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女王の毒針  作者: 瀬良浩介


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3/6

03

超短期連載企画!

三日間で全6エピソードの短編を公開します。

短編「女王の毒針」 ぜひご覧ください。

 間もなく、学園を上げての生徒会長選挙が始まった。

 生徒会長に選出された者は、学園の、ひいては人類そのものの未来を担う人物として行動しなくてはならない。凡人であるイナヤ達にはその詳細は知らされていなかったが、自分のクラスから生徒会長が選出されたら大変光栄なことである、とだけ教えられてきた。

 卒業のときを迎えたら、生徒会長は当該クラスの生徒たちに守られながら学園を後にする。だからその他大勢の生徒にとって、お姉様のそばにいることは恐悦ともいえる喜びであるのだ。その眼差しは、もしかしたら恋愛感情といって差し支えなかったかも知れない。

 そんなお姉様たちの輝かしい立ち居振る舞いの影で、マッツたち男子の行く末は語り草になることはなかった。


「え、わたしたちと目的地違うじゃん」

 会長選挙が終わり、見事、我がクラスの委員長セイが生徒会長に選ばれた次の日。校舎の屋上でイナヤはマッツと二人きりになる機会を得た。

 いつも通り屋上に出たイナヤは、そこに先客のマッツを見たのだ。そこでマッツの口から語られた真実は、イナヤの心を激しく動揺させた。

「そうだよ。でも、誰も気にしないでしょ」

 クラスでは、卒業後の進路についての話題でもちきりだった。進路といっても、進学か就職かといった話ではなく、読んで字の如く進む(みち)のことだ。

 学年朝礼では、『お母様』ことサラ学園長から直々に訓示があり、卒業後にイナヤたちが進むべき路の説明をした。その内容は、生徒たちに驚きと喜びをもって迎えられたのだった。

「俺は、ここを出られるってだけで幸せだな」

 マッツは屋上の柵に両手でつかまり体を支えながら、青空を仰ぎ見た。しかしその空は擬似的に投影されたもので、太陽の光もレンズを通した反射増幅光だ。宇宙空間にいながら、学園コロニーは常に回転して一Gの重力を発生させているので、屋上から疑似青空に向かって()()()ことは決してない。

 この青空という天井がなければ、隣接する別の学園コロニーや、人類の遥かなる故郷、地球も見えるはずだった。

「ずっと息苦しかったの?」

 イナヤはマッツの不幸せについて想像を働かせた。男子が自分ひとりというのは、どれほどの疎外感を味わうのだろうか。しかし、マッツは首を横に振る。

「ぜんぜん。だってみんな優しいし。最高の学園生活だった」

「じゃあ、なんで」

 わざわざここを出たいと思うのか。そう言おうとして、イナヤは息を呑んだ。

「このコロニーの外に、俺の未来が待ってるから、かな」

 マッツはイナヤを見ずに言った。そう、マッツは未来を見ている。他の女子と同じく、未来だけ見ることを使命だと感じている。

「どんな未来かわからないのに」

 イナヤは力なくつぶやいた。


 イナヤたち女子には、生徒会長の船出を護衛する命が下っていた。卒業後、生徒会長が乗り込むシップに様々な役割を担って搭乗するのだ。

 成績優秀者はシップの航行や護衛機のパイロットなど、花形と呼ばれる職につくが、イナヤを含め大多数が荷捌きや清掃、厨房、医療などの生活を支えるエッセンシャルワーカーだ。

 船出、とはいうものの、目的地は眼下に見えている。わずか三十二万キロの旅路、地球である。

 セイを船長にした船は地球に降下後、安全な陸地を探し出して着陸。そこで船を中心に建築物を増設し、人が住める環境を作り出す。

 準備ができ次第『お姉様』は『お母様』となり、新たな学園が生まれる。これが会長選挙後、三年生だけに明かされた真実だ。

 片や、マッツたち男子の使命は別のところにあったのだ。

 大気圏突入まではイナヤたちのシップに同乗するものの、着陸を待たずに専用機で単身シップを離れる。そして、別コロニーから地球に降下した他の学園をビーコンを元に探し当てられれば、賓客(ひんきゃく)として迎えられるということらしい。

 それ以上のことをマッツは語らなかった。あえて言わないのかもしれないが、もしかしたら説明をされていない可能性もある。

 だがイナヤにはぴんとくるものがあった。マッツは『お婿さん』になるのだ。てっきり、マッツはうちのお姉様と結婚させられるのだと思っていたが、それが別コロニーのお姉様に変わっただけだ。


 少し離れたところで、清掃員の女性が屋上の手すりを拭いている。イナヤの視線に気付いた女性は軽く会釈をした。

 その顔つきは年配女性そのものだが、年齢は一回りも離れていないはずだった。クローン体の老化は早い。あの女性はイナヤの未来の姿だった。

 イナヤのような一般生徒は、お姉様の護衛と学園建設の任務が終われば、あとは急速に老けていく。使い捨ての命といっても過言ではない。

 そもそも地球の過酷な環境の中で、学園建設とその運営が成功する確率は二十五%程度だという。それでもやらなくてはいけないのだ。人類がふたたび地球上で繁栄するために。


 イナヤは奥歯を噛みしめた。――この差はなんなんだ。

 地球環境が壊滅的に悪化し、併せるように人間の男子出生率が激減。そこから幾多の戦争を経て、人類の数は地を這うようなレベルに落ちた。そこから起死回生の再生を遂げるために計画されたのが、この学園だ。

 それは理解できるが、お姉様とその他大勢の違いに義憤(ぎふん)を覚える。凡人でいいやという思いは、平民が貴族へ抱くような妬みへとすげ変わっていた。マッツを奪われるという思いが、お姉様への敵愾心(てきがいしん)に変わっていく。

 先人の愚かさ故、いまの人類は辛酸を()めさせられている。自分の運命を決定づけられた今、イナヤは尚さらそう思わざるを得なかったが、学園内で自らの境遇を呪っているのはイナヤだけだ。

 もし学園の思想に反することを口走りでもすれば、すぐに処分が下る。『転校』という名目でいなくなったイレギュラーな生徒たち、アガシやガラシェ、ゾリュー、リーシンがどういう運命を辿ったのかイナヤには想像がついた。だから、イナヤはマッツへの想いをひた隠しにしてきたのだ。マッツと少しでも長く一緒にいるために。

 けれど、結局はマッツと離れ離れになるのだったら、これまでの我慢は一体何のためだったのだろうか?

04 へつづく


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