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18/37

18、

  

 夜会で初めて会った時、彼はヘンラオと名乗った。


 美しい容姿に似合わず、ちょっと悪い笑みを浮かべて私をからかう。かと思えば少年のように屈託のない笑みを浮かべたりもする。

 ふと会話が途切れた時に彼を見れば、とてつもない優しい笑みで私を見ていたこともあった。

 そんな表情を目にして、胸が高鳴らないわけがない。


 苦しかった。

 嬉しかった。

 知らない感情に戸惑いながらも、幸せだった。


 出会ってから過ごした時間はわずか。けれどそんなことを感じさせないくらいに、彼との時間は濃密だったのだ。


 諦めよう。けれど忘れたくない。相反する気持ちに苦しくなった。恋とはとても苦しいものだと知った。


 そんな初めての感情を教えてくれた存在が、今目の前に。


「ヘンラ──」

「これはヘンリー様。当事者である貴方がおられないので、戸惑ってしまいましたよ」

「申し訳ないボルノ公爵、ちょっと立て込んでおりましたので。──父上、話はどこまで?」

「今、婚約の話を提案したばかりだ」

「そうですか」


 何が何だか分からない。頭の中には疑問符だらけ。


 それが今の私です。


 え、何これ。どういうこと? 誰か説明してよ。

 不安一色でキョロキョロしていたら、クロヴィス様と目が合った。相変わらず同じ微笑みを浮かべていて、説明してくれなさそうな顔だなあ。


 そう思っていたら、ニッコリ微笑まれてしまった。優しい顔で。ヘンラオ様と同じ金髪碧眼なのに、とても柔和な印象のクロヴィス様。そんな彼が立ち上がり、私に近付いてきた。


「ええっと──」

「ときにアデラ嬢、今、この話を断ろうとされて──」

「わーわーわー!!!!」


 されてました?

 と、最後まで王太子の台詞を言わせまいと、父が王太子の口を塞いだ。えええ、それ不敬にならないの?


「クロヴィス様、娘は少々混乱しております! なので今日のところは一旦帰宅してですね、後日また──」

「その必要はありませんよ」


 髪を振り乱し、汗ダラダラの父を押しのけたのはヘンラオ様。

 それから彼は、私の前に出た。ちなみに父はまだクロヴィス様の口を塞いでいる。手、のけた方がいいと思いますよお父様。


 私の前に立ったヘンラオ様は、呆然とする私に向かって(うやうや)しく腰を折るのだった。


「こんにちは、アデラ嬢。数日ぶりですね」

「ヘンラオ様、ですよね……?」


 挨拶に挨拶を返さないことを非礼と考えることも出来ず、私は確認のように問う。


 それに対して彼はニッコリと微笑む。


「この立場として会うのは初めてだね。初めましてアデラ嬢。私の名前はヘンリー、この国の第二王子です。以後お見知りおきを」


 そう言って。

 彼はそっと私の手の甲に口づけるのだった。


 ──いやちょっと待って。ものすごく待って欲しい。


 今、なんて言ったの?


「え、ヘンラオ様……」

「ヘンリーです」

「いや、ヘンラオ様ですよね」

「そんな変な名前ではありません」

「いやだってそう自分で名乗って……」


 しつこく食い下がったら、ガッシと両手を握りしめられてしまった。


 そしてズイッと顔を近づけて、彼はニ~ッコリと微笑んでもう一度言うのだった。


「私の、名前は、ヘンリー、です!!」

 

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