9、
先日の夜会での話をマイヤに話し、終わったところでお茶を一口。
反応を伺っていると、マイヤがポツリと言った。
「恋ですか」
「いや、お茶は別に濃くないよ」
いつも通り美味しいわ。
言ったら額に手刀をくらわされた。主人に向かって手刀!?
「そういうボケは要りません。恋ですよね、それ。初恋ですか、おめでとうございます、今夜は赤飯ですね」
赤飯て何よ。よく分からない異国の料理を言わないでくれる? マイヤは博識だねえ。
マイヤに言われたことを、頭が理解するのを拒否しているのか。私は意味不明な事で思考を停止しかけた。が、マイヤの再びの手刀が現実に引き戻す。
「痛い」
「現実を直視してください。キス、されたんですよね、そのヘンラオって方に?」
「キ──!? 違う違う、キスじゃない!」
私は真っ赤になって否定した。
そうだ、あれはキスじゃない。口の真横に付いてたクリームを、舐めとっただけなのだ、あれは断じてキスじゃない!!
「唇の横だからキスじゃない!!」
「ホッペにチューだろうとなんだろうと、唇が触れたのならキスでしょうが」
「わーわーわー!!!!」
「お嬢様、煩いです。話聞きませんよ」
「ごめんなさい、聞いてください」
でもキスキス言わないで! 恥ずかしいから! 床に転がって悶えたくなるから!
「まあキスかどうかはこの際おいといて。とにかくお嬢様はそのヘンラオというかたに恋したわけですね」
「い、いやあ……恋と言えるほど、相手のことを知っているわけじゃないんだよねえ」
本当に何も知らない。顔と名前。ちょこっと話しただけで、身分も何も分からない。
だが。
どうしてか、私の頭から離れてくれないのだ。
何をしててもずっと! 頭からあのイケメンが消えないのだ!!
「私こういうの免疫ないから……そのせいで、ちょっと勘違いしているのかも」
「そうかもしれませんね」
「だよね、だよね、マイヤもやっぱりそう思うよね?」
なのにどうして私の頭から離れてくれないのだろう。
あんな短い時間での出来事だったってのに、どうして何度も私の脳内は再生をやめてくれないんだろう!?
「ですが、世の中には『一目惚れ』という言葉がありますからね。相手のことを知らなくても、好きになることだってあるでしょう」
一目惚れ。確かにそういうのは聞いた事ある。私の友人にはそういった経験者は居ないので、詳しくは知らないが。ただ、一目惚れって、伝え聞いたところによると……
「一目惚れって、長続きしないことの方が多いのでしょう?」
そう聞いた事がある。相手の事をよく知って幻滅するパターンだ。最初に激しく燃えて、あとはどんどん鎮火していくのみ……。
「そういう傾向にあるかもしれませんが、ずっとラブラブのパターンもありますよ」
「え、そうなの!?」
それは初耳!
「相手の顔重視で一目惚れが多いでしょうが、人には隠された能力がありますからねえ」
「能力?」
「第六感とか? 直感とか? 運命の相手と出会うことでそれが発揮された場合は、ずっと愛し合えるんじゃないですか?」
「なるほどお! さすがマイヤ、色々知ってるね!」
「ちなみに私の直感では、初めてお嬢様と会った時の印象は、クソ真面目で面白みのない人でした。見事にはずれましたけど」
それ、喜べばいいんでしょうかね!?
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