(6)想定外の人が意外な特技を持っていたみたいです
主人公が言うことを聞きません。
どうしてそっちに行っちゃうの~
お気に入り登録してくださった方がいつの間にか100人超えてます。
本当にありがとうございます。
次の日、お客様がやってきた。立派な馬車から父さまによく似た男性が出てきた。
父さまと同じ銀髪で茶色い目だ。
そっくりだけど兄弟かな? だから大切なお客様なのか。
「待たせたな、久しぶりだが屋敷はあまり変わっていないな」
「よく来たな、兄さん」
「おいこら、ベル。兄である前に一応は皇国の王なんだからそんな態度はないだろう」
「兄さんの方こそ、一国の王ともあろうものが、公爵家当主で今日のホストに対してくつろぎすぎじゃないのかい。弟に対する態度のままだよ」
「久しぶりの実家に戻って緊張するのもアレだしな。まぁ、堅いことは言いっこなしだ」
え?皇国の王って…国王様!? それが父さまと兄弟!? ウチが実家ってどういうこと!? さらになんでそんなに緩いんだ!? なんかもう、ツッコミどころが多すぎる……
「ふむ、その子がお前の息子か」
「あぁ、ディル。さぁご挨拶しなさい」
とか考えていたら、いきなり話を振られた。
やばい、なんか緊張してしまう。
確か、失礼の無いように礼をするには…右手を胸にあててお辞儀をする…だったかな?
「お初にお目にかかります、僕はディレット=ドゥ=エスクランスといいます。愛称はディルです。どうぞよろしくお願いします、国王さま」
「ほぅ…これは驚いた。教育が行き届いているのだな。この年齢でこんな挨拶ができるとは…」
しまった、ちょっとやりすぎたか? まぁ悪い印象を与えるよりは良かったと思うんだけど、年齢的に不相応だったかも…その辺のさじ加減が今ひとつだな、今更だけど…
「ところで、今日はひ、王妃様、いや、義姉さんは?」
「エリザのやつは体調を崩していてな、今日は宮殿で静養している」
「そうですか、では今日の同行者は?」
「うむ。2人とも、ついたぞ。出てきなさい」
馬車から2人の男女…子供が出てきた。一人は僕より年上の少年だ、8歳位かな?
優しそうな外見で、銀髪翠眼の美形だ、これはお姉さま方に捕食されかねない種類の美少年だ。
護身術でも習わせておかないと大変なことになるかもしれない…
もう一人は僕と同じ位の年齢の女の子、銀髪翠眼でツーテールの美幼女だ。
なんか辺りをキョロキョロしてるし目がキラキラしていて快活そうな印象がある。
というか、今にも駆け出してどこかに行きそうな……って本当に駆け出していった。
何が楽しいのか、2本の髪の毛をなびかせて、笑いながらウチの庭に突進していったけど……国王の娘なら王女…姫様だよなぁ……あの子……まぁ、子供だからなぁ…
そういえば今の自分も子供だった……
「…あの、姫様行っちゃいましたけど、いいんでしょうか?」
ハッとした父親達、呆気に取られていた、というのは分かるんだけど、何をそんなに驚いていたんだか…魂が抜けていそうな顔だったな。
「いや、驚いた。あのシャルが急にはしゃぎ出すとは思わなかった」
「え?いつもは大人しいんですか?」
僕は思わず聞いてしまった。
あの態度からいつもあんな感じだと思っていたから…
王さまの驚きからするといつもはあんなに活発な子じゃないって事なのか?
だとすると、あの態度はどうしてなんだろう…
「俺も驚いた、いつも宮殿だと寂しそうな暗い子だな、とスマン」
「いいさ、事実だからな、あまり構ってやれん俺も悪いのだがな。それに、この屋敷の敷地内なら問題ないのだろう?」
「まぁ、これでも公爵家ですからね。そのあたりは万全にしてますよ」
「僕もあんなシャルは初めて見ました。急にどうしたんでしょう?」
王子様も見たことがないらしい。しかし急にどうしてなんだ?考えても答えは出そうにないけど…
「そういえば、はじめまして従弟殿、僕はセリオン=アル=ジルド、この国の王子をやっています」
王子様は先ほどの僕と同じような動作で挨拶された。これは挨拶を返さないと…姫様は後で会いに行こう。
「ご丁寧にありがとうございます、殿下。僕の名はディレット=ドゥ=エスクランス、どうぞディルとお呼びください」
「なら僕もセリオンでいい」
「ありがとうございます、セリオンさま」
「さまもいらない、呼び捨てで良いってば」
王子様は案外フレンドリーな人だった。親戚だからだとは思うんだけど、その王子様的笑顔はかなりヤバイ。
その手のお姉さんなら瞬殺できそうな威力だった。
この年齢でコレか…将来が怖いな。
「いや、本当に凄いな。この歳でここまでの挨拶ができるとはな、メイリア殿の教育がいいのだろうな」
「おい兄さん、俺のおかげだとは思わないのか?」
「思わんな、血だというのなら、お前の血では無くメイリア殿の血だろうからな」
話が変な方向に向かい始めた。ここで兄弟ゲンカされても困るし、先に進めよう。
「父さま、立ち話もなんですから、屋敷に入りましょう。僕は姫様をお迎えに行きますので、国王様と殿下の案内を頼みます」
そう言って額に手の甲を当てて敬礼した後、ウチの庭の方に向かっていった。
確か姫様はこっちの方に向かったはずだ。
父さまたちは家の中で待っている母さまに任せよう。
家の中にさえいれば、兄弟ゲンカをする前に母さまがうまく纏めるだろう。
父さまと母さまでは、父さまに勝ち目は無いし…
庭を探したら姫様はすぐに見つかった。
でも、なにやら庭の樹の前で手を大きく振り回しながら楽しそうにはしゃいでる…なんだ、あれ? ひとりごとか?
なんか話しかける気力が削がれていくけど、でも話しかけないことには始まらないよなぁ…
「姫さま、楽しそうですね」
「え?」
僕に気が付いていなかったのか、びっくりしている。
何にそんなに夢中だったんだろう?
「あの、なんでもないの…」
急に暗くなった。さっきまで楽しそうにしていたのに、どうしたんだろう?
頭がかわいそうな子、という感じでもないな、何かを隠してる感じがする。
どうしよう、こんな子にアレは使えないし、普通に聞くしかないな。
「先程まで楽しそうにお話しているみたいに見えたましたけど、もう話さなくていいの?」
「え? きみも、きのこえがきこえるの?」
きのこえ、樹の声かな? 危ない電波を受信しているんだろうか?
それとも本当に植物と話をしていたのか? この子……
いや待てよ!
そういえば確か、エルフの固有魔法である精霊魔法にそういうのがあった、と書いてあった書物をこの前読んだ記憶があるな。
とすると、姫様は人間なのにそういう素質があるってことになるな。
もしかしたら、それを隠していたのかもしれない。
そういえば、あの事件の事もあって倫理的にも精神衛生上にも問題があるから使えなかったけど、コレはちょうどいい機会かもしれない。
精霊ならあんなことにはならないと思うし。
「樹の精霊とお話していたんですね。僕もちょっと話せるかどうか試してみましょう」
そう言って慎重にテレパスを使った。
目標は目の前の樹。 その途端、声が聞こえた。
[坊ッチャマッテアタシタチトハナセタッケ?]
[アマリコッチニコナイカラワカラナイケド、キイタコトナイワネ]
[タメストカイッテルケド、ニンゲンニアタシタチノコエガキコエルノカシラネ]
「聞こえていますよ」
精霊の声に答えてあげた。 これが樹の精霊の声か。
なんか変な感じだけど、思った通り精霊になら問題なさそうだ。
[エッ? ウソ? キコエルノ!]
[イヤマッテ、テキトウナコトイッテルダケカモシレナイジャナイ]
[ナラシリトリデモシテミマショウカ]
「なんでしりとりなんです?」
[エ、ダッテキコエナケレバゼッタイデキナイシ]
[アタシタチガシッテルアソビトカハソレクライダシネエ]
[ッテ、チョットマッテ、カイワガセイリツシテルワ]
[ホントウダワ、ナラマサカホントウニキコエルッテイウノ]
「だから、そう言ってるじゃないですか」
疑り深い樹の精霊だな。しかし誰がしりとりを教えたんだろう?
「すごい、すごい、あたしのほかにきとおはなしできたのってはじめて」
姫様がすごい勢いで喜んでいる。
自己紹介も交えて、しばらく姫様とお話した。
彼女の事情もそのとき色々と聞いた。
精霊の声が聞こえることを身の周りの世話係に話してみたが、誰にも信じてもらえず、腫れ物扱い、おまけに王宮付近の樹は可哀想なくらい弱ってるみたいだ。
おまけに王さまと王妃様、それにお兄さんは公務で忙しかったみたいだし、聞いた話しから察すると樹も長く話さないみたいだし、話し相手になるような相手が誰もいなくて寂しかったみたいだ。
ところがウチに来たところ、樹がものすごく元気で明るくおしゃべりしていたので、つい嬉しくなってしまったのだそうだ。
そういう事情だと分かればあの態度にも色々と納得できる。
ついでに樹にも聞いたところ、しりとり教えたのはウチの庭師だそうだ。
元気な理由も多分、庭師のおかげだろうな。
確か…ハーフエルフのモンタ…だったかな…
容姿からの名前と性格のギャップが凄すぎて覚えてはいたけど、エルフの魔法が使える庭師だとは知らなかった。
知れたのは収穫かもしれない。 今度色々聞いてみよう。
そうして姫様と親睦をちょっとだけ深めたあと、屋敷の方に案内するのだった。
しかし、考えてみると頭脳は大人な5歳児が美幼女をナンパしてるような状況だよな……刺される?
次回、我が家、最強、マイマザー!