(27)上級生と手合わせできるみたいです
予選最終戦、果たして結果は?
昨日はひどい目にあった。
クラスの誰かがシャルちゃんに連絡を入れたみたいでいつの間にかシャルちゃんも参加していたけど、どうしてお酒も無いような集まりであそこまで騒げるのか…
さながら地獄絵図というか、屍の山というか…
明日も試合な人がかなりいるはずなのに、無駄に疲れることは無いと思うんだけどね。
でも、見事なまでに巻き込まれた。
その後どうなったのかは………言いたくない。
あまりにうるさくなり始めたので、途中から2階席に風魔法を応用してなんとか防音したけど、そのため二重の意味ですごく疲れた。
そんなこんなで今日のコンディションはそれほど良くはないけれど、いよいよ第二予選が始まろうとしている。
「それで、最後になっちゃいましたが旦那さんの番号は何番ですかね?」
「旦那言うな! 115番だから、第七ブロックの第十一試合からだよ」
「マジ、第七ブロックだとあたしと同じじゃん!」
今日の開会前にクラスにクラスメートが集まり、ナクトが番号を聞いてきたので答えたら、どうもユーリと同じブロックだったようだ。
ということは、ユーリと戦う可能性があるんだろうけど、昨日は彼女が戦ってるところ見てないんだよなぁ。
まぁ、こっちも見られていないだろうから条件は同じだろうけど、こいつ何をしでかすか分からないからちょっと面倒かもしれないな。
注意しないと。
「とすると、この予選でブロックが被っているのは保護者さんとディア姐さん、旦那さんとユーリだけですね。どっちが勝つか楽しみですね」
「うっさいメガネ。あたしが負けるとでも思ってんのか。こっち見てニヤニヤすんな」
この予選、全部で16ブロックに分かれている。
試合会場は8個なので、2ブロックが交互に試合を行い、1試合会場で30試合が行われる。
負けた生徒は観戦や応援に出る予定のようでうちのクラスの試合を見るためにどういう順番で回るかのスケジュールを組むそうだ。
……昨日やっておけばいいのに…急にやるから慌しいことこの上ない。
それにしても、あと少しで開始だというのに大丈夫なのか?
「みなさ~ん、そろそろ開会式の時間ですよ~。準備してくださ~い」
ランディーナ先生が呼びに来た。
まぁスケジュールはなんとかなってるだろう……多分…
応援は有難いけど手札を見られると考えると変なことは出来ないしな…
昨日は調子に乗って一つ出しちゃったけど……
なんかテンション上がっちゃってついやっちゃたからなぁ…
まぁ披露するのは棒を伸ばすのだけに留めておこう。
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2日目の開会式も終わり、いよいよ試合が始まった。
自分の番まで時間があるから他の試合を見ているけれど、実際見ると結構出来る人がちらほらと居る。
レイドウルフやゴブリンモンキー辺りなら問題なく勝てる位の実力はありそうだ。
そうすると、魔法を使わずに身体能力だけで戦う場合、重圧かけた状態での勝ちは厳しそうだな。
重圧は解除しないでおくとして、魔法をどこまで出すかで先に進めるかどうかが決まりそうだ。
考え込んでいたら次は僕の番になっていた。
相手は…2年生か。
「それではディレット選手対キラド選手、試合開始」
「悪いが直ぐに終わらせる!」
キラド先輩が爆音とともに恐ろしい勢いで飛び込んできた。
何かの魔法でも使っているのか尋常な速度じゃない。
ギリギリで大剣の一撃を受け止めたが、勢いを全て殺せずに後ろに数歩後退する。
なんとか初手は防いだけど、今のはかなりヤバかった。
「やるな!」
「そりゃどうも!」
先輩は再び飛び込む態勢になっている。
あんな一撃何度も受けられないぞ。
手が痛すぎる。
武器に風刃付与を施しながら油断なく構えていると、先輩が飛び込んできた。
それに合わせてカウンター気味で棒を突き出すが、前方には居なくなっていた。
しまった!
先輩は飛び込むと見せかけて、上に飛び上がっていた。
くそっ、 間に合え!
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その試合は、なかなかに良い試合であった。
2年生が足の裏に小爆発を起こし、突進力を増加した大剣の一撃を放つ。
それを受け止めた1年生もいい動きをしている。
その後、1年生がカウンターを狙う構えを見せ、2年生も飛び込む構えを見せる。
そして飛び込むと見せかけた2歩目の足の裏の爆発で一気に上方へ昇っていく。
突進ではなく飛び込み打ちを狙っていたようだ。
そのため1年の狙っていたカウンターは失敗。
しかしその後、すぐに相手を見つけ対処しようとする。
いい反応だ。
この一撃、どちらか早いほうが勝つ。
そして……
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「勝負あり、それまで!」
試合が終わった。
勝ったのは……
僕だ!
「勝者ディレット選手」
ギリギリだったけどなんとか迎撃の一撃が決まり勝利を収めることができた。
しかし、1回戦でこれだけの強敵がいるとなると本戦出場は厳しいかもしれない。
武器が棍だったから持ち手を操作して突きからの薙ぎが成功したけれど、剣系の武器だったら多分、速度で負けていただろう。
さすがは上級生といったところか。
2年でこれだとすると3年に勝てるかどうかは厳しいと思う。
とりあえず、行けるところまで行くしかないな。
次の試合まで時間があったので他のクラスメイトの試合を見に行こうとした。
けれど時間的に見れたのはレミーとディアラナの同士討ち対決だけだった。
意外に見応えがあった。
それは……
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「いくよっ、ディア姐!」
「負けないよ!」
殴りかかるレミーと剣を持って迎え撃つディアラナ
ディアラナの剣を体捌きだけで躱しまくるレミー
どちらもかなりの手練だと分かる。
レミーがバックステップで距離を取り、唐突に速度が上がった。
あれは強化魔法か!
敏捷力を一気に増大させて勝負を決める気だ。
ディアラナは速度に付いていくのがやっとで防戦一方になっている。
このまま押しきれるか、思ったが……
「調子に、のるなよ!」
ディアラナの口から凄まじい咆哮が響き渡った。
思わず、見ていた僕も硬直してしまう。
それは対戦していたレミーも同様なようで、硬直していた隙を突かれて剣で薙ぎ払われようとしていた。
ギリギリで防御して致命傷は避けたみたいだけれども、かなりの距離を吹っ飛ばされていた。
そして、ディアラナの口から巨大な火炎が巻き起こされた!?
そうか、さっきの咆哮もこの火炎も竜化魔法だ。
竜の能力の一端を扱えるという、極めれば竜と同じことが出来るとまで言われている竜人族の固有魔法だ。
……確かこのブレスにエリオットは巻き込まれたんだよな……
これに巻き込まれて命があるとか…
よく無事だったな……結界さまさまか…
結果的にこの勝負はディアラナの勝ちだった。
炎を避けるには場外に降りるしかなかったのだ。
それを狙ってか、広い範囲をゆっくりと炎の壁で包んで落とすのだから見事な作戦勝ちだと言えるだろうな。
おっと、僕も次の試合の時間が迫ってるはずだ。
戻ろう。
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「ふっふっふ、とうとうこの時が来たね。旦那さん!」
「旦那言うな! というか広めるな。 歩くスピーカーが」
「勝手に変なあだ名を付けるな! 酷いよ」
「それはお前が一番言っちゃいけない言葉じゃないのか!?」
次の対戦相手はユーリだった。
1回戦の試合は見たが、突撃!虚を突く!勝利!という…なんというか『らしい』戦い方だった。
とりあえず、負けるつもりはない。
僕は棍を中ほどで持ち構えを取る。
「いっくよ~……くらえー!」
いきなり突進してくるユーリ
僕は棍を構え……
「それまで、勝者ディレット選手」
……勝敗はあっけなく着いた。
猪のように突進してくるユーリに棍を使った投げ技で引っ掛けたところ…場外まで転げ落ちていった……
何回転もしていたけど…大丈夫かな…
いや、というか、猪の方がまだ頭使ってると思うぞ。
ただ全力で突進するだけとか…それってどうよ…
虚を突かれれば驚くだろうけど対策取れば全く怖くないというか……
まぁ、勝利は勝利…か?
フラフラになりながらユーリが戻ってくる。
「きょ…今日のところはこのくらいにしといてあげるわ」
……いや、そんな倒れそうな体調で言われても……
どこまでも残念だった……
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いよいよ3回戦!
この試合に勝てば本戦出場だ。
次の対戦相手は……
「あなた、なかなかやるわねぇん。でも私も負けないわよぉん」
…………
「どうしたのかしらぁ、そんな調子じゃあ、私に勝つなんて絶対無理よぉん」
…………………え~と、次の対戦相手って、どこだろう?
「どうしたの?試合前に驚いているようじゃあまだまだよぉん。私に勝つつもりならちゃんと気合入れないとぉ楽しくないでしょぉん」
目の前で正体不明な生き物が何かを言っているけど……
うん、僕には何も見えないよ。
「旦那さん、どうしたー。対戦相手を前にしてちゃんと準備しないのは失礼だぞー」
ユーリが何かを言っている……
…やだ…
……いやだ!
どうして……
どうして!
どうしてこんなムキムキでガチムチなオカマが次の対戦相手なんだ!!
しかも、褌一丁でこっちを見て鼻息荒いし!
色々な意味で危険を感じるよ!
絶対に近づきたくない!!
なんで…なんで、こんなことに……
色々と覚悟を決めて……決めて………きめ…られるかぁ!!
なんというか、一周回って頭にきたよ!
「試合する気になったかしらぁん。うふっ、可愛い子ってHI✩SA✩SI✩BU✩RI♥」
目の前の害獣を退治しよう。
その為には全力…出してもいいよね…
「それでは………試合…開始」
審判の合図と共に僕は魔法を繰り出す。
「『洪水弾』デュアル!」
それは水弾を怒涛の如く連射する水属性の高位呪文である。
その威力は岩を砕き、山をも崩すと言われている。
それを棍の両端に2重起動して解き放つ。
威力は倍増だ!
僕は目の前の危険物に対して斉射した。
激しく斉射した。
全力で斉射した。
これでもか、と斉射した。
消えてなくなるまで斉射した。
重機関砲のような激しい弾幕が続き、そして…
「あらぁん、負けちゃったわねぇん」
アレは生きていた…
岩をも砕く水の弾幕に耐えきり、しかし威力に押されて場外に落ちてはいたが…ピンピンしていた。
早くあの化物を消滅させなくては…
「勝負あり。勝者ディレット選手」
僕以外に舞台に立っていた人が何かを言っている。
なんのことかわからない、けれどアレは生きている。
僕は一歩、足を踏み出す。
世界の安全のために退治しないと…
「よくやったよ。旦那さん。あたしの分まで本戦では頑張ってね」
「お、おめでとうございます。ディレットさん。本戦も応援しますね」
「ククク、さすがは僕のクラスメイトですね。まさかここまでの力を秘めているとは」
「なかなかやるやんか。まさか本戦に残るとはなぁ。ところで何でそんな怖い顔してんねん?」
「すっごいわねぇ。ディレットってこんなに強かったんだ」
横を向くとクラスメイトが何やら言っている。
でも、前にいる化物はまだ生きている。
消さなきゃ…
僕はまた一歩足を進める。
…………くらすめいと?
もう一度横を向く。
え?
あれ?
え……え?
気が付いたら試合が終わっていた。
どうやら僕が勝って本戦に出場らしい。
記憶にはないが大活躍だったらしい。
後ほどクラスで、いや1年で勝ち残れたのは僕とリザリィだけらしい事を聞いた。
他は大体1回戦か2回戦で敗退していたようだ。
よ~し、明日も頑張ろう!
………ところで、僕の3回戦の対戦相手って……誰だっけ?
次回、先輩、魔法、ウォーロック!
ちなみに3回戦の相手に関しては同ブロックにいながらも無意識に見ないようにしていました。
なのに、結局は対面することに……
彼?(彼女?)の勝ち方は…腕を広げて近づいて…棄権する方続出という…察して^^;
自慢は包容力らしいです……




