16、
数日が過ぎた。
相変わらず、毎日のようにお金をせびる、スザンナとトラドスの相手に疲れる日々。
相変わらず、仕事をホイホイ持ってきては、遊び呆ける父の髪をむしる日々。
そんな日々を過ごしていたら、あっという間に、王家から指定された登城日だ。
「何度も言うが、公爵家の仕事は私が取り仕切っていると王は思っている。余計なことは言うな。分かったな、アデラ?」
「分かっていますわ、お父様。もう耳にタコが出来ましたよ」
タコ焼きでも食べたい気分です。──マイヤの影響で、異国の食べ物の知識がついてしまったわ。
緊張のせいか、うまく思考が集中できない。こんなことで大丈夫だろうか。そう不安になっていたら、今の父の言葉だ。
父はさすがに何度も登城しているだけのことはあって、慣れた感じだ。とはいえ、改めての呼び出し……それも、私を伴ってということで、少なからず緊張はしているようだけれど。
緊張している状況で、言うことがそれですかと呆れてしまう。父の、公爵としてのプライドだけは、無駄に高いときたものだ。そんなに心配なら、ちゃんと仕事をすれば問題無いだろうに。そういうことには頭が働かない、駄目な父親なんです。
情けないくらいに頼りにならない父と共に、私達親子は恐る恐る国王が待つ部屋へと向かうのだった。
※ ※ ※
「おお、よく来てくれたな二人とも! 待っていたぞ!」
案内された部屋に入ると、そこには既に王が待っておられた。パーティーで何度かお会いしたこともあり、父と会話しているのも何度も見た。けれど私本人が直接関わるのは、実はこれが初めてだ。
これまで幾人もの権力者と会って来た私だが、これ程に緊張する相手はついぞ居なかった。
王はとても気さくな方だ。国のことを常に考えておられて、国民から絶大な支持を得ている。
そんな王の後継者である第一王子──王太子クロヴィス様もまた、優秀なことで有名だ。ラブラブと有名な奥方との間に、先日お子がお生まれになったばかり。実にめでたい。
まさかその王太子も同席されているとは思いもよらず、私の緊張感は否応なしに高まるのだった。
あらん限りの作法を総動員して、私は二人に挨拶をした。
が、そんな私の緊張もなんのその。
「いやあ、突然の呼び出しに驚いちゃいましたよ」
父の吐く言葉に、心の中で盛大にズッコケた。
その髪、一本残らず抜いてもいいですか!?
馬鹿父の挨拶がなんと馬鹿っぽいことか!
いくら何度会ってる相手でも! それでも! ちゃんとしてよ、せめて王に対してくらいはちゃんとしてよおぉっ!!
私の内心の叫びなど誰も気付かない。
こんな馬鹿な話し方している父に対して、王は驚くほどニコニコしているのだから……その笑顔の裏で考えておられることがなんなのか。分からなさすぎて痛い、胃が痛い!!
「して、今日はどのようなご用件でしょうか?」
普通は目上である相手の言葉を待つもの。だというのに、全てのルールというかマナーを無視して、父から話を催促してるし!
──帰ったら、マイヤに胃薬用意してもらおう。
キリキリ痛む胃を抱えながら、私はひたすら頭を下げた。とりあえず大人しくしておくのが一番平和。馬鹿父が話すたびに胃は痛むが、話を早く終わらせて帰りたい。
帰ったら、胃薬片手に父の髪をむしり取ろうと思います。