これはチャンスだ。現時点であいつに目を付けているのは、俺だけのはずだ。俺が全ての金を、奪い取ってやる――そう考えた西島は、目の前に立っているタカシに手招きをした。

「使える若いもんを二人用意して、坂口って野郎を探させろ。この町に居るはずだ。見つけたらすぐに俺に知らせろ」

「わかりました、すぐに手配します」

 指示を受けたタカシは、アジトから出ていった。


 それから数日後の昼過ぎ、パチンコ店に居た西島の携帯が鳴る。

「おう、俺だ」

『に、西島さんですか? 坂口って野郎のアパートを見つけました! バイクもあります! そ、それで、これからどうすればいいっすか?』

「そうか、よくやった。じゃあ俺が行くまで、何もせずに近くで見張ってろ。いいな?」

『は、はい、わかりました!』

 タカシが用意した新入りの若者からの連絡を受けた西島は、その後電話で呼びつけたタクシーに乗り込んだ。

 そして坂口が住んでいるアパートが見えてきたところで、タクシーを待たせて降りた西島は、付近に居た二人組の茶髪の新入りと合流する。

「お、お疲れさんです!」

「おう、ご苦労だったな。お前らに引き続き頼みがあるんだが、車を用意するから、しばらくここで張り込んでろ。ことが上手くいったら、褒美は弾んでやる。なんか変わったことがあったら、すぐに俺に知らせるんだ」

「は、はい、わかりました!」

 二人組に指示をした西島は、再びタクシーに乗り込んでその場を去った。

 ――あんなボロアパートに住んでいるってことは、奪った大金はまだ使ってねえはずだ。おそらく何処かに隠してやがるんだろう。だとすれば、今部屋に踏み込んでも無駄だ。

 それにあのガキがやったという確証もねえ。なにかあいつの弱味を握って、カマをかけるしかねえだろう。それで仮に俺の勘が間違っていたとしても、何も損することはねえ。

 その時は適当に、ごまかせばいいだけだ――車窓に流れる景色を眺めながら、そう考えた西島は、新入りからの連絡をじっと待った。


『お、お疲れさんです! なんか野郎には、女がいるみたいです! さっきその女が、野郎の部屋に入っていきました!』

「そうか、わかった。じゃあお前らはそのままそこに張り込んで、女が一人で出てきたら、さらってこい。上手くいったら、俺に連絡しろ」

『わ、わかりました!』

 夕方アジトで電話を受けた西島は、ソファーにもたれかかりながら、煙草をふかしていた――お前が俺を襲いやがったのなら、たっぷりと後悔させてやるからな。待っていろ、小僧。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ