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死穢を導くディザスター  作者: 神宅 真言
三章:伸びる枝葉と、悪意の手
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03-06


  *


 同好会である『裁縫クラブ』は女子だけでなく男子の側にも存在し、何なら女子側よりも更にありがたがられ重宝されている。他にも男女共通して存在する同好会は多いが、『やくさいさまの集い』と『呪術研究会』も同様に、女子だけでなく男子の側にも存在する。


「おい、このタッパー何日目のだ? そろそろ様子見た方が良いんじゃないか?」


「あ、それ三日目のやつ。まだ三匹残ってるから大丈夫」


 ──男子寮四階にある空き部屋。そこが実質、『呪術研究会』の部室として使われている場所であった。


 壁に設置された棚には資料の本や符に使う紙が詰まっており、また反対の棚には幾つもの容器や箱などが並んでいる。部屋の中央に置かれた机の上には筆やペン、インクやナイフなどの道具が揃えられ、床にある細かく仕切られた水槽の中には沢山の虫や蜥蜴、蛙などが蠢いていた。


 元々三年生用の一人部屋であるので、部屋そのものはあまり広くはない。そこへ棚だ机だを設置してある為に更に部屋が狭く感じられる。その上、ほぼ毎日複数人の会員が顔を出しているので、いつも定員オーバー状態だ。


「そういや、今日のノルマどうするよ? 今日は誰が担当?」


「あ、俺俺。何にしようかまだ考え中なんだけど」


「早くしないと注文者にどやされるぞ。ネタは用意してあんだろうな?」


「大丈夫バッチリ。きっかりオーダーされた時間までには仕上げるから問題無いって」


 会員である男子生徒達が会話を交わしながら作業に没頭している。その姿は生き生きとしつつ真面目そのもので、例えば科学部などが実験に集中しているさまと何ら変わらない光景に思えるものだった。


 ──『呪術研究会』では、個人的に怨みを晴らすなどの理由で呪術を扱う者は少ない。むしろ純粋に呪術という現象を理解し実践してみたいという、好奇心や研究欲求から所属している者が殆どだ。


 そしてそれらを生かし、この会では『呪術のオーダー』を承っている。目的や状況に応じた呪術の提供をモットーに、様々な形態での呪法を提案するサービスだ。上級生達から脈々と受け継がれて来た知識の蓄積は凄まじく、ありとあらゆる呪法のデータが会には残されている。だからこそフレキシブルな対応が可能となっているのだ。


 そしてこの春から、新たなオーダーが呪術研究会へともたらされた。それは──『毎日一つずつ、寮監である眞柴空覇に呪法を仕掛けて欲しい』というものだった。


 最初、会員達は大いに戸惑った。──確かにこのようなオーダーは過去に例が無い訳では無かった。問題児を追い詰めたり学園にそぐわない教員を退職させたりなど、通常の手段では手が出せない状況でも呪法ならば問題を解決する事が可能だからだ。


 しかし実際に接するにつれ、眞柴空覇はそういう事をされるような、問題のある人物には決して見えなかったのだ。


 誰にでも分け隔て無く接し、授業も分かり易く、生徒の相談にも親身に応え、柔軟性を保ちつつも締める所はビシッと締める。背が高く顔も良いがそれを決して奢らず、ヘビースモーカーである事以外にはおよそ欠点らしき欠点が見当たらない。逆恨み以外におよそ他人から呪われるような要素が見当たらない人間であった。


「なあ、気が重くね?眞柴先生へのやつ。俺ちょっとヤなんだよな、あんないい人に呪法仕掛けんの」


「でも上からの注文なんだから仕方無いだろ。それにさ、何でか知らないけど眞柴先生、全然効いてなさそうだぞ?」


「ああそれな! 結構強いヤツでも大丈夫って言われてるから、普段試せないようなキッツいのも作ってみてるけど、全然ケロッとしてるよなあの人。おかげでこっちは色々出来て楽しいけどさ、何なのアレ? もしかしてホンモノじゃないの?」


「ホンモノって何だよ、陰陽師とか退魔師とかそういうヤツ? ラノベじゃないんだからさ。あ、でも術士とか霊媒師とかなら有り得るのか。実際、眞柴先生ってあれだろ、呪符見付けると剥がして回ってるし」


「あーそれな! 『ゴッドハンド眞柴』!」


 ははははは、と会員達が声を揃えて笑う。ひとしきり爆笑したのち、皆ははあと息をついて作業を続けるべくまた意識を集中させる。一人が小さめの水槽からピンセットで何かを摘まみ出しているのを、符を書くべく筆を握った生徒が不思議そうに見詰めた。


「え、蛆使うんだ? 珍しくない?」


「変わったのやってみようと思って、昨日から用意してあったんだよ」


 そうして会話を交わしつつ作業を進めていると、不意にコンコンコン、とノックの音が部屋に響く。顔を上げる事無く、どうぞー、と一人が応えると、控え目にドアが開かれ小柄な一年生が顔を覗かせる。


「失礼します、……あの、先輩、その」


「おー、入れ入れ。それでさ早速で悪いんだけど、良かったらこっちの作業手伝ってくんない?」


「いえ、その……えっとですね」


 扉を開いたまま、一年生は部屋に入らず何かを言い淀んでいる。ここでようやく異変に気付いた一人が顔を上げ、入口をゆっくりと見遣った。


「その、先輩……、ゴメンなさい」


 華奢な一年生──加賀千快翔カガチ・カイトは整った顔をくしゃくしゃと歪め今にも泣きそうだ。どうしたのかと問おうとした生徒は、加賀千の肩に腕が回されているのにようやく気が付いた。


「──っ、あ、あああっ」


 余りの驚きに思わず指を差して立ち上がる。そのただ事では無い様子に、ようやく他の生徒も扉の方を見遣った。


「ゲッ、やべッ」


「えっえっ、何で!?」


 加賀千の肩を抱き扉の隙間から覗いている、その人物は──先程彼らが話題にしていた、寮監眞柴空覇マシバ・カラハその人であった。


「ちょっと邪魔すンぜ。ま、嫌っつっても入るけどよ」


 そしてドアの間から室内へと身体を滑り込ませた空覇は、楽しそうに、心底楽しそうに牙を剥いて笑った。


  *


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