3、
眩いばかりに美しい金髪。
澄み切った空でも敵わないくらいに青い瞳に、整った顔立ち。
健康的に焼けた肌に、正装していても分かる鍛えられた体躯。
どこをどう見ても美丈夫な存在がそこに居た。
齢18にもなれば、美形なんて飽きる程に見て来た。けれどそんな私ですら息を呑む美しさを、彼は兼ね備えていたのだ。
思わず見惚れて言葉を失っていたことに、すぐ気付けない。
「──えっと……大丈夫ですか?」
声をかけられて初めて、私は完全に彼に見入っていた事に気付く。ハッとして、慌てて視線を落とした。頭を下げる。
「し、失礼しました!」
どこの初心な娘だ……と恥ずかしくなるくらいに、私の声は震えていた。情けない様に内心叱咤するも、表にはおくびも出さない。そこはあれだ、父の代わりに様々な人間と交渉してきた経験が、表情を作る事を容易にしていた。
「いや、こちらこそ失礼した。そんなに畏まらないでいただきたい」
そう言ってもらえるのは嬉しいのだけど、今宵の夜会に誰が参加しているのかも分からない状況だ。不用意な態度は避けたい。
何より彼が醸し出す雰囲気に、私は圧倒されていた。
公爵家とはいえ、当主の父がアレだ。そして私も公爵家の影として働きだしたといっても、まだひよっこだ。海千山千の駆け引き出来るレベルになるには程遠い。
明らかに上位貴族の彼に、失礼があってはならない。
私は下げた頭をなかなか上げれずにいた。
けれどすぐに、『困ったな……』という声と共に、ポンと頭に置かれた温かくて優しい感触に、思わず顔を上げた。上げてもまだ、頭の上にはそれが乗せられている。──つまりは彼の温かな手の平が、私の頭に乗せられている。
「えっと……?」
「もう一度言いますが、そんなに畏まらないでくださいレディ。私はそんな偉い者でもありませんので」
このような場で……高貴な存在が集まる場で、『貴方は誰ですか?』なんて聞くような失礼な真似はできない。相手がどのような立場であれ、礼を尽くす、それが私のモットー。
でも相手がそれを望まないのであれば、希望に沿った対応をするのもまた礼儀というものだ。
私は頭を上げてニッコリと笑みを浮かべた。よそいきの笑みだ。
「ありがとうございます」
彼もまたニッコリと笑みを浮かべてくれたけど。私には分かる。私同様のよそいきの──仮面の笑みだ。
どんな相手にも油断は禁物。相手のことを知らないのに、信用するなかれ。
そして彼と私の縁はそれで終わるはずだった。そのはずだったのに。
「このケーキ食べたかったんでしょ? どうぞ」
すっと皿を差し出されて顔から火が出るかと思った。
そうだけど。
そうだけどお!
女性が夜会で、ケーキを喜々として食べようとしてるのとか、黙って見過ごしていただけませんかね?
とは言えない小心者の私。
顔が引きつりそうになりながらもこらえ、必死に笑みを張り付けたままで言う。
「いえ、違いま(ぐうぅぅぅ~)──せん」
否定しようとしてお腹鳴るとか! どんだけベタなの!? そして違いませんて!
何言ってんだ私ぃぃ!!
許されるなら頭を抱えて床に蹲りたい。けど流石に出来ない!
脳内で『あああああ!!』と床に転がりのたうち回りながら叫びつつ、表面上は笑顔を張り付けたままで、私は無言でお皿を受け取るのだった。
ちょっと待って。目の前の男性、肩が震えてるんですけど?
必死で笑うの我慢してるの見え見えなんですけど!?
お願い、早くどこか行ってください。
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