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20、

  

 フンフンと鼻歌混じりで手を動かし続ける。

 目の前の机には、書類の山が所狭しと置かれていた。

 だが今の私にとっては、こんな書類はちょちょいのちょい、だ。


「フンフフーン、フフフのフ~ン♪」


 と、気持ちよく歌っていたら、人の気配を感じた。


「ちょっとそこの気持ち悪いお嬢様、こちらの書類にも目を通していただけますか?」

「最初の言葉、それ必要!?」


 メイドのマイヤに酷い言葉を投げられました! 後半の台詞だけで良くない!?


「気持ちよく歌ってただけじゃない!」


 ちゃんと仕事してるんだからいいじゃないの! と言えば、ジトッと氷の目で睨まれてしまった。ひいっ、寒い!


「ニヤニヤしながらフンフン鼻息荒いんですよ。今のお嬢様をご自身に見せてあげたいです、気持ち悪くて夢に出ることうけ合いです」

「ごめんなさい、見たくないです」

「──まあ浮かれるのも仕方ないですけどねえ」


 シュンとなって謝れば、言いすぎたと思ったのか、書類を置いたマイヤは苦笑しながらも頭を撫でてくれた。

 いや私18歳なんですが。19歳のマイヤにとって、私はまだまだお子様ですか。


「まさかヘンラオ様がヘンリー第二王子でしたとはねえ」

「そうだねえ」


 しみじみ言うマイヤに、私もしみじみと言った。


 思い出されるは数日前の王城での一件。

 まさか、ヘンラオ様が実は第二王子ヘンリー様だったなんて。

 まさかいきなり婚約となるなんて。……いきなり結婚とならなかっただけマシか?


「ビックリだわ」

「でも良かったですよ、本当に」


 おめでとうございます。

 もう何度も言ってくれた言葉を、もう一度マイヤは言って微笑んだ。

 「お茶淹れてきますね」そう言って部屋を出て行った。


 渡された書類に目を通しながらも、思い出されるのは、やはりあの日のこと。


 でもって、あれこれ思い出していると──


「うああああ!!」


 とんでもなく恥ずかしくなってきて、頭を抱えて机に突っ伏すのだった!

 これでは恋煩ってた頃と変わらないじゃないの!!!!


 好きな人に、好きだと言ってもらえた。これほど幸せなことはない。

 だがそれぞれの親の前で! 人前で! なんちゅーことを!

 浮かれていた私は、状況を……周囲が、まったく見えていなかった。


 しかもしかもだ!


 あろうことかあの男、皆の前だというのに誓いの……誓いの!


「き、キスしようとするなんて……!」


 有り得ない、有り得なさすぎる! 恥ずか死というものは本当に存在するのかもしれない。そう思ってしまった。

 さすがにそれは受け入れ難く、思わず掌底くらわしてしまったのは……忘れたい記憶だ。


 私の思わぬ攻撃で床に倒れたヘンリー様は、その後クロヴィス様から、『人前でレディになんてことするんだ!』と言って、逆エビ固めくらってたけど。


『いででで!! ギブギブ! 兄上ごめんなさい、もうしません! 人前ではもうしませんからあぁぁ……!!』


 とヘンリー様は半泣きになっていたっけ。意外に強いクロヴィス様。

 男兄弟って、身分関係なくどこも同じようなものなのかしら。私もスザンナに対してもう少し厳しく対応してもいいのかもしれない。


 などと考えてたのがいけなかったのか。


 ガチャリと扉が開いて、今考えてしまった人物が顔を覗かせた。


「おね~さま☆」


 語尾に☆つけて妹の──スザンナの登場です。一気に頭痛がしてくる。


 スザンナのことは考えてはいけない。

 奴は考えるだけで災いを持ってくる疫病神なのだから!


「スザンナ、ノックくらいしなさい」


 考えことをしてはいたけど、ノックをしてないことくらい気付いている。そもそも、スザンナがまともにノックして入ってきたことなど無いに等しい。何度も注意したのだけれど、聞きゃしないのだ、この妹は!


「んっふふ~、今お暇ですか?」


 案の定、私の注意は右から左へスルー。

 そして気持ち悪い笑みを浮かべて、そばへとやって来るのだった。


「暇に見える?」


 そう言って、私はうず高く積まれた書類の山を顎で指し示した。


「ちょおっとお話があるんですけっど~?」


 話聞け。そして見ろ、この書類の山を!


「話なら後にして。今は仕事中よ、忙しいの」

「えっとお~、スザンナお願いがあるんですぅ~」


 話! 聞け!!

 

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