08話 黒鎧の騎士
ズガァァンッッ
鍵のかかったドアが轟音と共に吹き飛ばされると、イズの部屋に巨躯の黒騎士が侵入してきた。
「神託の巫女、イズだな……?」
フルアーマー特有のくぐもった声が、不協和音となって空気を震わせる。
「っ……無礼者! ここがどこだかわかっているのですか……!」
護身用の短剣を構えたイズは、必死に恐怖を抑え込み黒鎧の騎士に対峙する。
「我は魔王軍、十二将が一人、黒騎士のスルト。貴様の予知の力、魔王様にとって都合が悪い。今日、ここで死んでもらうぞ」
ガシャン、ガシャン
「こ、来ないで……!」
「どうした、姫巫女よ。その手の剣は飾りか」
鎧を鳴らしながら迫るスルトに、イズはあっという間に窓際へと追い詰められてしまう。
「我の剣に斬られるか、その窓から飛び降りるか……、好きなほうを選べ」
イズが窓の下を見やる。
下はテラスになっているが、かなりの高さがある。
飛び降りたところで無事では済まないだろう。
「っ……!」
だが、イズは短剣をスルトに投げつけると、窓から飛び降りた。
「……愚かな。苦しむ時間が増えるだけだというのに」
スルトは呆れたように首を振ると、
ずずず……――
己の剣に闇の魔力を纏わせた。そして、
「天堕無明流――『黒吐神』」
ズガァァンッッ
一振りで窓を吹き飛ばして壁に大穴を開けると、スルトは眼下を覗き込んだ。
「……!」
そこに広がっていたのは予想外の光景だった。
「大丈夫か?」
「うんっ! ありがとうエイト!」
石畳に叩きつけられるはずだったイズは、エイトにお姫様抱っこされていた。
「貴様は……」
上階から見下ろすスルトを、エイトは一瞬だけ睨むと、抱えていたイズを床へと降ろした。そして、
「イズ、逃げるぞ!」
「う、うん……っ!」
スルトから逃れる為、ふたりは手を取り合い走り出した。