初対面と初ダイブ
「……バイクでも乗るのか?」
「いや、これが『Crown』だよ」
「もう少しどうにかならなかったのか? ほら、デザインとか」
「まあ……精密機器だからしょうがないよ」
俺たち四人が囲む縦横高さ80cm位のダンボール箱、賢也が中から取り出したのは、頭一つすっぽりと覆うフルフェイス型のヘルメットのようなそれ、『Crown』だった
「これをかぶるのか? ……もうすぐ夏だし蒸れそうだな」
「んー、まあそれはしょうがないよ遥くん。 幸いにもリビングは今涼しいし」
まあそうだな、と軽く反応してから麦茶を飲む
とまあ、今日から7月なのにクーラーが動いて居るのは、特別な理由があるわけでは無く、ただ単に譲葉が贅沢をしているだけだ。このブルジョワめ
「さて、ではここに『ミスタリア・オンライン』がダウンロード&インストールされた『Crown』が三台あります」
「ふむふむ」
「一個は賢也くんのでもう一つはボクの。んで、残りの一つ、コレが遥哉くんの『Crown』です! 『遥哉専用Crown』! ヒュー! かっこいー!」
「そのうち一個は元々俺の」と主張する賢也をスルーして『Crown』を頭にかぶせてくるつばめちゃん
いや、かっこいーとか言われても、『Crown』の見た目がマヌケなのであんまり嬉しくない
あ、でも遥哉専用ってのはかっこいいと思う。三倍の速度で動けそうだ
「さて、それでは、キャラメイクに移ろうと思りまーす」
つばめちゃんが言うと、譲葉は「私も『Crown』とってきますね」とダッュで部屋を出て行ってしまった
「じゃあ、譲葉ちゃんが帰ってくる前に手順を説明しておくね。 まず、起動してから……あ、『ダイブ』の掛け声で起動するからね。んで、それから本来なら身体のデータの入力からしなきゃいけないんだけど、完成品がこちら」
と、つばめちゃんが指を指したのは『遥哉専用Crown』だった
「三分クッキングみたいだな……ていうか、つばめちゃん俺の身長体重も知らないだろ。カンでいれたのか?」
「保険委員がここに」
そういってつばめちゃんが指を指した先、賢也が目をそらして、虚空を見ていた
「あー、賢也くん? …………話は後だ」
無言の前後で声色を変えて言うと、賢也は「話せば分かる!」と、必死で説明をしようと話しかけてきたが、当然スルーだ
「つばめちゃん。んで、次は?」
「ちょっ、スルーしないでくれよ!」
「ああ、ええとね、顔写真がキャラメイクの時に取り込まれるから、それをいじって好きなキャラクターを作るんだよ」
「へー」
「で、キャラメイクの時は公開モードに切り替えて皆で作るから」
「ん? なんでだよ」
「ほら、他人の服とか決める時って最高に楽しいじゃん?」
「あー、成る程」
成る程、それは確かに納得できるな。自分の事を決めるより他人の事決める方が楽しいしな
「ただいま、持って来たよ!」
妹ちゃんが勢いよくドアを開けて入ってきた
「さて、じゃあ始めようか……ミスタリアの世界に旅立つ準備を」
つばめちゃんがかっこつけたようにそう言い、三人が頷きCrownを被る
そして、つばめちゃんから教えて貰った起動ワードを呟く
「えーと……ダイブ?」
不安気たっぷりに呟いた直後、俺は意識を失った--------そして次の瞬間、俺の意識は、終わりが見えないほどに延々と続く、何もない空間に一人立っていた