04話 闇の中で
城下の祭りに行きたいというイズの願いを叶える為、ふたりは緊急用の地下通路から城を抜け出すことにした。
昼間とはいえ、こんな場所に日の光が届くはずもなく、ランタンの灯りを頼りに古びた通路を慎重に進んでいく。
「うぅ……勇者さま、絶対に脅かさないで下さいよ」
暗い場所が苦手なのか、イズは必死にエイトの服を掴んでいる。
と、その時、
「きゃああぁっ!?」
突然、イズが悲鳴を上げた。
がしゃぁんっ
エイトは服を引っ張られ、思わずランタンを落としてしまう。
「ど、どうした?」
「わ、私の足が何かに掴まれてます……っ!!」
「え!?」
こんな所に、僕たち以外の誰かが居るとは思えないが。
「なんか、変な感触で……、怖いですっ、助けて下さい勇者さま!!」
「わ、わかった! ちょっと待ってろ!」
だが、ランタンを落としてしまったせいで、辺りは闇に包まれ、イズの足を掴んでいるのが何なのか目視出来ない。
(こうなったら……!)
チャキ
【名 前】ショートソード
【種 類】武器
【属 性】無属性
【性 能】攻撃力+150
【希少度】E
【備 考】シンプルな造りの鉄製剣。兵士の標準装備として広く採用されている。
敵が誰だろうと関係ない。
エイトは腰の剣を抜くと、イズの背後の闇を突き刺した。
ずぶっ
「?」
ずぶっ、ずぶっ
なんだ?
そこに何かが居るのは間違いないが、突き刺してもほとんど手応えがない。
そして、剣に纏わりつくようなこの感覚は……
「そうか! 姫巫女さま、伏せて!」
「えっ? えっ?」
「早く!」
エイトの言葉で、イズは戸惑いつつも身をかがめた。
「炎魔法――『火炎砲』!!!」
次の瞬間、エイトはイズの背後に、昨日習ったばかりの炎魔法を放った。
じゅうううううううう
独特な匂いと共に、水分が蒸発していく音。
そして、炎に照らされてモンスターの正体が明らかになった。
【種 族】スライム
【属 性】水属性
【状 態】正常
【H P】900
【M P】0
【攻 撃】100
【防 御】500
【魔 法】10
【敏 捷】10
【スキル】粘液拘束、窒息攻撃、物理耐性
【戦利品】通常…スライムジェル 希少…魔鉱石
イズの足に絡みついていたのは、粘液状の体を持つスライムだった。
じゅうううううううう
モンスターと戦うのは初めてで、加減が分からないエイトは、とにかく炎魔法をスライムに撃ち込み続ける。
じゅうううううううう
炎に包まれたスライムは、最初は激しくのたうっていたが、徐々に動きが鈍くなっていき、
じゅぅぅ……っ
やがて形を保てなくなると、水溜りのようになって床に溶け落ちた。
「――ふぅ」
どうやら倒せたようだ。
ついでにエイトは、近くの壁に掛けられていた、朽ちかけの松明に炎魔法で火を灯した。
「大丈夫か?」
「うん、ありがとう」
尻餅をついていたイズに、エイトが手を差し伸べる。
どうやら怪我はないようだ。
「でも、こんな所にスライムがいるなんて……」
イズが不安げに辺りを見回す。
普段は使わない通路だ。どこかの隙間から入り込んだんだろう。
「……姫巫女さま。やっぱり引き返そう」
「えっ」
ランタンを失い、MPもかなり消費してしまった。
これ以上進んで、もしまたモンスターに遭遇したら……。
「残念だけど、祭りは諦めた方が……」
「…………」
その提案に、イズは顔を曇らせるが、
「あ、見て下さい!」
何かを見つけ、嬉しそうに前方を指差す。
「!」
その先にあったのは、一筋の小さな光だった。
「出口だ!」