2話
第二章
僕は東京の郊外にあるおおきな家の、一番奥の真っ暗な部屋に暮らす小説家の如月桃李と言う。以前は世間一般では人気小説家だと言われていたが、最近は結核とそれによる鬱病のせいでなにも書けなくなってしまい、世間からは名が忘れ去られつつあった。
書こうとしても激しい咳と強い不安が押し寄せてくる。震える手でなんとか握りしめた万年筆を、腕に強く何度も突き刺した。少し経ち、腕に刺していた万年筆を引き抜くと、どろりと赤黒い鮮血が流れ出し、鉄の嫌な臭いがたちこめる。
「・・・・・っ!」
それを見て強い吐き気が襲う。心の中の汚いものを身体からすべて出すように激しい嘔吐を繰り返した。使用人に気づかれ声をかけられた。
「桃李様!大丈夫ですか?」
使用人のさくらに気づかれたようで部屋の扉がノックされる。だいじょうぶ。そう言おうとしても声が出なかった。
「桃李様!返事してください!」
何度も何度もノックされる。
五月蝿い。やめて・・・。
その日はそのまま眠ってしまった。
目を覚ますとベッドの上。横にはさくらがおり、心配そうに僕を見つめている。さくら。と声をかけようとしたが強く咳き込んでしまい、咄嗟に手で口を押さえると大量の血で汚れていた。パニックを起こし、叫び声を上げながら自身の腕を切り揃えられていない長い爪で引っ掻きまくる。彼女が止めてくれ、すぐに落ち着いたがまだ動悸は治まらず、涙が溢れてくる。
「・・・っ!」
「大丈夫ですよ、桃李様。私がずっとそばにいますからね。」
彼女は私が落ち着くまで背中をさすり、そばにいてくれた。
しばらくしてやっと落ち着いた頃、さくらは一冊の本を持って私の部屋に戻ってきた。
「こちらの本、読んでみてください。今の桃李様にささるのではないかと。」
そう言ってその本を渡された。
心の病気を持つ主人公が結核病の青年と出会いさまざまな経験を積み、お互いの病が回復に進んだ後、最後には二人幸せに暮らした。というお話だった。僕は涙が止まらなかった。生まれた時からずっと結核病に蝕まれ、心を病んでしまった。僕の人生は真っ暗で何も無い、からっぽだった。この小説から生きる勇気をもらったのだ。この小説を書いた花園紡にお礼の手紙を書いて送った。
その日から、彼とやり取りをするようになり、会ったこともない彼に恋をしていた。