3話
第三章
彼の小説で勇気を貰い、鬱病は回復に向かっていった。万年筆を手に取り執筆を進めていく。しかし一方で、結核は治っておらず、それどころか日に日に悪化していた。強く咳き込み、口からは大量の血液と吐瀉物が溢れる。先程まで書いていた原稿を汚し、内容が全てかき消された。僕、死ぬのかな・・・。強い恐怖感と不安が押し寄せてきた。持っていた万年筆で再び腕を突き刺してしまった。
それから、鬱病は再発してしまい自傷行為を繰り返していった。彼への手紙も書けなくなり、やり取りが途絶えてしまう。傷にまみれた身体を見つめる日々を過ごすうちに死ぬ事の恐怖と不安はなくなっていき、自分の死を受け入れられるようになった。今執筆している小説を最後に、命を絶つことにした。そう決めてからは苦しいけれど今までよりはずっと楽だった。激しく咳き込み、血反吐を吐きながらも必死に執筆を続けた。しかし、最後まで書ききることができず、倒れてしまう。
夢を見た。夢にはまだ顔も分からない彼、花園紡が出てきた。彼は白い光の中で、笑っていた。目が覚める。死ぬ前に彼に会いたい。そう思い、重たい身体を起こし、布団から出る。僕と彼を繋いでくれた万年筆を持ち、ふらつく身体で扉を開け部屋を出る。倒れないように壁に寄りかかりながら歩を進める。
「桃李様!?」
途中で使用人のさくらに気づかれてしまった。普段部屋から出ることは無いのでかなり驚かれた。
「大丈夫。万年筆を切らしてしまって、今から買いに行くところなんだ。」
彼女にはそう言い訳をした。しかし、
「万年筆なら私が買いに行きますよ。ふらついてるじゃないですか。お部屋にお戻りください。」
そう言われ、部屋に連れ戻されてしまった。
その日の深夜、みんな寝静まった頃。万年筆と執筆途中の原稿を持ってこっそり部屋を抜け出した。使用人や家族に気づかれないように静かに進む。途中で何度か倒れそうになりながら、1時間ほどかけてようやく玄関までたどり着いた。重い扉を開けて外に出る。彼からの手紙には家の住所が書かれていたので、それを頼りに家まで向かう。電車に乗り、バスに乗り、何日かかけてたどり着いたのはのどかな田舎町。ここに彼がいる。最後の力を振り絞り、家まで歩き出した。
何時間か歩き、小さな家が見えてきた。住所を見るとここだった。ようやく着いた。しかし、一睡もできずにここまで来たため、体力の限界で家の前で倒れてしまった。