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私はサナ。ここからは私について語ろう。
私は父親と母親を知らない
私の両親は若くして、亡くなった
死因は病死、この世界では伝染病が流行っている
その名前はアクアウイルス、水に潜む病だ
私の周りには浄水場などと高価なものはない。本当に貧しい場所だ。
なので、井戸水をくむことで水を飲んでいる。
そこにウイルスは溜まる。煮沸しても効果はない。
私は今、ある人を訪ねている。彼は魔法の専門家。
名前をヒロトというらしい。
ウイルスについて助言をもらいたいのだ。だから、山を登る。
この山は男砕きの山と言われるほど登るのは難しい。ただ、山に囲まれて育った私は体力には自身のある方だ。
なんなく山頂に登る。山小屋が見える。あそこにいるのだろうか。
ドアを叩く。
コンコン
「誰かいますか?」
返事はないようだ。
不躾ながらも窓から中を覗く
中は本が多く本の山ができている。魔法書だろうか。
私は庭にあるベンチで、彼を待った。
だいぶ時間がたった。夕焼けが沈むころに彼は帰ってきた。
「やあ、こんな時間にどうしたのかな。迷子?」
と尋ねられる。迷子だったら、こんなに高い山は登らないだろうというツッコミはおいて
「迷子ではないんです。まあある意味では迷子ですけど…」
「じゃあ、何のようだい?」
「アクアウイルスって知ってますか?」
ヒロトは少し考えて
「ああ、知っている。この世で一番命を奪ったウイルス。あれは悪魔と呼んでもいい」
「私はあれを滅ぼす。その目的で来ました。」
サナの顔は真剣そのものだった。ヒロトはそれに応じて
「それは出来ない」
と断る
「なんでですか。ヒロトさんは魔法の専門家。なんでも治せるって村でも噂の人なのに」
「それはどうも」と答えてから
「あいつらは数が多すぎる。俺ができるのは、増殖を抑えること。原因のウイルスを殲滅は出来ない」
サナは必死に
「じゃあどうすればいいんですか!私は親を、大切な友達を失ったんです!」
サナは泣きながら問う
「俺には出来ないが」
とヒロトは口を挟む
「神に尋ねればできるかもしれない」
「神に?」サナは、豆鉄砲を食らったかのような顔になる
「俺には魔法がある。神を俺に宿し、降臨させることができる。」
「なら、もっと早くやっていれば!!」と怒る
「だから、俺は集めてきたんだ。マナを。」
彼の右手には、マナの素となる石がたくさんかごに積んでいた
「俺はこのために集めてきたんだ。長い旅路だったさ。家に帰るのはもう1ヶ月ぶりだ。」
「俺の武勇伝を聞かせるのは、降臨が終わったらにしようか。」
と、準備を始めた。魔法使いは魔法陣を書くのも手慣れている。五芒星に丸。そして捧げ物の石。
彼女は準備が終わるまで無言だった。いまいち、このヒロトさんを信用できてはいない。ただ、この人にしか頼れないのであれば、そうするしかない。溺れる人はわらをも掴むとういうことだ。
ヒロトは準備を終えてこちらを見る。
「準備は終わったよ、少し離れてくれるかな」
と忠告を受ける。私は
「ありがとうございます」
と感謝を告げる。
「感謝するにはまだ早いけどね…」と言いながら書を取り、呪文を唱える
しばらくすると、どす黒い煙が上がりあたりは煙に包まれる。ヒロトさんの顔は見えない。
煙が消えたあと、ヒロトさんは
「我を呼び覚ますは汝か」
と聞いたこともない低い声で喋る。この魔法は成功したようだ。
「正確には私ではないんですけど、はい」と答える
「こんな小娘がか。」と少し感心する。本当に私じゃないんだけど。
「要件は何だ。つまらなかったら私は帰る」と少し傲慢な発言をする。
「人間界ではやっているウイルスを滅ぼしたいんです。」と私は告げる。
「ウイルスというのは何だ」
「人をたくさん殺す病です。」
私は告げる。
「下らんな。大体、世の中の不条理は条理がある。人が増えすぎたから、それに従って病も進化した。我は長年見てきたが、永遠に生きる生き物などおらん。絶滅するのが自然の理だ。」
私は気持ちをぐっとこらえて話す。本当にこの人が神様じゃなかったら右ストレートで殴っていたところだ。
「だいたい神様というのは、人に崇め奉られます。だから、人間に手を貸しても良いのではないんですか。」
「我に利がない。人をただ助けるなんて、そんなお人好しの神様では私はない。ただ…
「ただ?」
「我が提示する条件は3つ。全てを達成したら、考えてやらぬことはない。」
条件…歴史では悪魔は人の魂を奪う代わりに条件を満たしてきた。先ほどの話の節々は、まるで悪魔のような感じがしてならない。
「まず、1つ目は我の永久的な降臨じゃ。我は貴様ら愚鈍な人間に封印されし神じゃ。方法は問わん。ただ、我から方法を聞くのはやめじゃ。それではつまらんからの。それを実現せい。」
1つ目の条件。ヒロトさんなら分かるだろうか。でも、私はここで引き下がれない。私は
「分かりました」と頷く。
「2つ目の条件じゃが、我の飯じゃな。生贄を用意せい。」
「はあ!?」
私は思わず、心の声が漏れる。心の声が出ないよう必死に口を紡いでいたつもりだったが。
「なあに、簡単じゃ。我は人間一匹食えば、100年は生きながらえる。大量に死んでいったお前さんの仲間の無念を救うために一匹でいいんじゃぞ?」
私は、この邪神の考えの歪みを受け入れるしかないのか。
人一人だって、家族がいる。友達がいる。恋人だっているかもしれない。
そんな人の人生を狂わせろと言わんばかりの発言には私は、了承したくはないが、次に進めべくには仕方なく了承する。
「分かりました。」
「物分かりのいい小娘は我も好きじゃ。」
嬉しくはない。了承したくもない。
「次に3つ目じゃが、我は神として顕現するのじゃ。信徒を1000人集めろ。」
無理難題だ。初めてここで、終わったと思ったかもしれない。大体この世界は滅んでいる。人だって点々にはいるかも知れないが、まとまってはいない。
「もう少し数を少なくできないんですか?」
と交渉してみる。
「無理じゃの。我の永久的降臨には必要不可欠な条件じゃから。」
「それを達成できれば、ウイルスの殲滅はしてくれるんですよね?」
「我は人間との約束を破りはせんよ。」
と信用はできない言葉を述べる。私はこいつを邪神としか思えない。
「そろそろ天界に帰るとするかの。人が滅ぶか、我が神になるか。どっちか楽しみじゃわい。」
ヒロトさんから神の憑依が抜ける。ヒロトさんはぐったりだった。目を覚ますのも、時間がかかりそうなので、彼をベットに運び看病してあげた。
もう夜にさしかかっていた。
そう言えばこの本は何が書いてあるのだろうと、私は本をめくる。
魔法使いというより、彼は神術師の方が近かった。神に祈りを捧げ、知恵を与えられる。その術が魔法になる。
しばらく読むと、赤いしおりが挟まってある。赤いしおりには、盾のマークが書かれている。そのページには、禁忌と書いてあり、神の降臨術について書いてある。専門用語ばかりなので読めないが、ヒロトさんはこの通り実行したみたいだった。最後の文には最も信頼できる人と実行すること。と書いてあった。
私の事だったら、ある程度の信頼はあるだろうが、今日初対面である私に最も信頼できる人というのは何故なのだろう。そう考えているうちに、ヒロトさんは起き上がる。
「随分、寝てしまったようだね。それで神に会えたのかい?」
とヒロトさんが聞いた。
「ええ、まあ…」と言い、
「神にしては邪神よりの神でしたが…」と話を続け、さっきあったことを説明する。
「3つ目の条件。1つ目の永久的降臨これは俺も知っている。禁術と呼ばれる最も危ない魔法の一つなんだけどね。そして、2つ目の生贄これは、僕にすればいい。」
「え?」
「もともと神とは良い仲でさ、俺も死ぬときは神様にでも殺されたいものさ。」
「そんなの私が許しません!」少し語気を強める
「じゃあ、誰が生贄になれるんだい?」
「それは…」少し私は言いごもる。
「君にそれを任せるわけには行かない。他の人間だってそうだ。俺が適任なんだ。この役目は。」
「それでも、私は嫌です」私は少し泣きながら話す
「今日見知った仲です。それでもあなたほど真面目にこの問題に取り組む人はいなかった。みんな死を半ば受け入れて、諦めていた。でもあなたは、ヒロトさんは、こうして神に毎日祈り解決策を探していた。私は生贄なんて絶対許さない!」
「それでも、俺の考えは変わらない。悪いけどね。」
ヒロトさんは少し強情だった。自己犠牲の精神が強すぎる。
「話を戻そう。1000人の信徒の件だ。それは難しい。」
ヒロトさんでも難しいらしい。
「ただ、方法がないわけではない。この世界ではない別世界から連れて来る。これしかない。」
「別世界ってなんですか?」
漫画やファンタジーでは聞いたことがある。ただ、そんな夢のような事ができるかは少々疑わしい。
「別世界へのワープゲートの開通。これは俺にはできない、が…」
「俺の知り合いなら出来る。名前はウィン。あいつは、別世界と今も通信を取っている。そいつを訪ねればできそうだ。」
「なるほど。そうすれば確かに解決できるかも」
「まずは、永久召喚の召喚儀式を達成する。次にウィンを訪ねる。最後に俺が犠牲になってこの問題は解決。これで行こう。」
「ヒロトさんを犠牲になんかしません。でも分かりました」
「納得いただけてよかった。」
ヒロトさんは微笑む。彼は彼自身に絶対闇がある。犠牲になろうとする、自己犠牲の精神。それは今は分からない。ただ、ヒロトさんの方法を信じて、私はこの事態を解決する。今は亡き家族に伝える。私はもう心配いらない、と。
「それでは、今日はゆっくり休みながら明日書物庫に行こう。」




