03話 籠の鳥
「エイト、太刀筋が甘いぞ! もっと脇をしめろ!」
「はぁっ、はぁっ……はいっ!」
見習い兵士となって数日、エイトは上司である兵士長から、基礎的な戦闘訓練を受けていた。
「よし、今日はここまで」
「はぁ、はぁ……ありがとうございました……っ」
今日は城下町で祭りがあるらしく、早めに訓練を終えた。
「ふぅ……」
この後どうしよう。
せっかくだし祭りに行ってみるのもいいかもしれない。
だが、汗もかいたので、取りあえず兵舎に戻り着替えることにした。
◇ ◇ ◇
「それにしても、デカい城だなぁ」
廊下を歩きながら、いまだ見慣れぬ城内をキョロキョロと見回す。
っていうか、これってRPGなんだよな……?
このゲームのあらすじとしては「女神によって『エルドラド』という世界に導かれたプレイヤーが、魔王軍と戦いながら冒険を繰り広げる」という内容なのだが、ゲーム開始から数日、いまだ僕の前に女神さまは現れない。
……このまま兵士をやってていいものだろうか。
エルドラドに行かないとマルチプレイも解禁されないそうなので、キュウベエと遊ぶ為にも、さっさとストーリーを進めたいのだが……。
そんなことを思いながら、ぼんやり歩いていると、
「――勇者さま」
「……?」
中庭を通りかかった所で、微かな声が聞こえてきた。
「誰か、いるのか?」
ぐるりと辺りを見回すが姿は見えない。
「こっち、こっちです、勇者さま……」
再び声が聞こえる。
どうやら中庭の植木の方からのようだ。
エイトは誘われるように、声のする方へとゆっくりと近づいていく。
がささっ
!?
すると突然、茂みの中から少女が飛び出してきた。
「き、君は……」
それは、肩にかかる程の長さの、煌めく白銀の髪と、吸い込まれるような碧眼を持つ、美しい少女だった。
この城に、こんな娘いただろうか?
一瞬そう思ったが、エイトはすぐにピンときた。
「あっ、もしかして、女神さまですか?」
「え」
イメージよりも少し幼い気もするが、その神秘的な雰囲気は、女神といって差し支えない。
しかし、エイトの言葉で少女の顔は見る見る曇っていく。
「非道いです、勇者さま! 一度お会いしたのに忘れてしまったのですか?」
「え……あ……!」
そこでエイトは、もう一つの可能性に行き当たる。
「もしかして、姫巫女さま……?」
「そーですよ! もうっ」
イズは拗ねるように頬を膨らませる。
初対面の時とは服装が変わっていたので、エイトはすぐに気付けなかった。
「それにしても、姫巫女さまはこんな所で何を……?」
中庭の植木に潜んでいるとは、かくれんぼでもしていたのだろうか。
「あの、勇者さま、唐突なお願いなのですが……、私を城の外まで連れ出して頂けませんか?」
「え」
「私、いま城下でやっているお祭りにどうしても行ってみたくて……」
あぁ、そういうことか。
てっきり家出でもしたいのかと思った。
「城の者は少し頭が固いというか……、私がお祭りに行きたいと言ったら『はしたない』だの『姫巫女としての自覚が足りない』だの……」
なるほど。彼女は"籠の鳥"というやつのようだ。
「でも勇者さまなら、この国に来て日が浅いから、融通が利くんじゃないかと思って……」
うーん。
彼女のお願いを叶えてあげたいのは山々だが、
「……ごめん。それは出来ないよ」
この国の指導者である彼女を、城の外に連れ出して、もし何かあったらと考えると、エイトはとてもYESとは言えなかった。
「そこをなんとか! お願いです、協力して下さい!」
それでもイズは、諦めずに手を合わせてエイトに頼み込む。
「無理だって」
「お願いです、協力して下さい!」
「いや、だから……」
「お願いです、協力して下さいっ!」
「…………」
これはまさか、RPGお約束の、YESを選ぶまで進まないヤツ……?
「……わかったよ」
「やったーっ! ありがとうございます!」
こうしてエイトは、神託の巫女であるイズを連れて、城を抜け出すことになったのだった。