4、
どこかに行って欲しいという私の願いもむなしく、顔を上げた彼は涙を浮かべながら言った。
「あ~面白かった」
「そうですかそれは良かったですね。それではさようなら」
彼が去らないなら、私のほうから去るまでのこと。
もう二度と会わない事を願います!
心の声は隠して、私はケーキを載せた皿を片手に、食べれる場所を求めて立ち去ろうとした。が、阻まれた。ガッシと腕掴まれて、動きを阻まれた!
「なに──」
「こっちにいい場所があるよ」
何をするんですか。
そう言おうとする私を制して、金髪の男性は私の腕を引いて歩き出すのだった。なにごと!?
※ ※ ※
「はい。ここなら誰も来ないよ」
連れて来られたのは、何のことは無い、ただのバルコニーだった。
とはいえ、貴族同士のつながりを深める、出会いのための夜会だというのに、わざわざ人気の無いバルコニーに出てくる者など居ない。
居るとしたら出会いから深まった仲の逢引きか、はたまた真面目な商談が始まった者たちなんかだが……あいにくなのか幸いなのか。今は誰も居ないようだった。まあバルコニーなんて他にもあるけど。
テーブルと椅子は設置されているものの、会場の奥に位置するせいか、簡素な飾りだけ。一応置かれたランプのロウソクが静かに揺れている。
「どうぞ、お嬢様」
どこの執事だ、とツッコミたいが、あまりに優雅な所作に見惚れてしまったのは内緒だ。どうにもこの男、イケメンすぎて眩しい。
「──ありがとうございます」
無下にするのもあれなので、素直に受け入れることにした。内心このイケメンをもう少し堪能したいと思ったのは内緒だ。いや違う、断じて違う。男は顔ではない。顔では無いのだ!
ないのだが!
「俺も座らせてもらうよ」
なんでですのん。早くパーティに戻りなさいよ。
という言葉が出ないんだなこれが!
そして話し方が変わってませんか?さっきまで『私』って言ってたのに、このギャップ! ギャップ萌え? 私を殺す気ですか!(ぐうううぅ~)
その前に私のお腹が私を愧死させようとしているようだ。穴があったら入りたい……。
「く、くく……ほら、ケーキが待ってるよ。早く食べて、あげ、なくちゃ……ぷっふふ……」
ほらあ! イケメンに笑われたじゃないかあ!
おのれ私のお腹め、私の一部のくせして恥をかかせるとはいい度胸だ! すぐにでも成敗してくれるわ!
とりあえず今は目の前のケーキよ!
そして明日からダイエットだ! 見ておれ私のお腹め、明日から減らしてやるからねえ!