第3話 くりぼっち
クリスマスの前に、待ち伏せした。
学校の中も外も、クリスマスムード一色だし、友達もいつの間にか彼氏を見つけていた。
「ごめんね。」
とか言われて、本当にやるせない。
去年は一緒に、楽しくクリスマスから年明けまで過ごしてたのに。
教養部近くの学食で、お昼時、ずーっと見張っていた。
もう、なんかカップルばかりが目に付いて、嫌になりながら。
四日粘って、やっと捕まえた。
「あ、久しぶりっすね、先輩。」
相変わらず屈託のない壮太に、会えた嬉しさがちょっと翳る。
自分がやっていることの虚しさが胸をよぎる。多分壮太にとって、自分は何人かいる先輩の一人に過ぎないのだ。だから連絡しなくても会えなくても全然平気。
「久しぶりー。ずっとサークル休んでるから、どうしてるかと心配してたー。」
わざと軽く言う。
「ああ、すみません。当分行けそうになくて。」
「お父さんの腰、そんなに悪いんだ?」
意地悪で聞いてみる。もう治っているのは見た。壮太は何と答えるだろう。
「腰はもういいんすけどね。なんかうち、クリスマスケーキの予約販売始めたんスよ。付き合いのある菓子屋に頼まれて。そうしたら雑用増えて、手が回らない状態なんです。なんでやるって言っちゃったんだろう。」
「弟君は手伝ってくれないの?」
「あいつはねー。バイト代に文句ばっか言ってやんないっすよ。」
はははと笑う。
じゃあ、あのバイトの細い子は誰だったんだろう。
「クリスマス終わったら、暇ができる?」
さりげなく聞いてみる。
「今よりはマシになって欲しいですねー。あ、俺、定食取ってきます。先輩は?」
お昼はもう食べたから、と言うと、壮太は、そっすか、と定食コーナーへ歩き去った。
クリスマスの予定をかわされたのだ、とすぐ気が付いた。気が付いたが、気が付かないふりをする。
定食を取って、戻ってきた壮太に、改めて年末年始の予定を聞いた。
「去年もやったけど、年明け四日に寒稽古やるんだよね。よかったら、参加しない?」
もうすっかりぬるくなったコーヒー缶を、口に運ぶ。
「あー。すみません。前も言ったけど、そのあたりに後輩の指導をお願いされてるんすよ。」
壮太は奈々子の向かいに座りながら、さらっと言う。
「それに松の内って、サービス業は稼ぎ時なんすよね。」
毎年手伝ってるんで、今年はやらないってわけにも、と申し訳なさそうにする。
「あ、そうなんだ。」
奈々子もうなずくしかない。
持っているのがガラケーだというのでMineのグループにも入ってないし、部長だけがケー番とメルアドを知っているが、個人情報だからと教えてもらえなかった。
「もしサークルに迷惑かけてるんなら、俺、部長に言って、完全に名簿から名前消してもらいますけど。」
酢豚を突き刺しながら、壮太は首をかしげる。
奈々子は慌てた。
「あ、そんな。そんなの。全然大丈夫。幽霊部員なんて他にもいっぱいいるし。ただ、戻ってきづらいのかなーなんて、ちょっと思っただけ。来られるようになったら、また参加してね。」
あ、そーっすか、参加できるようになったら、また部長に連絡します。
笑顔でかわされて、ため息が出た。
あー、これで年末年始は彼氏なし確定だ、と少し悲しくなる。まあいいか。他にも素敵な男子はいっぱいいる。
きっといる。