番外編「砂漠の双龍とオーガとゴーレムの虐殺劇」
ちょっと休憩番外編です。
歴戦の戦士アースとギルド長のリチャードは《オーガの群れの討伐》、《双龍の討伐》ついでに《クリスタルゴーレムの討伐》に来ていた。
「リーダー本当にこんな所にいるのかよ~。」
「リーダーじゃねぇ、ギルド長だ、ギルド長。つべこべ言わず働け、馬鹿」
「でもよー、何もねぇぜ?」
今、二人は見渡す限りの砂漠に来ていた。
灼熱の太陽に焼かれた大地は水一滴の存在さえ許さない。
その証拠に地平線の彼方まで二人以外の生命は存在していない。
「確かにおかしいな。もしかして……」
「もしかして?」
アースは首を傾げながら問いかける。
「騙された?」
「おいおいおい、しっかりしてくれよリーダー。今回の為に色々持って来たんだし、何もせずに帰るのは流石の俺でも嫌だぜ?」
「リーダーじゃねぇ、ギルド長だ。しっかしなぁ、何もねぇぞ本当。」
アースの腰には、ギルド屈指の技術を詰め込んだ四次元袋[ー世の理を超越せし麻袋]が括り付けられていた。
龍人であるリチャードの背には、自らの鱗で作った刃渡り2メートル程の細身の美しい剣が鞘無しで括り付けられていた。
「帰るか」
「まじかよ……」
がっくりと項垂れるアース、無理も無い。此処は王都から僅か50キロ程しか離れていない。
その為、此処まで走って来たのだ。
それが徒労に終わるのだ、肉体的には問題無くとも、精神的にはキツイ物があるだろう。
「さっさと帰るぞ」
「分かったよ、リーダー」
「リーダーじゃねぇ、ギルド――――――――――!!??」
何時もの他愛無いやり取りを交わそうとした瞬間、凄まじい殺気を感じ取り、一人は背中の剣を抜き、もう一人は片手で構えを作りながら片手を[ー世の理を超越せし麻袋]に突っ込んだ。
二人が一瞬で構えを作った後、一瞬遅れて巨大な風と雷の塊が〝降ってきた〟。
一人はそのまま顔面で受け止め、もう一人はその巨体からは想像もつかない程の速度で動き回り全弾回避してしまった。
二人が見上げた空には縄張りを侵されて怒り狂う風龍と雷龍がいた。
その息からは恐ろしいブレスが漏れ出している。
「はははっはー!!!!!やっぱこうじゃなきゃなぁぁぁァァ!!!!そっらッ[アスカロン]!!!」
アースの投げた大質量の大剣[アスカロン]は音速の30倍つまり時速にすると36720000km/hもの速度で飛んで行った。
一般人なら痛みすらなく余波でバラバラになっただろうが――――――――――――――――――――――――――
「グギャギャギャギャッ゛」「グゥオ゛オ゛ォォォォォォォ!!!!!!!!」
2頭の龍はそれをなんなく回避し、投げた本人、アースに向かって暴風と雷を落とした。
「そっらッ!こんなの当たんねー――――!!??」
「――――チッ」
アースにとって幼稚極まりない攻撃だったので、難なく避けようとした瞬間、突如右腕を掴まれ左へと引っ張られたので体勢を崩してしまった。
リチャードはそこに非殺傷のブレスを叩きこむことでアースを吹き飛ばし、暴風と雷の直撃を避けた。
「グフゥッ、リーダーとはぐれちまった……」
「チッ、ヤッッッべェなアースとはぐれたちまった。」
先程のブレスで二人はお互いを目視出来ない程まで離れてしまった。
「んーーー駄目だ、雷雲さえ見えないか。まぁ、良いや。先にこっちだよな。」
アースは右腕を掴んだ犯人をじっと見つめる。
そいつは全身が水晶で出来ており、半分程地面に埋まっているにも拘らず、6メートルもの高さがあった。
「こいつは中々の上物だなぁ、まったく夢の魔女辺りに渡したら喜びそうなのに、もったいない。でも俺に捕獲なんて無理だし、壊すか。」
デカブツを壊すには[アスカロン]が一番だ、と思い[ー世の理を超越した麻袋]に手を突っ込むが目的の品が見つからない。
「あっあれ?……あぁ、そういえば放り投げてたな、忘れてた。」
一人合点すると、拳を握りしめ、強烈な正拳突きを繰り出した。
音を置き去りにした拳はゴーレムの胴にぶち当たり、ゴーレムが一瞬にしてバラバラになった。
「ふぅー、良い仕事した。ってあれ?」
前を向くと、バラバラになった筈のゴーレムが鎮座していた。
「魔力炉を壊した筈なのに?どうなってるんだ?」
ゴーレムは魔力を配給している魔力炉を破壊しないと、魔力の続く限り再生する。
普通、ゴーレムには魔力炉が一つしかない。
魔力炉に刻んだプログラムが完全に一致していないとたちまち自壊するからだ。
「まぁいいや、要するに殴り放題って事だな。」
アースは[ー世の理を超越せし麻袋]から金色のハンマー[無名の金槌]を取り出す。
それは、長い棒の先に棘すら無い完全な球体を取り付けただけの一般的なハンマーだった。
ただ、そのサイズは一般と違いかなり大きい、先端の球体だけで一メートルは有る代物だった。
「ふん、ふん、ふんゃ、」
「gugo、gugu、gugogoooooooooo!!!!!!!」
ハンマーを右に、左に、上に打つ。
それぞれが必殺の威力を持った一撃だったが、速度が遅いので難なく防がれてしまった。
「guruaaaaaaaaa!!!!」
「当たんないぜっ!」
ゴーレムは、反撃とばかりに巨体を動かし体当たりしてきたが、此方も遅すぎるので難なく避けられてしまった。
「パワータイプの末路だな……。その点、俺は何でも出来る勇者タイプだ、たぶん」
「gUa!?、……ggggguuuuraaaaaaaー!!!!!!!」
「ん?お前もそう思うか?いやー中々似合うなぁー俺達。」
「guruu、gurraaaaaaaaaa!!!」
ゴーレムが抗議の声を挙げるが無視される。
(んーどうしよっかな~、遊びは止めてちょっとだけ本気出そうかな。リーダーが龍倒しちまうし。)
「時間があまり無いから短期決戦で行くぞ。」
アースは[ー世の理を超越せし麻袋]に手を突っ込み、緋色に輝く炎神の剣と盾[緋色炎渇の剣と盾]を取り出す。
「それっ」
剣を軽く横に振るう。それだけで物理の理を無視した、純粋な媒体を持たない熱エネルギーは媒体に移り変わり、確かな方向性を持って直進する。
それは、ただたたずむ砂漠を一滴の溶岩すら残さず蒸発させる――――――――――――――――筈だった。
「gurraaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!」
莫大な魔力がゴーレムを中心に展開され、熱の直進を妨げそのまま熱は3次元の壁を越えて世界の外へ捨てられる。
しかし、途轍もない熱エネルギーは、魔力をまき込む、世界の外へと。
第三者から見れば、まるで世界の終わりを思わせる光景は永遠に続くと思われた、しかし――――――――――――――
「それっ」
元々、アースは剣を軽く抜いただけだ。
対するゴーレムは全身の魔力炉―――――――56000をふる活動させていた。
単純な統括状態といっても、前者はまるで手を抜いていて、後者は全力、文章から見ればどちらが勝つかなど、子供でも分かる。
そのアースの一声でついに統括状態は完全に消え失せ、ゴーレムはドロドロに溶解した。
アースのした事は別に大した事ではない。
もう一度、剣を振りなおしただけだ。
それだけでも、単純に2倍の熱量が前線に叩きこまれ、呆気なくゴーレムはその活動を停止した。
「……よしっ!素材は回収できた!さて、リーダーは何処だ?」
バラバラに消滅したと思われたゴーレムは、その活動こそ死んでいるが、その素材は残っていた。
素材が残っているのは、死の瞬間、膨大な魔力が放出され、熱エネルギーの大半が捨てられた事が大きく関係していた。
それに仮にも水晶という、上から数えた方が早いような頑丈で、魔力抵抗値と融点の高い物質だった事と、
製造者に強力な全耐性の魔術か魔法がかけられていた事も、極々多少は関係している、かもしれない、事も……ないかな?
「何処にいるんだ。リーダーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
さて、はぐれた二人の運命はどうなるのやら(棒)続く。




