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家庭事情と福沢諭吉

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「あー……うー……」


俺、園部遥哉は6月30日の夜9時、考え事をしながらの夕食を終えて、憂鬱な気持ちでソファーに横たわっていた



「遥くんはなんでそんなに唸ってるの? ポチがまたマイケルと喧嘩してるのかと思ったよ」


俺が横たわっているソファーの、肘起きの部分にちょこんと座っている妹ちゃんが、相変わらずの無機質な声で意味が分からない事を言った


「誰だよポチって。うちは犬なんて飼ってないし、喧嘩してる犬の名前はマイケルかよ。外人かぶれか」

「マイケルは中華鍋だよ」

「……相変わらずお前のセンスは意味不明だな」


はあ、と自然にため息がでる

能天気な奴だ。こっちは大変なのに


「遥くん、どうしたの? 唸ったりため息ついたり」

「あー、ちょっとかくかくしかじかでな」

「カクシカじゃ分からないよ」


勿論、俺のため息の原因は学校でのアレだ


一件の後に手のひら返したように満面の笑みになったつばめちゃんは、レクチャーと、アバター制作の日程を楽しそうに決めていた


そして明日が運悪く土曜日の為、日程は明日に落ち着いた


「もしかしなくてもなんかあったんだね、お姉さんに話してごらん」


少しでも妖艶な雰囲気を出そうとしているのだろうか、妹ちゃんの無機質な声にはほんの少し艶が入っていた


「妹ちゃんは姉ちゃんじゃなくて妹ちゃんだろ。まあでも話せば少しは楽になるかもな……時は欧州ヴァルヘヴン、豪奢な剣を腰に添えた男が」

「真面目に話してくれていいよ」

「……そうだな、今日学校でな」


それから俺は、妹ちゃんにつばめちゃんに手を上げてしまったこと、ミスタリア・オンラインを半強制的にやることになったこと、学校であったことを全部話した


「……と言う訳なんだよね。 あー、どうしよ」

「成る程。まあ遥くんにも非は有るんだし付き合うのが妥当かな、と」


話し終えると、妹ちゃんは相変わらずの無機質ボイスでそう言った


「でもなあ……俺ほら、機械とか大の苦手じゃん? 大丈夫かなって」

「多分大丈夫だよ、あ、それと私もミスタリア・オンラインやってるから」

「はあ⁉」


俺は今まで妹ちゃんがミスタリア・オンラインをやっているとは知らなかった。それどころか、妹ちゃんが『Crown』とかいうゲームの中に入る機械を持っていることさえ知らなかった


「マジかよ……バーチャル世代怖え……てかお前『Crown』持ってたのか」

「はい、少し前にお兄様の貯金箱からいくらか拝借させて頂きました」

「マジかよ⁉ くそっ……通りで貯金箱が軽くなったと思ったぜ……バーチャル世代怖え……あとお兄様って呼べばなんでも許されるとか思ってんじゃねえぞ」

「諭吉を一人借りただけですお兄様。貯金箱は数グラム軽くなるだけですお兄様」

「心の重さだよ‼ くそっ……お兄様お兄様連呼しやがって‼ 罰として一週間ずっとその呼び方だ‼」

「いやですお兄様」


諭吉……俺の諭吉いいぃいぃ‼

はあ、はあ、恐ろしいぜバーチャル世代。金を盗った上にお兄様まで拒否するなんて……彼女達にとっては全てがゲーム感覚なのだろうか

ちなみに、俺の『Crown』は、つばめちゃんが「何台かあるから一台あげるよ」とのことで、無料で貰えるらしい。なんでそこまでしてくれるのか。理解できない

しかも何台かあるって……ブルジョワか


「さて本題に移るよ。遥くんは明日レクチャー受けるんでしょ? どこでやるの?」

「うち」

「じゃあ部屋片付けとかないといけないね。それと、それなら私も一緒にいてあげるよ。身内が一人でもいる方がいいでしょ?」

「有難い」


それと、と妹ちゃん


「遥くん、何事も楽しんで、ね」

「楽しんでって言われてもな……」

「覚える事も一歩、遊ぶ事も一歩、嫌々だから気が重いんだよ。 もっと楽しんで、足取り軽く。 遥くんならできるから、頑張って、ね」


相変わらずの無機質な声。この声から意思を読み取れる人は世の中に何人いるだろうか。 そう思えるほどに無機質な声


だが、俺はしっかり、彼女の心からの声を聞くことが出来た

そして、その一言で、どうやら俺は納得してしまったようで、肩が一気に軽くなった気がした


「ああ、そうだな」


そう言うと、妹ちゃんは優しく微笑んだ


この後のことはあえて語るまでもない

俺は風呂に入り、妹ちゃんはそのままソファーで寝てしまった

俺は布団を上にかけてやり、自分は部屋でベッドに入る


いつもと同じ夜。俺は今日も明日に向かって軽やかに一歩を踏み出せそうだ

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