23、
「そんなわけでヘンリー様は私がもらいます」
そんなわけもどんなわけもない。
どういう理屈なの、それは。まったく筋が通ってないじゃない!
「ヘンリー様は物ではありません。交換とか有り得ないです」
「でもねえ、お姉様」
まだ言うか。スザンナの理不尽な主張を聞き入れる気は全くない。もう強引に部屋から追い出そうかな。
そう思って立ち上がったところで、スザンナが頬に手を当てて言うのだった。
「ヘンリー様って、仕事ばかりの女性って好きなのかしら?」
思わずピクリと体が震えて、動きを止めてしまった。
「何を──」
「まだ言ってないんでしょ、公爵家をお姉様が仕切っていること。仕事の大半をやっていること」
「そうね、言ってないわ。でも隠すつもりはないから、そのうち──」
「そのうちって、いつ?」
やけに突っ込んでくるスザンナに、私は眉宇を潜めた。
「お姉様って基本、仕事人間でしょ?これまで恋愛しなかったのも、それが理由の一つだし」
いや、それはスザンナが、私が知り合う男性を全て取って行ったからであってだね。
……と言えないのは、なぜなのか。
「今はヘンリー様が家に来て、短時間会って帰られるだけだから仕事に支障はないみたいだけど。でもそれがずっと続けられると思って?」
「それは……」
「何かあればすぐに領地を飛び回り、書類に囲まれ、寝食削って仕事をする。そんなお姉様と結婚して、ヘンリー様は幸せなのかしら?」
そんなことはない。
そう言いたいのに、なぜか私の口は動いてくれなかった。
それに気をよくしたのか、スザンナの口は止まらない。
「私なら、ヘンリー様とずっと一緒に居てあげられる。お姉様みたいに、仕事仕事で恋人を──旦那様を放っておくなんてことしないわ」
「放置なんてしてないわ。毎日会って一緒に過ごしてるもの」
「でもそれが続けられるわけないの、分かってるでしょ?」
そう言われてグッと言葉が詰まった。
最近は落ち着いた日々が続いていたけど、確かにこれまで私は多忙を極めた。
同じことを言うが、私は優秀じゃない。だからこそ、時間を費やして対処にあたるしかない。動き回るしか能がない。
結果、家を空けることも多い。
「忙しい身で、旦那様と過ごせる時間あるの? もし子供が出来たとして、それでも仕事続けられるの?」
旦那様。
子供。
婚約で浮かれていたが、その後に待っているのは『結婚生活』だ。
そうなったら、私は──
「家族を守れるの?」
守れるのだろうか。
大切な存在を。
領民を守るために必死で働いている私に、そんな余裕が生まれるのだろうか。
「お姉様は領民のため、国の為、公爵家の為、に働くことが幸せなのでしょう?」
そうだ。
公爵家はオマケだが、なにより領民のために……ひいては国のため。
どうにかしたいと奔走した。
当てにならない父では、領民は苦しむだけ。だからこそ、私が動かなくてはと必死で──
「ねえお姉様」
呆然と考え込む私の肩に、スザンナの手が触れた。
動けない私の耳に、彼女はそっと唇を近づけて。
「ヘンリー様を、わたくしにくださいな」
そう、囁くのだった──
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