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25、

  

「無礼は承知の上でございます、全てが終わりましたら罰は受けます! ただ、それでも今はお二人の時間を邪魔することをお許しください! お嬢様、問題が生じました!」


 かなり焦った様子で、早口にまくしたてるマイヤ。それでもなお、これまで培われたメイドの経験ゆえか、ヘンリー様に頭を下げる様は礼を保っていた。


 主と婚約者の逢瀬に乱入なんて、普通なら大問題だ。だが、罰だなんて有り得ない。マイヤがこれほどまでに慌てているのだ、それは本当に大問題なのだろう。


 慌てて立ち上がった私は、勢いのままマイヤに付いて行きそうになる。

 そして思い出す、愛しく大切な存在を。


 突然のことに目を丸くしているヘンリー様を見てから、無言で急かすマイヤを見る。


 私は深々とヘンリー様に頭を下げるのだった。


「申し訳ありません、ヘンリー様。私、急用が出来てしまいました! この埋め合わせは後日、必ず……!」

「あ、ああ。気にしないで……」


 戸惑いつつも言って下さったその言葉に、もう一度深々と頭を下げ、私は部屋を後にする。

 いや、後にしようとした。


 だが。


「あ、アデラ待って」


 急がねばならないというのに、呼び止められると立ち止まってしまうのが、恋に夢中の悲しい性よ。


 私は思わず足を止めて振り返る。

 と、視界一杯に青を認めて──


「──」

「──」


 それは一瞬のようで、永遠のような……。


 けれどそれは唐突に終わりを告げる。

 離れる温もり。


「行ってらっしゃい、アデラ」


 その言葉に背中を押されて、私は足をどうにか動かして部屋を後にした。


 ドクンドクンと心臓が煩い。


 これからのことを考えるため冷静にならなければいけないのに。


 触れた唇が、とても熱かった──


※ ※ ※


「ベントル村で暴動です!」

「暴動!?」


 部屋を出て開口一番、マイヤはそう叫んで私の腕を引く。


「村からの使いの者が来ておりますので、詳しい話はその者から聞いてください」

「え、ええ……!」


 ベントル村……領地内では、ここ数カ月、日照り続きで干ばつ問題が起きている。領地の中でも、最も被害状況が酷いと聞いていたのがベントル村だ。

 近々視察に行くつもりで居たのだけれど(10話参照)、バタバタしていたせいで、未だ行けないでいた。


 結果の暴動。

 完全なる私の失態だ。


 浮かれていた。

 好きな人が出来て、その人も私のことを好いてくれていたことを知り、すっかり浮足だっていた。

 婚約して幸せな日々を過ごしている私の日常の影で、苦しんでいる人々がのことを考えないでいた。


 なんと愚かな失態か!


 ギリと歯を食いしばったところで、事態は好転することはない。


「直ぐにベントル村に向かいます。説明は道中で聞くわ。マイヤ、準備をお願い」

「かしこまりました」


 指示をすればマイヤの行動は早い。すぐに準備に動く。


 私は村の使いの者が居る部屋へと向かう。移動中にと言ったが、準備が整うまで聞く時間はあるのだ、少しでも話をと、足早に移動する。


 が、目的の場所に着く前に、その足を止めた。止めざるをえなかった。


「スザンナ、邪魔よ、どきなさい」

「嫌です」


 目的の部屋の前。

 使者の部屋の前に、スザンナが立っている。


 ニヤニヤと……見ていると気分が悪くなりそうな、嫌らしい笑みを浮かべながら、義妹はいた。

 眉宇を潜めて、相手をする時間も惜しいと、私は彼女を強引に押しのけて扉に手をかけた。


 その時だった。


「私の言ったとおりになったでしょ?」


 ピタリと手を止め、私はスザンナを見る。


 何を言いたいのか、聞かずとも分かった。だから私はそれに反応はしない。代わりに……


「スザンナ、貴女も我が公爵家の娘ならそれらしい行動をしなさい。私はしばらく留守にします。その間のことは任せたわよ」

「んっふふ~。スザンナにお任せ☆」


 その言い方とウインクにイラッときたが、今は問答する時間も惜しい。


「……暇なら、お父様を呼んできて」


 まがりなりにも公爵家当主だ。さすがに動いてもらわねば手が回らないというもの。


 だが、私はまだ家族に何かを期待していたようだ。


 ──そんなもの、裏切られることしかなかったのに。


「あ、お父様は忙しいから無理だそうです」

「は?」

「ですからあ、忙しいんです」


 忙しいって……領地の問題より、重要な案件があるというのだろうか?


 だがスザンナはニヤニヤするだけで、それ以上は教えてくれなかった。


 仕方ない、父は後回しだ。


 私はそれ以上スザンナの相手をするのは無駄と思い、今度こそ扉を開けて入るのだった。


 スザンナは、それを邪魔することは無かった──

 

お読みいただきありがとうございました。

少しでも、面白い、続きが気になる、と思ってくださいましたら、ぜひブックマークや評価をよろしくお願いします。

していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、ぜひよろしくお願いします!

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