閑話3 もうひとつの星空の夜
今回は2部構成
一応どっちから見ても大丈夫なようには作りましたけど…
その日の夜、私はどうしても眠れませんでした。
なので、ベットから抜け出して部屋の外に出ることにしました。
目的はありません。
ただ…本当にただなんとなく歩いていただけなんです。
気が付くと屋敷の中庭に出てきてしまいました。
そこで私の他に誰かが先にいたのに気がついたんです。
「あれ…ディル…くん?」
「…シャルちゃんか、どうしたの? 眠れないの?」
「うん…めがさめちゃって…ごめんなさい…」
「何も謝ることなんてないよ…それより上、綺麗だよ、見てみなよ」
私は彼の隣に座って、しばらく一緒に空を眺めていました。
ディルくんはいつも優しいです。
私は彼や彼の家族に嫌われたくありませんでした。
私のパパとママも優しいです、でも一緒にいようとすると困ったような感じで一緒にいられない、いたら困るんだ、というのが伝わって来るんです。
私は嫌われたから一緒にいてはいけないんだ、と感じていました。
寂しかったんだと思います、私の大嫌いなチカラが何かしたんだと思います。
でもその当時の私の話し相手になるのは、そのチカラでお話できる彼らしかいなかったんです。
私はますます孤独になりました。
そんな時にこの屋敷に来たんです。
そこはいつもいっしょうけんめい話をしてくれていた彼らがとても楽しくキラキラとはしゃいでいました。
そして、嬉しくなってつい、飛び出してしまいました。
そこでもう一人、私のチカラを知っても一緒にいてくれる彼に出会ったんです。
だから私は、彼と彼の家族に嫌われることがすごく怖かったんです。
「ねぇ、シャルちゃん。 怖い?」
いきなり言われたときはビックリしました。
ちょうどディルくんに嫌われたら嫌だって考えていたから……
「え!? ディルくんのことはこわくないよ」
私が答えると、彼は何とも言えない表情になって私に話を始めました。
「シャルナちゃん僕はね、怖いんだ」
「…え?」
「僕は、自分のためを本当に思ってくれていた人を傷つけてしまったことがあるんだ」
彼は何を言ってるんでしょうか…
優しい彼が酷いことをしたなんて考えたこともありませんでした。
もしかしたら、まずいお菓子で失敗したりしたことなのかもしれません。
「それって、おかしをつくったとき、まずいおかしをたべさせちゃったの?」
「いや、お菓子は関係ないよ、僕には使い方を間違えると人を傷つけるような力があるんだよ」
彼はなんとなく泣きそうな笑顔で私に話を続けてくれました。
「シャルナちゃんが他の人には無い不思議な力を持ってるように僕にも特殊な力があるんだ、僕はその力の使い方を間違えたことがあるんだ」
そういえば、初めて会った時のディルくんは私と同じように彼らと話ができました。
それは私が嫌いなこの力と似たような何かを持っていたからだったんですね。
「僕はね、とっても悪いことをしてしまったんだ…でもね、それを助けてくれた人がいたんだ…そして、その人から言われた言葉があるんだ…」
ディルくんを助けられるようなすごい人がいた。
その人が言った言葉…気になります。
「…なんていわれたの?」
「それは…『人は違って当たり前で、他人に心を見せても胸を張って誇れる生き方を目指せ』って言われたんだ」
誇れる生き方…私には無理です。
誇れそうにありません。
「シャルナちゃんは人と違う力を持ってるかもしれない、でもそれが理由で僕らがシャルナちゃんを嫌いになることはないよ」
「…え!? あの、それは…」
「シャルナちゃんは怖いんだよね、好きな人に嫌われることが…でもねキミのパパもママもキミのことを嫌いなんじゃないんだ」
「…うそ…でも…だって…」
そんなわけがありません。
この力があるからパパとママは私のことで困って…迷惑だって思ってるんだって感じていました。
この力があるから他のことで好かれないと…嫌われないようにしないとまた一人にされちゃう。
嫌われないいい子でいないと一人ぼっちになっちゃう、そう思っていました。
「シャルナちゃんが力を持っていることを知ったら襲ってくる悪い奴らがいるんだ、キミのパパとママはそれに襲われないようにするために頑張っているんだよ」
「…パパとママはおそわれたくないからわたしがきらいなのかな…」
悪い奴らがいる、それは初めて聞きました。
私の力が悪い奴らを呼んじゃうから避けられていたんだ…
だから…私も嫌われて…
「そうじゃないよ、シャルナちゃんや家族が危ない目に遭わないようにするのに一生懸命なんだ…でもね、シャルナちゃんがそのチカラを持って産まれたことはちゃんと意味があると思うんだ。だからそのチカラを嫌うんじゃなくて、どう使ったら幸せにできるのかを考えるのがいいと思うよ」
「わたしは…きらい…このチカラでしあわせなんて…」
私はこんな力欲しくはなかった。
無ければこんなに悲しくはならなかった。
パパもママも困らせる、こんな力が無ければ…
私が持って無ければ…私が……
「シャルナちゃんは自分が嫌いなのかな?」
「え…その…」
「僕はシャルちゃんが好きだよ。シャルちゃんは大切な家族だし、僕の父さまも母さまも、シャルちゃんのパパもママもセリオン兄さんだって本当にシャルちゃんのことが好きなんだよ。だからね、シャルちゃんは自分を嫌わなくていいんだよ」
ディルくんには本当にビックリです。
なんでそんなに優しいの?
私が考えてることをわかっちゃうし…どうしてそんなに……
「大丈夫!シャルちゃんが悲しいときは支えてあげる。ワガママになってもいいし、甘えたくなったら甘えさせてあげる。みんなシャルちゃんが好きなんだから…だからシャルちゃんも自分のことを好きになって、無理しなくてもいいんだよ」
本当にどうしてこんなに…
私が欲しかったもの、嬉しいことを言ってくれるのでしょうか。
ディルくんとその家族には私を嫌いになって欲しくなかった。
でも、今のディル君には私を好きでいて欲しいと思ってしまいました。
「…すき…好きでいていいのかな…」
「うん!もちろん」
ディル君は笑って頷いてくれました。
私の中で初めて何かが溢れてくる気がしました。
「じゃあ…あの…」
私は彼の背中を借りて、泣きました。
寂しかった事、悲しかった事に…そして何よりも大きな溢れてきた嬉しかった事に…これからのことを考えていたら何故か涙が浮かんできたんです。
色々な感情が私の中で渦巻いていました。
もう、自分のことも力のことも嫌わなくていいかもしれない。
そんなことも考えていました。
私はきっと、この時初めて生きたのだと思います。
自分の気持ちに本当の意味で素直になったのはこれが初めてだったと思います。
ディル君のために何かをしてあげたい。
今度は私が彼を助けてあげたい。
使命感のような何かが私に湧き上がりました。
気が付いたら私は眠っていました。
とても暖かいものを体に感じながら……
これが私の初恋の記憶です。
次回、パーティ、メイド、チャレンジャー!
ディル君は墓穴を掘るのが上手なのでしょうか?




