2、
「お父様、スザンナ。どこで誰が聞いているかも分かりません。そのような不敬発言は控えてください」
頭痛に顔をしかめつつ、愚かな親族に苦言を呈す。だが二人には私の言葉は真っ直ぐ届かない。
「いや~だお姉様ったら。また嫉妬からの嫌味ですか? そのねじ曲がった性格どうにかなりません? だから18にもなって、未だに婚約者も居ないんですよー」
はああああああああああああああああああああああ!?!?!?
おもいっきし『あ』が連なったわ!
一体全体、お前という痛い妹の存在に対して、嫉妬ポイントがどこにあるというのか?
その空っぽのオツムか? 能天気で馬鹿でいられて羨ましいと思えと? ──思えるわけないでしょ!!
(スザンナ……貴女ね、もう少し公爵令嬢らしい振る舞いをしなくてはいけませんよ)
「お前のどこを羨めというのか。馬鹿じゃないの? ばっかじゃないの!?」
あ、心の声と出した言葉が逆だったわ。いけないいけない、うっかり。
まあわざとだけど。
私の言葉に一瞬目を丸くする妹。直後、その大きな目に、みるみるうちに涙が溜まってこぼれ落ちた。
「うわあああーん! お父様、お姉様が虐める~!!」
「アデラ! 妹を泣かせるとはなんというやつだ! お前は姉という立場を理解しているのか!?」
私に言わせれば、あなたたち二人は、公爵の立場と公爵令嬢の立場を理解しているんですか、なのですけどね。
どうせこの二人に何を言ったところで、無駄なのは分かりきっている。
ここは無視が一番だろう。他人のフリ他人のフリ。
「お腹が空きましたので、私は向こうに行ってますわ」
「アデラ、待ちなさい! まだ話は──」
話は終わりです。そもそも始まってもいません。会話の出来ない貴方達と話すことなど無いのですから。
私は真っ赤になって怒る父を完全無視して、その場を離れるのだった。
こんな一連のやり取りは日常茶飯事である。
だからか、誰も何も言ってこない。さすがに王女への不敬発言は誰も聞いてなかったようだが、それでも私達親子の様に眉宇を潜め、ヒソヒソと耳打ちする者を視界の片隅に認めては──これ以上騒ぎ立てるのはまずいというもの。
いつどこで王家関係者が聞いているかも分からない。直接でなくとも、間接的に伝わるかも分からない。
もし伝わってしまったらと考えると恐ろしい。
落ちぶれた公爵家を、ようやっとここまで盛り返したのだ。それをぶち壊されてなるものか。
そんなわけで、私は家のためにあくせく働き続けて……結果、行き遅れになりかけている。別に先ほどのスザンナの言葉がグサッときたわけではない。断じてない。だがこのまま後継者が出来ないのは、私の望むところではないのだ。
まああの能天気お花畑娘がそのうち結婚するだろうが、その子供を公爵家の後継ぎに……なんて、考えるだけで恐ろしいというもの。絶対それだけは回避せねばならない。
となるとだ。
結婚は望み薄い私としては、優秀な養子を迎え入れたいわけだ。
とはいえ、私はまだ18歳。そこまで真剣に探すつもりはまだない。
とりあえず日頃のストレス発散をすべく、まずは何か食べようかしら。
色気より食い気。だから私に婚約者は出来ないのか。
などと頭の片隅でチラリと考えてしまってから、それを振り払うべくお皿に手を伸ばすのだった。
好物のケーキに手を伸ばした時だった。横から伸びる手が視界に映る。あっと思った時にはすでに遅く、その手と私の手がぶつかってしまった。
「あ……」
「おっと失礼」
慌てて手を引っ込めると、甘く耳触りの良い低い声が耳に届いた。
声のした方を見て。
私は息が止まるかと思った……
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