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6、

  

 そんなこんなでちょっといいなと思った男性も、どうでも良かった男性も、全て妹に取られてきた我が人生。ちょっと諦めモードに突入していたわけです。


 なので今回の行動も驚きはない。またか、てなものである。


 側に来たスザンナは、言いたいこと言ってからヘンラオの顔を見て。それから驚いたように目を見開くのだった。


 まあその気持ちは分かる。今まで私が出会った男性が全てキノコだったのではないかと思えるほどに、彼の顔は美しかった。息を呑むほどなんて初めてだ。私も、きっとスザンナも。


 人は顔じゃない。それは本当だ。でもやはり人は、綺麗な者に惹かれる。どんなに綺麗ごとを言ったって、心優しいゴブリンと結婚出来るかと聞かれれば99%の人はノーと答えるだろう。多分。


「君は……アデラの妹かい? 初めまして。とても可愛らしい人と出会えて嬉しいよ」


 だから。

 仕方ないのだ。


 そんな彼でさえもスザンナに惹かれるのは。


 私と違って愛らしい顔立ち、水色の儚い髪色がよく合う白い肌。細い体なのに、出るとこは出て引っ込むとこは引っ込んでいる。愛らしいのにどこか妖艶な雰囲気を醸し出す彼女に、数多の男性が夢中になる。


 分かっていた事だ、こんなの慣れっこだ。

 なのにどうしてだろう。

 この失礼なのにどこか目が離せない、人懐こい笑みを浮かべる彼が、スザンナを褒めるのを。スザンナを見る事でさえも。嫌だと思ってしまうのは。


 この感情は何なのか。


 知らない感情に動揺を禁じえない私は、ただ黙々とケーキを口にするのだった。もう何の味も感じないけれど。


「あら嬉しいですわ。貴方のように美しい方に褒めていただけるなんて」


 そう言いながらも嬉しそうに体をくねらせるスザンナ。いつもより赤みを増した頬が、より一層彼女の美しさを際立たせた。

 空気が凍るのはその直後。


「だがお姉さんの事をそんな風に言うのは、いただけないな。謝るべきじゃないかな?」


ピシッ


 凍ったのは空気かスザンナか。両方か。


 何を言われたのか分からない様子で、スザンナは固い笑みを張り付けたままで首を傾げる。


「ええっとぉ? お姉様に謝るって……スザンナ、何も悪い事してませんわ?」

「自分のことを名前で呼ぶのも、頭が悪い印象を与えるよ。やめた方がいい」


ビシビシッ


 いよいよもって空気もスザンナも、カチカチに凍り出した。


 彼女の顔から笑みが消え、プルプルと震えだす。それは怒りによる震えか。


「ええっと、ええっと~? スザ……わたくし、何を言われているのか、分かりませんわあ?」


 また自分のことを名前で言いかけて言い直すあたりは、微妙に素直ね。

 どこか他人事のように二人のやり取りを見ながら、私は完全に手が止まっていた。


 不意に、そんな私にヘンラオが視線を向けた。いきなりで私もビシッと凍ってしまう。そんな私にヘンラオは優しい笑みを──自惚れでなければ、それは仮面をかぶった作り笑いではなく、真実の笑みに見えた──向けて言う。


「アデラはとても美しい女性だよ。飾り気がないんじゃない、彼女は自分に合うものを見つけるのがうまいんだ。ゴテゴテ飾ったところでそんなものは意味がない。アデラは自分の美しさを引き立たせる術をよく分かっている」

「へ──」


 いや、ゴテゴテ飾るのが好きじゃないだけです。一応付けてるイヤリングやネックレスは、要らないと言ったのに、メイド達が無理矢理押し付けたのであって──


 という私の思いは声にならない。


「それに彼女は、とても色っぽいと思うよ」


 そう言って、スイとヘンラオは私に指を伸ばした。


 ピクリと肩が震える。

 動けない私の口元を彼は指で拭った。


「え」

「クリーム、付いてる」


 そう言って私の口元に付いたクリームを指ですくって。

 ためらうことなく、舐めたのだ。


(んなーーーーーーーーーーーーーーー!!!!)


 叫びそうになるの堪えるの、大変!!

 

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