01話 エルドリームへ
「ゲームしようぜ!」
登校中、後ろから声をかけてきたのは、腐れ縁の親友、江馬 久兵衛だった。
「なんだよ急に」
僕の名前は鉢屋 栄都。
どこにでもいる普通の高校二年生だ。
「エルドリームっていうオンラインゲームだよ。エイトも聞いたことあるだろ?」
「あぁ、いま流行ってるヤツか。悪いパスで」
「えー、なんでだよー」
エイトのつれない返事に、キュウベエは不満気な声を上げた。
「そういやお前って、レトロゲームばっかやってるよな」
「まぁな」
エイトは最新の、特にオンゲーというものをあまりやらず、レトロなオフゲーをまったりやるのが好きだった。
「変なヤツ」
「うるせーよ」
「でも、エルドリは普通のオンゲーじゃないんだって」
キュウベエの話によると、エルドリーム、通称エルドリは、寝ている間に見る夢を利用した新技術によって、まるで異世界転移したかのような体験が出来る、最先端のVRMMORPGだという。
「それに、芸能人の間でもエルドリ流行ってるんだってさ」
「ふーん」
芸能人あんま知らんしな。
「お前が好きなしーかなもプレイしてるらしいぜ。運が良ければエルドリで会えるかもよ」
「えっ、マジ?」
椎名 かな。
愛称しーかな。
国民的……とまではいかないが、エイトがなんとなく好きな若手女優だった。
「で、でもエルドリってメチャクチャ金かかるんだろ?」
少し気持ちが揺らいできたが、エルドリームをプレイするには専用の筐体が必要で、数十万の初期費用がかかると聞いた。学生には敷居が高い金額だ。
「ふっふっふ、それなら心配ない。俺がお前にエルドリの筐体をプレゼントしてやろう」
「ええっ!?」
キュウベエの家は金持ちだが、流石にそんな高価なものを貰うわけには……。
「実は、オレがもう持ってるの知らずに、爺ちゃんが誕生日プレゼントにエルドリ注文しちゃってさ、今からだとキャンセル料もかかるし、どうせならお前と一緒にマルチプレイしようと思ってさ」
なるほど、そういうことか。
「なぁ、やろうぜ~」
そう言いながら、キュウベエは肩を組んでウザ絡みしてくる。
「あーもう、引っ付くなって! わかった、やるよ!」
レトロゲームばかりもマンネリだしな。
そこまでお膳立てしてくれるならと、エイトはエルドリームをプレイすることにした。
◇ ◇ ◇
休日、家に業者がエルドリームの筐体を設置しに来た。
1時間ほどで組み上がると、自室に2畳半ほどの個室が出来上がる。
かなり部屋が狭くなってしまったがしょうがない。
個室の中には、ゆったりとしたリクライニングチェアがあり、タッチパネルとヘッドセットが備え付けられていた。
僕はさっそく腰かけると、ヘッドセットを装着し、たどたどしくタッチパネルを操作していく。
(プレイヤーネームは……エイト、と。見た目も現実と同じでいいか)
初期設定を入力していくと最後に、
《ゲームをスタートします、よろしいですか?》
最終確認画面が現れた。
(いよいよ始まる……)
僕は少し緊張つつ、
「はい、っと」
同意をタッチした。
すると、
ふっ
!
個室内のライトが暗くなっていき、
きゅぃぃいいいいん
モスキート音のような高周波音と共に、徐々に意識が微睡んでいく。
「……――――」
そして、エイトはエルドリームの中へと落ちていった。