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27、

 

「つ、疲れた……」


 ようやく、今日やらねばならないことを全て終えた私は、棒のようになった足を引きずりながら家に辿り着いた。


 ベントル村に、我が公爵家の屋敷……別荘は無い。なので村長宅に厄介になっている。


 食事と入浴を早々に済ませた私は、村長さんとその家族に挨拶して部屋に引きこもった。体を動かしての仕事は、今日はもう終わり。でもこれから書類業務が待ち受けているのだ。


 部屋に入るとマイヤが既に待機していた。

 彼女に力ない笑みを向けて、私は机に向かう。


 心配そうな視線を感じるけど、何も言わない。


 マイヤもまた何も言わない。


 本当は休むべきなのだ。休息をほとんどとらず、睡眠時間を削り。

 この二ヶ月で私の体重はとんでもなく落ちた。ゲッソリしてると言ってもいい。


 だが休むことは許されなかった。


 村人の生活保障。

 近隣の村々との交渉。

 それらはそれなりに順調に進んでいる。

 だが治水工事の方がはかどらない。どのようにすれば上手く水の供給が行えるか。まだ終わりの見えない日照りに、川は持ちこたえられるか。


 専門家も頭を悩ます課題のようで、遅々として進まないの状況に頭が痛い。


 更に、それらにプラスしての通常業務が、私の肩を重くしていった。


 淡々とこなせる日常業務くらいは父がやってくれたら良いのだけど……本当に驚くぐらいにあの人はやらない。


 相も変わらず『私は忙しいのだ』の一点張りなのである。そのくせ何が忙しいのか、突っ込んでも曖昧な返答しか無いという。


 もうね、呆れるやら情けないやら。

 怒りを向けたところで意味はない。説得しようとしても時間の無駄。


 今は少しの時間でも無駄に出来ない状況なのだ。

 結果、私が動くのが一番早いときたもんだ。


 忙しい合間にふと思い出すのは、誰よりも大切な存在となったあの人の顔。


 ヘンリー様。


 もう、二ヶ月会っていない。まだ二ヶ月なのかもう二ヶ月なのか。

 あっという間だったのに、なんと長い時間か。


 忙しい合間に一度手紙を送った。だが返事はまだ来ない。


 この干ばつ問題は王都の方でも対応に追われてるらしい。彼もまた忙しくしているのだろう。


 会いたいと言うのは我儘というもの。そもそもそんな時間は無い。


 それでも。


「会いたいな……」


 思うのは自由、というもの。


「アデラ様……」


 誰に、とは言わずともマイヤには伝わったのだろう。困ったような、心配げな顔をまたさせてしまったことをすぐに後悔する。


「なんてね。さ、仕事仕事!」


 努めて明るく言って、私は書類と向き合うのだった。


 ガチャリと扉が開いたのはその瞬間。

 

お読みいただきありがとうございました。

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