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死穢を導くディザスター  作者: 神宅 真言
三章:伸びる枝葉と、悪意の手
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03-07




  *


「ふぅん、なかなかのモンじゃねえか。ここで呪符とか色々作ってたんだな」


 空覇は椅子を引き出して前後逆に座り、背凭れに腕を重ね顎を乗せている。中に居た生徒達は逃げる事もままならず、床に揃って正座させられていた。一年生の加賀千だけは入口の扉の前に見張り代わりに立たされている。


 ──そもそも空覇が『呪術研究会』という同好会の存在に気付いたのが、この加賀千という一年生のお陰だった。食堂で夕飯を摂っていた際、たまたま近くの席でひそひそ話をしていたのが耳に入ったのである。どうやらこの同好会は誰かの紹介でないと入れないらしく、それを友人に語っていたという次第だ。


 そのいかにもな名前の同好会の存在にピンと来た空覇は、会に赴くという加賀千の後をつけてこの部屋を発見するに至ったのである。成る程地下ばかりに気を取られていたが、確かに三階四階はあまり立ち入る機会の少ない場所だ。感心しながらもドアから漏れる瘴気に眉をしかめ、空覇は有無を言わせずこの部屋へと踏み入ったという訳なのであった。


「ありゃ何だ? あの棚に並んでるやつ、タッパーか何かか。水槽に入れられない別の活き物でも入ってるのか?」


「あれは蠱毒やってるんです。空気穴開けて……タッパーだと大きさ揃え易いし中の様子も薄ら見えるし使った後も洗い易いから便利なんですよ。何より落としても壊れないし」


「はぁん、今日びは壺とか使わねェのか、タッパーで蠱毒とか手軽過ぎるだろ……。逆に組み木細工の箱とかはちゃんとしてたよな、あれは何処で手に入れてんだ?」


「そっちは『伝統工芸同好会』に外注してます。箱の他にも、像とかの木彫りの物なら何でも作ってくれるのでかなり重宝してますよ」


「はあ、思ってたより結構色んな同好会があるんだな……」


「何処も人数は少ないですけどね」


 呆れ混じりの溜息を吐く空覇に、悪びれもせず生徒達は口々に答えてゆく。


 改めて部屋を見回すと、鏡や置物などかなり様々な物が陳列されている。但し大掛かりな物は少ないようだ。とは言え、仕掛けの規模と呪法の強さは必ずしもイコールではない。それを証拠に、部屋の中には多彩な瘴気がぐるぐると渦を巻いている。


「よくこんな中で長時間居られるよなァ。気分悪くなったり体調崩したりしねェの?」


 空覇が鼻に皺を寄せて呟くと、生徒達は不思議そうに顔を見合わせた。


「や、別に……? 確かに色んな物飼ってるし匂いキツい材料とかもあるけど、綺麗に掃除してますし、時々窓開けて換気とかも気を付けてるし……」


「──あー、そういうんじゃなくてな。ってかお前ら、作ってるだけで『見え』ねェのか……そりゃ平気な訳だ。こんだけ濃い瘴気がドアからもダダ漏れだってのによ」


 そう言いつつ顔の前で煙を払うような仕草をする空覇を見て、生徒達はきょとんと互いの顔を見合わせた。そして一拍置いたのち、ああ、と一人がポンと手を叩く。


「やっぱり眞柴先生はそういうホンモノの人なんですね! いやあ、俺ら受け継いだ方法通りに作ってるだけの一般人なもんで。てか眞柴先生、俺らの作ったヤツどうでした? 実際に具体的な結果が出ないと、効いてるかどうかって分からないんですよねえ」


「やっぱアレはお前らの仕業だったんだな。成る程、複数人で作ってんならバラエティに富んでるのも納得だ。それにしても、よくあんなえげつねえの作るよな……。対処出来る俺だったからいいようなモンの、普通の人間相手ならどれも一回で寝込むレベルだぞ」


「あ、やっぱそんなにキッツいんですね。いやあ眞柴先生用は強いのでもいいって言われてるから、普段は絶対使わないようなヤツ作ってたんですよ。やっぱりただの呪符書くだけと違って楽しかったです」


 にこやかに言う生徒を睨み、空覇はまたも盛大に溜息を吐いた。落ち着く為に煙草でも吸いたい気分だが、空き部屋とは言え生徒用の部屋である以上そうもいかない。空覇は人差し指でこめかみを揉みほぐしながら、細めた眼でぐるり一人一人を睨んだ。


「じゃあ何か、お前らはアレを誰かに頼まれて作ってたって訳なんだな? その依頼してきた奴って誰だ、さっさと吐いちまえ」


「え、……それは」


 途端に生徒達は互いに顔を見合わせ、揃って押し黙った。フン、と鼻を鳴らし空覇は彼らを睨み付ける。


「心配しなくても、お前らが言ったなんて漏らしゃしねェよ。ついでにもうこんな同好会辞めちまえ。まだ若いのに、自分から進んで魂穢すこたぁねえだろうよ」


 空覇の剣幕に肩を跳ねさせながらも、生徒達は下を向いて喋ろうとはしない。水槽の中で何かが蠢く、ごそり、ずるりという音だけが部屋に響いている。


 ──やがて一人が観念したようにぽつり、ぽつりと言葉を零し始めた。その声は掠れ、膝の上で握った手は震えていた。


「その、依頼は……誰からなのかは、正確には分かりません。その、上から、とだけ言われて、封をされた依頼書を渡されました。結局俺らは手紙の指示通りにしてるだけで、誰からなのかとかは一切……」


「上から、か……。そうか、本当に知らないならそれはいい。ただお前ら、本当にこんな事、卒業まで続ける気か? どうやらこの学園、『呪詛返し』は製作者や使用者にいかないような仕組みになってるみたいだが、それでもずっと呪法に触れてて良い事なんて無ェぞ」


 空覇に言われ、生徒達はきょとんと空覇を見返した。


「えっと、眞柴先生……その、呪詛返しって何ですか?」


「それも知らずに呪法扱ってたのか。……いいか、呪いってのはそもそも相手だけじゃなく、呪う側や作った奴にも影響があるモンなんだ。更に、相手が呪いを見破って跳ね返したなら、反動も二倍三倍になる。それが『呪詛返し』だ」


「ああ、聞いた事あります! 陰陽師とか出て来る話でそんな事言ってました!」


「ああ、それそれ。で、プロはあらかじめそれを防護するような術を身に付けてるもんなんだが──不思議な事に、この学園では最初から呪詛返しのエネルギーが何処かに流されるようなシステムになってるみたいでな。だからお前らも無事だし、一般生徒もリスク無しで呪符とか使い放題になってるって感じなんだが……とは言え」


 空覇はそこで言葉を切り、周囲を見回した。あちこちから立ち昇る瘴気が渦を巻き、壁や天井に染みの如くこびり付いている。こんな場所で毎日過ごしていたら、精神や身体に支障を来しかねない。


 言葉を続けようと空覇が口を開いた時、生徒の一人が、でも、とそれを制した。


「俺ら、……逆らえないんです」


「それは、何でだ」


「俺らは奨学金でこの学園に通ってます。寮費も学費も全部、学園に援助して貰ってる身です。その為の条件が、学園側からの要求に逆らわない事、なんです」


「──っ、」


「だから勝手に呪術研究会を辞められないし、呪法を作るのも辞められないんです。もし逆らったのがバレたら、俺ら学園にいられません。……だから眞柴先生、ごめんなさい」


 語ったのは一人だが、皆それぞれ同意するように頷いていた。それは一年の加賀千も例外では無い。どうやら全員が同じ境遇だったようだ。


 空覇は大きく溜息をつき、椅子から立ち上がった。皆が弾かれたように空覇を仰ぐ。


「……わーったよ。俺は此処で何も見なかったし、お前らも何も話さなかった。それでいいな?」


「あ、……い、いいんですか」


「悪いのはお前らじゃねぇってのはよーく分かった。あ、でも一つだけいいか」


「え、ええ、何ですか……?」


 ニィッと笑い、空覇が皆を見回した。空覇の心の中は彼らにこんな事を強要する奴等への怒りで煮えたぎっていたが、表情に一切出さずに空覇はおどけた調子で続ける。


「俺への呪法な、出来れば処分し易いので考えてくれるとありがてェな。捨てる時に他人に影響が出ないよう気ぃ付けるの、結構疲れるからさ」


 ──それから少しの遣り取りを経て、空覇は部屋を後にする。ちらと瘴気の漏れる扉を眺め、それから隣の部屋のドアを見詰める。


 隣室のプレートには、とある三年生の名前が記されている。──『八色雷火』と。


 雷火から呪詛の匂いがする訳が理解出来た。隣の部屋があれだけの瘴気を漏らしているのだ、恐らく壁を越えて雷火の部屋にまで瘴気が染み付いているのだろう。


 空覇は舌打ちを零しつつ、一人廊下を進む。そこかしこにわだかまる闇を蹴散らし、祓い、それでも無限に湧き出す闇を睨み付け──どうしようも無い苛立ちに、奥歯を噛み締めるのだった。


  *


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