黄昏の中
見渡す限りの草原に一人佇む少女。
その傍らに屹立する傾いた塔。
円柱形の塔は錆びが目立ち、所々がひび割れている。時代に取り残され、過去の遺物と成り果てた塔は、時折吹く風に軋みを上げる。
朽ちて倒れるのも時間の問題と言った風情の塔を、少女が心配げな双眸で見上げる。
今や、この世界に存在するのは少女と傾いた塔だけになってしまった。
いつからこうなってしまったのかを少女は知らない。知る由もない事だ。
少女に自我が芽生え、自分と世界を認識出来るようになった時、世界には既に少女と傾いた塔しか残されていなかったのだから。
塔を見上げながら、少女は思う。
私は一体何者なのだろう?
そして、私の目前に屹立しているこの塔は一体何なのかと。
幾ら思索に耽ってみても、答えは見出せそうにない。
思索に耽り、どれ位の時間が流れたのだろう。この世界には昼と夜が存在しない。
世界を包むのは、悠久に続く黄昏。
金色に照らされる傾いた塔は、何処か寂しげで、寂しさを知らない少女の心にも伝播して行く。
ーーそれから、どれ程の時が経ったのか。
朧げな瞳に映るのは、一人の少年の姿。
少年は、金色に染まる草原に屹立し、少女の双眸を慈愛に満ちた瞳で見据えている。
靄のかかったような意識が次第に覚醒してゆき、目の前に立つ少年の姿が像を結ぶ。
「あなたは、誰?」
少年の口が動く。が、少女にはその言葉が理解出来ない。
慈愛に満ち溢れていた少年の瞳に諦観めいた色が浮かぶ。
少年は少女に何も伝える事が出来ない。
少女は何者で少年は何者で、そしてこの世界についての彼是を、少年は少女に伝えようしていた。
少女の瞳が、再び朧げなものになっていき、意識は断絶される。
金色を映していた双眸は暗闇に包まれ、少女は深い眠りにつく。
少年は思う。
少女は、後どれだけの時間をこの世界で、孤独に過ごさなければならないのだろうかと。
孤独は感情を殺し、器である身体をも壊していく。少年はそれをよく知っていた。
少年は目を瞑る。
少年の世界もまた、少女と同じように暗闇に包まれていく。
次に少女が目を覚ました時、傾いた塔は、中心から折れ、草原に崩れ落ちていた。
少女は茫然と立ち尽くす事しか出来ずにいた。双眸から溢れ出る涙。だが、少女には理解出来ない。双眸から溢れる、これが何なのか、何故止め処なく溢れ出してくるのか。
だが、一つだけ理解出来た。
理解するなと脳が軋みを上げても、目前に広がる残骸を見てしまっては、理解せざるを得なかった。
「独りになっちゃった」
一雫の水滴が金色に染まる草原に落ちる。




