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第4話 壮太の噂


 結局三年生の終わりまで、彼氏は出来なかった。

やはり空手をやっていたせいか、女々しい男は嫌いだし、なよっとしたのも苦手だし。あと、なんだかんだ授業も実習も忙しいし。


 教育学部だけど、面白そうな企業があればそちらに就職することだってやぶさかではない。

そう思って何社かのインターンに申し込んだところ、オラオラ系の男子とインターンで仲良くなった。が、インターンの終わりにホテルに連れ込まれそうになって、豪快に回し蹴りを決めたら、それを最後にぱったり近寄ってくる男子がいなくなってしまった。


 それでもまあ、他にも手ごたえのある会社はあるし、彼氏がいなくったって学生生活は充実しているし、特に困らない。

 新年度になって、新入生に空手サークルのチラシを配っていると、ああ、そういえば、壮太はどうしているだろう、とちらっと思い出す程度。


 あの後、奈々子と壮太が別れた、という噂が立ったので、「そもそも付き合ってないし!」と全力で否定したら、かなりの人数に「付き合ってると思ってた」と言われた。

どうやらその噂は壮太に届いていたらしい。だからさりげなく距離を置かれたのだ。片思いがバレバレだったのだと思うとはずかしい。


いやでも、最初に「憧れでした」なんて言ってきたのは向こうじゃん、とも思う。

もーほんとに、勘違いさせないでよ。恥ずかしい。腹が立つ。


「どうぞー!空手やってますー!興味のある方、第1体育館でやってますのでー!護身術にもいいですよー!」

チラシをどんどん配っていく中に、背の高い女の子がいた。動きがすぅっとしていて、気配が薄い。奈々子のチラシをすっと受け取って、歩き去っていく。

どこかで見たような顔だな、と思ったけど、その時は思い出せなかった。


四月半ば、空手サークルに入ってきた一年生の男子から、ひさびさに壮太の事を聞いた。

高校の空手部の後輩だというのでびっくりしたが、壮太がいないと聞いて、その子もびっくりしていた。

壮太は、大学のサークルに都大会女子の部で優勝した人がいる、と後輩に自慢していたらしい。


「てっきりまだ壮太先輩いると思ってました。」

「ああ、入ってすぐやめたよ。なんか家の手伝いで忙しいとか。」

すると、後輩はうんうんとうなずいた。

「あー、あれでしょ。前に噂で聞いたんですけど、たちの悪い幼馴染が、先輩にたかってるってヤツ。なんか弱みを握られてるんだか、先輩、自分の小遣いを全額そいつに渡してるんですって。それだけじゃなくて、そいつ毎晩先輩んちの店で無銭飲食してるって。」

「え、何それ。」

「民生委員とかが来て相談したけど、なんか未成年だから、逮捕も出来なくて、そのままになってるとか。」

「ええー。ひどい。」

「でしょ?俺も先輩に言ったんですけどね、そんなデマ、本気にするなって笑われただけで。だけど店がそいつのせいで赤字だから、先輩も店を手伝わざるを得ないみたいですよ。特に土日は休む暇もないらしいです。」


それはあんまりひどい。壮太は何を考えているんだろう。

もし自分の状況が分かってないなら、助けてあげなくちゃ。


義憤にかられた奈々子は、翌日、教養学部に乗り込んだ。

手近な学生に、真鍋壮太はいるかと聞いてみる。

「真鍋くんだったら、そこの〇ーソンに行きましたよ。」

意外にすぐ分かって、身を翻す。


なんとか説得しないと。その居候君がどんな子か知らないが、壮太一人が不利益を被っているようなことは許せない。目を覚まさせないと。

売店の入り口に壮太が立っているのが見えた。

「壮太君!」


奈々子が声をかけると、壮太は振り向いた。

「ああ、坂井先輩。お久しぶりっす。」

以前と変わらないのんびりした挨拶に、ちょっと気が削がれる。久しぶりに見ても、壮太は男前だった。


笑顔にきゅんとなる。しかしそれに負けてはいられない。

「ちょっと話があるんだけど。」

奈々子の勢いに、ちょっと壮太はたじろぐ。

「なんすか。」

「ここじゃなんだから、あっちのカフェテリアでも行かない?」

ぐいぐい引っ張ったが、壮太はびくともしなかった。


「えー。俺ここで人と待ち合わせてるんで。ここで聞いてもいいっすか?」

「じゃあ話すけど。なんか幼馴染にたかられてるってホント?」


直球な質問に、壮太は二度まばたきをしたあと、ものすごく嫌そうな表情になった。

「誰に聞いたんです?」

「壮太君の後輩の、小林君。」

「あー。あいつっすか。」


壮太は、はぁとため息をついた。

「その変な噂、ほんとに困ってるんですよね。弟が中途半端に話した事に尾鰭がついて、俺が卒業した後に中学で広まったんですが、結論から言えば、デマです。」

「そうなの?」

「もう何年も前だし、もうほぼ下火になった噂話で、いずれにせよ俺はたかられてません。全く心配いりません。」


奈々子はホッとして肩を落とした。

「本当に心配いらないのね?」

「本当ですって。」

壮太はもう一回ため息をついた。

「先輩からも、小林に言ってやってください。ホントの事を知りもしないのに、デタラメを広めるなって。」

そうまで言われれば、奈々子も引き下がるしかない。


ふと、壮太が周りを見回すようにした。


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