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第6話 ぎゅうぎゅう言わされる


喫茶店は空いていた。GWだから、常連さんも家族サービスに忙しいらしい。

ぞろぞろ連れ立って入ると、前と同じように

「いらっしゃい。」

とおじさんの声がした。

テーブルを拭いていた壮太が、振り向く。

「いらっしゃ・・いませ。あれ。坂井先輩、と小林、前田、斎藤、小田、木下。どういう組み合わせだ?」


「ちょっと聞きたいことがあって。」

奈々子が言うと、壮太は小首をかしげたが、今拭いていたテーブルを見る。

「客ってことですかね?今仕事中なんですけど。」

「じゃあ、ブレンド。ホットで。全員分。」

奈々子の有無を言わせない注文に、壮太はニヤッと笑う。

「はーい。六人分ね。」


バイトの女の子が、トレーに氷の入った水のグラスを持って、テーブルに並べた。

「どうぞ。」

何年か前と同じくにこりともしないが、すごい美少女なので全員の目が釘付けになる。

前田クンの口がぽかんと開いた。

「佐藤・・翔子?」


もう一組客がいたが席を立ったので、壮太は会計に向かった。

カランコロンと音がして客が出て行くと、壮太は戻ってきて、奈々子の前に座った。

「そんで、聞きたいことって?」


奈々子は、前田君から聞いた話を、そのまま話した。

壮太は途中から難しい顔になったが、怒りだしはしなかった。そしてカウンターの中でサイフォンの中のコーヒーをかき混ぜている翔子を見た。

「その話に出てくる、たちの悪い幼馴染って、あいつのことだよな。」

「そうなの?」

奈々子は前田君の顔を見る。

前田君は、うなずきかけて、翔子の顔を見て、うっと唸った。

「あの・・俺は、その、一度も同じクラスになったことないんで。」

壮太は肩をすくめた。


「結局、誰もかれもそんな感じなんだよ。誰もその発言の責任を取らねぇ。そりゃ昔、あいつは超貧乏だったよ。そのせいか、いっぱい嫌がらせされてたよ。ノート捨てられたりとか。上靴捨てられたりとか。あいつが暴力ふるった話も聞いたが、その前に髪の毛を引っ張られて振り回されたから、つい蹴りがでたらしい。それって正当防衛なんじゃね?」


壮太にまっすぐ見られて、前田君は汗をかき始めた。くちごもる後輩に、

「お前はどう思う?女の子の髪の毛掴んで振り回すって、よっぽどだよなぁ。男としてそれどうなの。しかも、髪の毛をつかんで振り回した話は無視されて、それに抵抗して回し蹴りした話だけ広まるってさ、すげぇ悪意感じるよな。」

「あの、俺は話を聞いただけで。」

「うん。話を聞いただけで、翔が悪いって決めつけたんだよな?それもどうなんだろうな。」

「壮太、コーヒー運んで。」

マスターから声がかかって、壮太は立ち上がった。無言で六つのブレンドを運ぶ。そして改めて座りなおした。


「自分で見たわけでもない、バイアスのかかった話を、さも本当のことのように話すって、あんまり褒められたことじゃないんじゃないか?え?俺、その話デマだってちゃんと言ったよな?なあ、小林。」

いつも大抵機嫌のいい壮太が、そこまで詰めるのは珍しい。

口調は静かだが、相当怒っているらしい。


後輩たちがだらだら汗をかいている所に、翔子の声がかかった。


「そーちゃん。私、今日は早上がりだから。」

昔の翔子を知っている前田クンは、まだこの美少女があの佐藤翔子とは信じられないらしい。目がしぱしぱしている。

「ああ、忘れてた。」

壮太が立ち上がったところに、またカランコロンとドアベルの音がした。

「翔子ちゃん、迎えに来たよ。」

明るい生成のジャケットを着たサラサラ髪の青年が顔をのぞかせた。


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