10話 本物の勇者
「闇魔法――『九頭暗黒竜』!!」
スルトが地獄から呼び寄せた九つの黒い竜巻が、荒れ狂う波濤となってイズへと襲いかかる。
「くぅ……っ」
スルトの猛攻を、イズは防御に徹することでなんとか抗い続けていたが、
パキ、パキパキ……
とうとう魔力が底を尽き、結界にヒビが入っていく。
そして、
バキィィン
結界がガラスのように砕けると、イズは竜巻に飲み込まれ壁に叩きつけられた。
「ぐっ、うぅ……」
ガシャン
「まさか、これほど粘るとはな……」
イズの予想以上の抵抗にスルトは驚いていた。
「お前は他の姫巫女と何か違うのか? いや、それともあの小僧か……?」
スルトが意味不明な独り言を呟く。
「だが、それもこれで終わりだ……」
うずくまるイズにスルトが剣を振り上げた。
「さらばだ、神託の巫女よ」
「っ……」
死を覚悟したイズが目をつむる。
「『火炎砲』!!!」
ズドォォオンッッ
しかし、剣が振り下ろされる直前、スルトに火球が直撃した。
「ッ!?」
炎に包まれたスルトは一瞬怯むものの、
「――フンッ!!」
腕で振り払うと、炎はあっという間に掻き消えた。
シュゥゥゥゥ――……
白煙が晴れていくと、イズを庇うようにエイトが立っていた。
「小僧、わざわざ、死にに戻ってくるとは……」
炎によるダメージはゼロに等しかったが、思わぬ不意打ちを食らい、スルトの内に今日初めての怒りが湧き上がる。
「エイトのバカ! なんで戻ってきたのよ、せっかく逃げられたのに……っ!」
イズは嬉しさを押し殺し、エイトの軽率な行動を非難する。
「イズが僕のことを、本物の勇者だなんて言うからだよ」
「え」
「本物の勇者が、友達見捨てて逃げられるかよ」
「エイト……」
『イズは所詮ゲームのNPC』
『これは敗北イベントだからしょうがない』
そう何度言い聞かせようと、エイトは友達の死を受け入れられなかった。
チャキ
エイトが腰の剣を抜きスルトに対峙した。
城を壊し、大勢の人を殺し、イズを傷つけた。
スルトの怒りとは比較にならぬほどの燃え盛る嚇怒が、エイトを無謀な戦いへと駆り立てる。
「愚かな。勝てぬと知りながら、我に挑むか」
【名 前】黒騎士のスルト
【属 性】闇属性
【状 態】正常
【H P】????
【M P】????
【攻 撃】????
【防 御】????
【魔 法】????
【敏 捷】????
【スキル】剣術《究極》、闇魔法《上級》、状態異常無効
【戦利品】通常…ミスリル 希少…レーヴァテイン
両者を隔てる、底すら見えぬ絶望的な戦力差。
それでもエイトは、
「もう逃げない、お前は僕がここで倒す……!!」
黒騎士のスルトに宣戦布告した。
「……そうか。ならばやってみろ、小僧」
それに応え、スルトも剣を構えた。
「はああああああぁッッ――」
エイトが駆け出し、スルトとの距離が一気に縮まっていく。
こうして、結果の解りきった戦いの火ぶたが切って落とされた。




