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超短期連載企画!
三日間で全6エピソードの短編を公開します。
短編「女王の毒針」 ぜひご覧ください。
四人はそれぞれの思いでクラスのお姉様に対抗心を燃やしていた。
ガラシェはスポーツで、ゾリューは勉強、リーシンは芸術、アガシは統率力、つまり学級委員選挙でお姉様に挑もうとしていた。聞けば聞くほど、四人は自分に似ているとイナヤは感じた。
「同じ穴のムジナだもん。見てればわかる」
ガラシェが口の端を持ち上げてニヤリと笑う。
「お姉様を見る目が違う」
ゾリューがイナヤの目を見て言う。
「イナヤさんは、お姉様にどんな思いを?」
リーシンの問いに、イナヤはマッツへの想いを打ち明けようか悩んだ。確かに同じなのだが、それぞれが崇高な方法でお姉様に挑んでいるのに対し、自分は男とくっつきたいだけというのがどうにも矮小に感じる。四人と肩を並べる資格はない。
「ごめん。ちょっと、わたしには判らないかな」
イナヤは結局、自分の思いを打ち明けられなかった。四人はため息をつく。
「そっか。お姉様対抗五人衆になるかと期待したけど。まあ、気が向いたら声かけてよ」
アガシたちは笑顔でその場を去った。イナヤは、四人がどうして笑っていられるのか信じられない。
お姉様に立ち向かうということは、自らが異端であると証明することだ。その行き着く先は『転校』だというのに。人類が衰退し、住めるところが限られたこの世界で学園を追い出されることは、すなわち死を意味するのだ。
イナヤは目立たぬよう日々を過ごしながら、四人の行動を見守った。
まず、ガラシェが頭角を現した。初夏の体育祭において、参加した三種目全てで一位を獲った。もちろんお姉様方を抜き去ってのことなので、観覧席からは大きなため息が漏れた。
次いでゾリュー。二年生の二学期、中間点テストでゾリューは自分のクラスのお姉様と総合点が十点差で二位につけた。生徒たちはざわついた。一般生徒とお姉様の総合点が僅差になることなどこれまでなかったからだ。
リーシンは絵画コンクールで名を馳せた。学内コンクールは生徒たちも作品に投票を行うが、ほとんどの生徒がお姉様の作品に票を投じるので票の重みに価値はない。しかし、AIによる作品への評価が出たときに再び学内はざわついた。リーシンの作品に、各クラスのお姉様方の作品に匹敵する点数がついたのだ。独創的、それがリーシンに対する最大の評価点であった。
そして二年の三学期、期末テストでゾリューはついに全教科満点を叩き出した。しかし別クラスのお姉様が同じく満点だったため、同率一位という結果だった。結果発表のスクリーンを見つめる生徒たちは、褒めそやすでもなく皮肉を言うでもなく、ただただ黙った。威風堂々とたたずむゾリューの周りに近寄る者はいなかった。
そして、二年生の終業式を境にガラシェ、ゾリュー、リーシンは学園から姿を消した。
三年生の一学期に執り行われる生徒会長選挙は、それはそれは盛り上がる。もちろん会長候補は、三年のクラスからひとりずつ選出される学級委員長だ。
選挙の際は、我がクラスから生徒会長をとクラス間で熱い応援合戦が繰り広げられる。当然ながら自分のクラスの委員長に票を投じることになるので、投票では決着がつかない。選考は学術からスポーツまで、AIの評価点も取り入れながら、様々な分野の競技内容で委員長を競わせる。その様相はもはやお祭り騒ぎだ。
始業式から二週間の後、前哨戦として学級委員選挙が公示される。ただこの選挙は形骸化していると言っても過言ではない。一年次も二年次も、遡れば小学生の頃からイナヤのクラスの学級委員は変わらない。イナヤのクラスのお姉様は名をセイといった。
セイは子供の頃からその風格を備えていた。食べてるものが違うのかな、とイナヤは思ったことがある。支給される食事は全員同じものであるはずだったが、こっそりセイのものだけ栄養素が足されていたりするのか。出産時のベッドが違っただけで、その後の人生を大きく左右したのかもしれない。しかし、イナヤはこれまで羨ましいと思ったことはない。凡人でいい、常々そう思ってきた。学級委員長や生徒会長などは、責任が重大すぎるからだ。
しかしその学級委員選挙に立候補した者がいた。アガシだ。
学級委員選挙の前日の昼休み、久々にアガシから屋上に行こうと誘われた。
イナヤはランチボックスに手をつける前に、まず言わざるを得なかった。
「やめなよ。今からでも遅くないから、辞退して」
「どうして?」
どうしても何もない。ガラシェもゾリューもリーシンも居なくなった。彼女たちは表立ってお姉様に宣戦布告した訳ではない。それなのに追放されてしまった。選挙に立候補するなんて行為はお姉様に面と向かって刀を抜いたようなものだ。
「『転校』が怖くないの?」
イナヤの問いかけに、アガシは鼻を鳴らす。
「私は、自分を一番信じてる。このクラスを率いるのは私だって。もし選ばれないのなら、私はこの組織に必要のない存在、それだけってこと」
アガシの眼差しはどこまでもまっすぐだった。イナヤは目を逸らさずにはいられなかった。
斯くして学級委員選挙の当日、アガシとセイは教室の壇上でそれぞれ熱弁を振るった。
アガシが語った内容は、どれも革新的なことばかりだ。旧態然とした学園を変えたい、そんな熱い思いが溢れていた。片やセイが語ったことはわずか。これまで通りこのクラスを、ひいては学園を導く存在となる。それだけだった。
投票は無記名で行われて秘密が守られなければならないがゆえ、古よりのしきたりに則って紙とペンで行われる。紙は貴重品であるため、選挙の時くらいにしか使用されない。
イナヤは迷いながらも、アガシの名を書き込んで投票した。結果は火を見るより明らかだったが、大差でセイが勝利した。アガシに二票だけ入ったのは、アガシ本人とイナヤのものだろう。
次の日からアガシは学園に来なくなった。
イナヤは、自分の一票がアガシの運命を変えたかも知れないと自分を責めた。アガシが冗談半分で立候補して獲得票ゼロで敗れたのなら、ただのお笑い草で終わったかも知れないのに、そこに一票入れた者がいた事実が良くなかったのではないか。
それからというもの、イナヤは毎日のように屋上に出て景色を眺めた。以前にも増してクラスメイトと距離を感じ、友人と口をきくことが減った。
03 へつづく
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