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24、

  

「はい、そこまでー」

「「きゃああ!?」」


 不意にマイヤの声がしたかと思ったら、バシャアッという音と共に、水が降って来た! 私とスザンナの頭上から!


 思わずスザンナと、悲鳴がハモる。

 ななな、なにごと!?


 見れば、マイヤがバケツ片手に無表情──に見えるけど、若干怒ってる顔で私を見ていた。


 水の冷たさと彼女の視線が、私を現実に引き戻してくれる。


「お嬢様、洗脳されちゃ駄目ですよ。ヘンリー様が、旦那様と同じ人種だと思ってるんですか?」

「あ……」

「旦那様はさぼってお嬢様に仕事を押し付けてましたが、ヘンリー様がそんなかただと思うんですか?」


 タオル片手にズイッと顔を近づけてくるマイヤ。私はそんな彼女に……


「思わない」


 そうキッパリと答えた。


 そうだ、ヘンリー様はそんな人じゃない。どちらかといえば、仕事に手を出してきそう。むしろ、思いきり、バリバリ仕事をこなしそうな人だもの!


 実際、王城では王と王太子の仕事を、精力的に手伝っていると聞く。異国で得た独特の知識が、なかなか役立っているそうだとか。


 そんな彼が、忙しくする私に呆れることなんて……あるはずない!

 むしろ手伝ってくれるだろう。助けてくれるだろう。

 苦楽を共に出来ることだろう。


「あっぶな!!」


 言って、私はパチンと自分の頬を殴った。


 危ない危ない。危うくスザンナごときの口車に、惑わされるところだったわ!


「今日、ヘンリー様に話すわ」

「それがよろしいかと」


 私の宣言に、マイヤが満足げに頷く。


 今日、ヘンリー様に、公爵家の内情を話そう。

 ヘンリー様も、自分の素性を明かしてくれたのだ。私もちゃんと話さなくては、フェアじゃない。


 そう言えばと時計を見れば、そろそろ彼がやってくる時間だった。


「あ、いけない。ヘンリー様が来る前に、この書類だけ片付けておかないと……」


 マイヤからタオルを受け取って、顔を拭きながら慌てて机に戻る私は、完全に忘れていた。


「ちょおっとぉっ!!」


 スザンナの存在を、気持ちいいくらいに忘れていたのだった。


※ ※ ※


「お話があります!!」

「うん?」


 いつもお茶の時間帯にやってくるヘンリー様。この時間帯は、マイヤがスザンナを見張っているので平和だ。今日のスザンナはヤバそうなので、強気で──ヘッドロックでもしながら止めているかも知れない(もちろん許可しているよ。私が)。


 今日も今日とてやって来た彼と、最初は他愛無い雑談をしていたのだが。


 少しの間が生じた頃合いに、私は思い切って発言するのだった。


 力強い声に、彼も少し驚いた面持ちで見て来る。う、そうやって見つめられると、緊張するわ……。


 いつもと雰囲気の違う私に何かを感じたのか、彼は黙って手に持ったカップを置いた。

 そして横に座る私の手をギュッと握る。、まるで安心させるかのように。


「どうしたの? 何かあった?」


 ニッコリ微笑む様は……


「く、今日もイケメンか……!!」

「何言ってるんだい、アデラもイケメ……可愛いよ」


 今イケメンと言いかけましたね、訂正しても遅いですよ。まあ褒め言葉なんでしょうからいいですけど。


 そんなこと言ってたおかげか、少し緊張がほぐれた。


 大きく息を吸って~


「吸って~」


 吸って~……


「……苦しい……」

「あっはっは!」


 笑い事じゃない! 余計な茶々入れないでください!


「ヘ~ン~リ~様ぁぁぁ」

「ごめんごめん、なんだか緊張してるようだから。空気を軽くしてあげようと思って!」

「そのお心遣いはありがたいですが、ちょっと黙って聞いててください」

「はいはい」


 軽いなあ、分かってるんだろうか。


 ええい、仕切り直しだ!


「ヘンリー様」

「なんだい、アデラ」


 んんん、イケメンんんん……!


 ──などというやり取りがしばらく続く。ええ、バカップルですよ、すみませんね!!


 これでは駄目だ、早く話さないと! 今日話すと決めたことを、明日に延ばしてはいけないと思うの。


 だから私は意を決して、口を開くのだった。


「実は公爵家の実情について──」

「アデラお嬢様!!」


 お話をー! したいのですがー!


 内心叫んだけど、邪魔が入りましたよ! もう、何なのよ!!


「マイヤ、邪魔を……」


 しないで。

 そう言おうと睨んだ私は、けれど次の言葉を呑み込んだ。


 血相変えて飛び込んできたマイヤの表情が。

 いつにない真剣な顔の彼女の表情が。


 ただごとで無いことを、告げていたから。

 

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