02話 ハズレの勇者
「ん、うぅ……」
目を覚ますと、僕は石造りの祭壇の上にいた。
「どこだ、ここは?」
いつの間にかマントを羽織り、服装も中世ヨーロッパのような出で立ちに変わっている。
周囲ではローブを着た男たちがエイトを見つめていた。
「おおっ! 成功ですよ、姫巫女さま!」
戸惑うエイトをよそに、ローブの男たちが視線を向けた先には、白い装束を着た少女が立っていた。
「初めまして、勇者さま」
ゆ、勇者……?
「ここは、ヴァナヘイム国の宮殿ですわ」
姫巫女と呼ばれた少女は、ベールで顔を隠しており、その神秘的な雰囲気は聖女という言葉が似つかわしい。
「……君は?」
「私の名はイズ。神託の巫女として未来を占い、この国を導く立場にあります。今回、召喚の儀式で、"意思を持つ者"である貴方を、異世界から呼び出させてもらいました」
なるほど。
意思を持つ者=プレイヤーってわけか。
「それでは勇者どの、早速ですがこちらに……」
ローブの男が前に出て、エイトを出口へと促す。
取りあえず成り行きに身を任せてみようと、エイトは言われるがまま男に付いて行くことにした。
◇ ◇ ◇
勇者として召喚されたのだ、歓迎の宴でも開いてくれるのかと思いきや、案内されたのは屋外の訓練場だった。
「勇者どの、ではコチラをお持ち下さい」
「……これは?」
【名 前】ウッドソード
【種 類】武器
【属 性】無属性
【性 能】攻撃力+80、敏捷性+20
【希少度】F
【備 考】軽くて扱いやすい訓練用の木剣。
唐突に差し出された木剣を、エイトは訳も分からず受け取った。
「疑うわけではありませんが、貴方の勇者としての実力を確かめたいのです」
「え」
ずしぃん
すると、エイトの前に同じく木剣を持った屈強な兵士が立った。
ま、まさか……。
「勇者どの、ではこの者と手合わせを」
「ちょ、ちょっと待ってよ……! 僕、戦ったことなんて……」
戸惑うエイトに、屈強な兵士は問答無用で襲いかかってきた。
◇ ◇ ◇
「――ギブ、ギブギブ! もう降参だって!」
普段から鍛えているであろう屈強な兵士を相手に、ゲームを始めたばかりの学生が敵うはずもなく、土にまみれたエイトはあっけなく白旗を上げた。
「……ふぅ、これまで」
戦意を失ったエイトを見て、ローブの男が試合の終了を告げた。
「大丈夫ですか?」
「うぅ、いってえ……」
エイトはローブの男の手を借りて何とか立ち上がった。
「はぁ、やっぱりな」
「今年もハズレか」
エイトの情けない姿に、観戦していた周囲の兵士たちからため息が漏れる。
「……あの、今年もハズレっていうのは?」
エイトの疑問に、ローブの男が口を開いた。
「『世界に危機が迫る時、異世界から特別な力を持つ勇者が現れる』。この国に古くから伝わる伝承でしてな。年に一度、"勇者候補"を召喚の儀式で呼び寄せているのですが、一兵士に負けるようでは……、どうやら君も、本物の勇者ではないようだ……」
ローブの男は残念そうに首を横に振った。
「そうっすか……」
なんか申し訳ない。
「勇者どの……いや、エイト君と言ったな。行くあてもないだろう、よければ我が国に兵士として仕えるといい」
「はぁ……」
まぁ、ハズレの勇者だからと放り出されないだけマシか。
こうしてエイトは、ゲーム開始早々、勇者から見習い兵士へとジョブチェンジしたのだった。