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女王の毒針  作者: 瀬良浩介


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1/6

01

超短期連載企画!

三日間で全6エピソードの短編を公開します。

短編「女王の毒針」 ぜひご覧ください。

 イナヤが通う女子高には女王がいる。

 天真爛漫、才色兼備、立てば芍薬(しゃくやく)、座れば牡丹――というやつだ。何をやらせてもトップクラス。もとい、断トツ一位。勉強も、スポーツも、芸術も、統率力も。

 イナヤたちの学園には各クラスに一人ずば抜けてポテンシャルの高い生徒がいて、まずはクラスの学級委員に選ばれる。同級生たちは学級委員のことを、敬愛の念を込めて『お姉様』と呼んだ。

 そして各学級委員の中からさらに、三年次の会長選挙によって生徒会長が一名選出されることになる。会長の座に選ばれた女王は、卒業後に栄誉ある進路が約束されるのだが、それについては後述する。


 イナヤは、平々凡々とした一生徒だ。一般の生徒たちにとって学級委員や生徒会長は高嶺の花、いや月面に突き刺された星条旗のようなものである。まかり間違っても挑もうとしないし、そういうものだと生まれながらに理解していたものだった。

 しかしイナヤにはたったひとつ、親友にすら言えない願望があった。それは、お姉様を押しのけてでも好きな人と一緒になりたいという願いだ。


 イナヤの周囲にいる生徒たちには、恋愛感情が欠落しているような節があった。校則で禁じられているわけでもない。だが周りの誰もが、異性を好きになるといったことに興味を示さない。イナヤにはそれが、まるで目をそむけているように見える。

 ――みんな、好きな人とかできないのかな。

 ひょっとしたら、お姉様に遠慮して、または敵うわけがないと諦めているのかも知れなかった。しかしイナヤはそれを友人たちに確かめたりはできない。とても口にできるような雰囲気ではないからだ。きっと異端者扱いされてしまうだろう。

 イナヤの想い人は同じクラスにいる。イナヤの女子高は厳密に言うと女子高ではなく、圧倒的少数だが男子が在籍する。女子三十九に対して男子一といった具合だ。男子がいないクラスもある。

 女子校が共学になったばかりの特例というわけではない。人類の歴史が遥かに進んだこの世界では、遺伝病的な要因から男性が生まれてくる確率が激減してしまったのだ。そのいびつな男女比が今日の人類の衰退の原因だと、生徒たちは歴史の授業で必ず習う。

 そのクラスでたった一人の男子が、イナヤの片思い相手、マッツだった。


 マッツは、有り体に言えばちやほやされている。なにせたった一人の男子だ。どのクラスでもそうだが、男子は女子の中で甘やかされて育つ。万が一、男子に害をなす生徒でも現れようものなら、女子たちは身を盾にして男子を守るだろう。

 それが、幼稚園から高校までずっと続いてきた。この幼小中高一貫の学園ではその特異な教育方針にのっとり、クラス替えも行わない。つまり、十五年間を同じクラスメイトと過ごすのだ。完全寮制でもあることから、寝食をともにする生徒たちはもはや家族同然だった。

 だからこそクラスメイトの誰もが、当たり前のようにマッツに優しくする。しかしそこに恋愛感情はない。誰もマッツと結ばれたいなどとは思わないのだ。

 前述のお姉様への劣等感なにがしが根底にあるからかも知れない。例えそうだとしても、恋愛感情を捨ててしまった友人たちのことを、イナヤは不思議に思う。この胸の奥から湧き上がる、炎にも似た感情を、誰も認識していないのだろうか。


 イナヤが恋を意識したきっかけは、疑問だった。あるとき、周りと同じようにマッツと接することに疑問を感じたのだ。そこからは、もうどうしていいのかわからなくなった。言葉の裏を読もうとしてしまうし、笑顔に違う意味を感じ取ろうとしてしまう。

 このままではまずい、とイナヤは思った。もし自分の変化がマッツへの、ひいてはお姉様への敵対行為と周りに誤解されてしまったら、自分は排除されてしまうだろう。身も心もズタズタにされた上、学園からイレギュラーと見做された生徒は『転校』させられてしまう。この気持ちはひた隠しにするほかなかった。

 なるべく目立たないよう、他の生徒と同じような距離感を保った。だが、当のマッツはその変化に気づいたようだった。


「イナヤって、他の子と違うね」


 ある日の放課後、人もまばらな廊下ですれ違いざまにマッツは囁いた。イナヤは顔の体温だけが二、三度上昇していくのを感じた。なにも言い返すことはできず、マッツはそのまま立ち去ってしまう。すぐさまトイレに駆け込み、水道の水で顔面を冷やす。これが、俗に言う恋愛感情なのでは、と思い始めた瞬間だった。

 イナヤの変化に気づいたのはマッツだけではなかった。


 ある日、午前の授業が終わってこれから昼休みに入ろうというとき、イナヤの机の周りを四人の女子生徒が取り囲んだ。イナヤはぎょっとして四人を見回す。

 正面に立つ一人はクラスメイトのアガシだ。残り三人はクラスが違うらしく、ネームプレートにはそれぞれガラシェ、ゾリュー、リーシンとあった。イナヤが目を丸くしていると、アガシが口を開く。

「イナヤさん、たまには屋上でランチしない?」

 有無を言わせない口調だった。

 屋上に移動した五人は、各生徒に支給されるランチボックスをつつきながらの談笑を始める。何やら物々しい雰囲気で呼び出された割にはフレンドリーな会だったので、イナヤはほっとしていた。しかし、アガシがイナヤを招いた理由を語りだしたとき、雲行きが怪しくなり出した。


「私たちの目的はね、打倒お姉様なの」


 声のトーンを落としたアガシの表情は、それがこの学園では大いなる異端行為であることを物語っていた。まさかお姉様を亡き者にしようという訳ではないだろうが、お姉様に挑もうなどということは反逆にも近しいことだ。

 しかしイナヤは自分が呼ばれた理由に心当たりがあった。マッツへの恋心。それを成就するにはお姉様を出し抜き、抜け駆けする必要がある。

 学園卒業後、数少ない男子たちは選ばれた女性と結ばれると信じられていた。当然ながらそれはお姉様のうちの誰かだ。それが、この恋愛感情に対してイナヤが抱く一番の葛藤だった。

「イナヤさん、お姉様を邪魔に思ってるでしょ」

 アガシの言葉を聞いて、イナヤは恐怖にかられた。ひた隠しにしていたつもりが、まさか他人にバレてしまうなんて。そんなイナヤの表情を見て、アガシは声色を柔らかくした。

「安心して。他の生徒はきっと気づいてない。私たちは特別なの」

02 へつづく


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