34、
「あ、いえ……特に深い意味は……」
「そうか。では、この手紙については?」
そう言って、スザンナにあの手紙を見せた。ザッと一気に血の気が引くスザンナ。それはもう、全てを知ってると言っているようなものだ。
ヘンリー様は言う。
「これは私が書いたものではない。だというのに、差出人は私の名前になっている。そしてこの王印、これは確かに本物だ。王家しか使用できない本物の王印……不思議なことがあるものだ」
「あ、あの……」
「ところでスザンナ」
「は、はい!?」
「この手紙、君が直接アデラに渡したそうだな。どこで手に入れた? 誰から受け取った? それとも──これを用意したのは……」
「ち、違うんです!」
「うん? 何が違う?」
何をしたか正直に言うなんて、思ってもいない。だが、ヘンリー様が次に出す言葉を察したスザンナは、当然のように必死で言い訳を始めるのだった。
「そ、それは私じゃなくてトラドスが……!」
「スザンナ、何を!」
蒼白な顔でスザンナを止めようとするトラドスだったが、ヘンリー様がギロリと睨んだら動きを止めて黙った。黙るしか無かった。
「トラドスがなんだって?」
「と、トラドスが……やったんです」
チラリとトラドスを見て、一瞬逡巡するスザンナ。懇願するような目を向けるトラドス。
だがスザンナに良心を期待するだけ無駄なのだ。
スザンナは一瞬目を閉じてから、開いて意を決した目でヘンリー様を見た。そして口を開く。
「トラドスが言ったんです、王印を盗んで手紙を作ろうって。お姉様とヘンリー様の婚約を無しにして、私とヘンリー様が婚約出来るようにしようと。思わせぶりな手紙を受け取れば、お姉様はきっと自暴自棄になるはず。仕事もまともにこなせないような姉との結婚なんて、無しになるだろうって。そしたら私が改めてヘンリー様と婚約し、トラドスはお姉様と一緒になって全て安泰だって。そうトラドスが言ったんです」
「スザンナ!?」
たまらず叫ぶトラドスだったが、ヘンリー様はそれを完全に無視した。
「トラドスが王印を盗んだと?」
「は、はい……」
「王が大事に保管している王印を? トラドスごときが?」
確かにおかしい。トラドスなんて、まともに王宮にも行かない。彼の父親である侯爵にしてもそうだ。だというのに、どうやってそんな重要な物を盗めたのだろう?
その辺の言い訳を考えてなかったのか、スザンナが明らかに『まずい』という表情をした。その顔を見ればピンとくる。きてしまった。
──非常に嫌な想像が、私の脳内を駆け巡る。
まさか。
まさか、あの人が……。
脳内に浮かぶある人物。
そうとしか考えられない、人物が一人。
表面上は仕事が出来る男。なので王に近付くことも多いあの人。王印の場所を調べてコッソリ盗む、なんてことも出来る可能性がある……
「スザンナ?」
まさにその時だった。脳内に浮かんだ人物がその場に現れたのだ。
「お、お父様……」
泣きそうな目でスザンナがその人を見る。
そう、公爵家が当主。
ボルノ公爵。
その人だった。
──そして役者は揃う。