◆十日目◇
◆十日目◇
玄関内に素早く戻り、箱に貼られた送り状を見ると、同じ階に住む住人の住所と名前だった。
配達員のミスで落としたのか、それとも『お前が届けろ』という意味なのか。咄嗟に送り主に電話をかけたが、一向に相手が電話に出ることはなかった。
箱はズシリと重く、一度手にした記憶が蘇った。
恐る恐る耳元へ箱を近づける。
嫌な予感で呼吸が乱れ、心臓が早鐘を打ち始める。
手が震えている。
視線は箱から離せなかった。
その音だけが浮き上がる。まるで他の音を脳が遮断するように鮮明に聴こえた。
的中して欲しくない黒い音が鼓膜と精神を震わせた。
カッチ、カッチ、カッチ……。
さっきと同じ音がした。
これを持って交番まで届けることを想像すると、眩暈がしてふらついた。
途中で道端に捨てようかとマンション周辺を思い出して思案する。
まだ警察がいたらどう対処すればいいか考えた。この箱を持っているだけで、あの爆発の容疑者になるのは間違いない。
第一、箱を持ってエレベーターホールに出れば、そこには監視カメラがある。
エレベーターに乗り込めば、そこにも、当然監視カメラがある。
深夜に箱を持ってマンションを移動すれば、翌日には警察が自分を訪ねてくるだろう。
箱をマンションの外に捨てるのは難しい。かなりの危険を伴う。
しかし、送り状の住所までは近い。他の部屋を二つ挟んだだけの距離。
懸念事項は、誰かにその姿を見られることだった。爆発事件があり、誰が見ているか分からない。
どうすればいいか、そのまま玄関の床にしゃがみ込み、視線を落として箱を苦々しく見つめた。
箱から無情に時を刻む音が暗い玄関に漏れていた。理不尽な状況に身体の震えが止まらない。
唾を飲み込み、冷静になろうと努力した。
時が流れる。不安が募る。血の気が引いた感覚はおさまらない。
埒が明かない。
意を決した。
そう思うと立ち上がり、素早く動いた。
玄関の扉を開け、通路に誰もいないのを確認すると、扉を開けたまま玄関内に戻り、中からもう一度、川へ向かって箱を思い切り放り投げた。
空中で箱が大爆発でもしない限り、一瞬の出来事で、どこから投げられたかは誰にもバレないように細心の注意を払った。
箱はマンションの真下にある川へ、吸い込まれるように落ちていった。
一気に緊張が解け、静寂が戻る。
扉を閉め、また玄関でしゃがみ込んだ。
これで何事もなく、何食わぬ顔でコンビニへ行ける。
しばらく待ち、何も起こらないことを確認して立ち上がり、玄関を出た。
夜風が吹いて身体を抜けていった。
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(全7話、完結まで予約投稿済みです)
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